新市場の躍動、M&Aの継続、後半盛り返し:2016年半導体締め
2016年もあと僅か、新年、2017年を迎えるタイミングにて、半導体業界を取り巻く動きを振り返ってみる。本年、2016年の世界半導体販売高は前半の低迷を後半のメモリはじめ盛り返しでカバーして、2015年と同様ほぼ前年並みが見込まれている現時点である。モバイル機器の伸びの減速に端を発したIoT、wearableはじめ新市場の躍動が続いており、ここにきて自動運転など車載関係、AR/VRおよびAIの取り組みが目覚ましくなっている。M&Aの活発な動きは鳴り止むことなく、1件当たりが大型化して昨年を大きく上回る規模の勢いである。英国のEU離脱、米国大統領選挙など国際政治経済の大きな動き、そして中国の半導体業界自立化に向けた積極的な動きの継続と、様々なインパクトに見舞われたこの1年でもある。
≪2016年の動きを振り返る≫
この1年の本欄のタイトルを分類する形で以下示しており、次の7つに分けて数字は項目数である。
【世界半導体販売高】 12件
【吹きまくるM&Aの嵐】 7件
【新市場の躍動】 9件
【各社戦略転換】 7件
【最先端新製品・新技術】 4件
【グローバル市場の波動】 9件
【中国半導体業界の構築】 3件
【世界半導体販売高】 12件
米国Semiconductor Industry Association(SIA)からの定例の月次世界半導体販売高の発表を追って、以下のこの1年各月の見方となっている。それぞれ前々月についての発表であるが、総じて前半の鈍く低迷した販売高を後半の中国のスマホ、notebook需要好調が引っ張り上げた流れ、経緯である。昨年、2015年と同様にほぼ前年並みが予想されている本年の世界半導体販売高となっている。
「11月までは前年を上回る2015年半導体販売高、市場減速で厳しい情勢」 (1月)
「0.2%と僅かに減少、2015年の世界半導体販売高、慎重な2016年の読み」 (2月)
「1月の世界半導体販売高は鈍いスタート、新たな路線への動き&模索」 (3月)
「昨年から続く市場減少、2月半導体販売高と2015年最終データ」 (4月)
「3月の世界半導体販売高が5か月ぶり前月比増、一方、今後に備える動き」 (5月)
「SIA発表月次販売高、昨年7月から続く前年比減少、反転への取り組み」 (6月)
「5月の世界半導体販売高、中国が引っ張る前月比増、続く停滞基調」 (7月)
「4-6月の世界半導体販売高が1-3月比増加、後半盛り返しなるか」 (8月)
「前月から持ち直した7月半導体販売高、昨年の後追い払拭できるか」 (9月)
「前年同月比も増加、8月の世界半導体販売高、メモリで持ち直し気配」 (10月)
「米国発:史上最高の四半期販売高 & 中国半導体への警戒感増幅」 (11月)
「10月も前年比増加、年間半導体販売高予測が横這いに上方修正」 (12月)
【吹きまくるM&Aの嵐】 7件
M&A(合併と買収)の動きは本年に入っても引きも切らず、一層大型化した案件があらわれて、総額規模は昨年を大きく上回る見込みとなっている。中国の半導体業界自立化に向けた買収戦略の動きが一層活発化しているが、米国、台湾など公正取引当局の承認が進まない状況が現時点見られており、世界の政治経済の通商の壁というものが今後さらに大きくなる可能性を孕んでいる。
「M&Aの渦中の年末・年越し、買収完了の一方、続く入札駆け引き」 (1月)
「2016年早々見え始めた半導体業界M&A関連の動き、捉え方」 (1月)
「中国の半導体技術買収への懸念、高まる警戒感、様々な摩擦の兆し」 (2月)
「IoT時代の圧倒的な世界一を目指すソフトバンクのARM買収のインパクト」 (7月)
「引き続くM&A(米国のアナログ:中国のメモリ:…)およびIoT関連の動き」 (8月)
「市場構造および時代の変化を映し出すM&Aの進行継続、先行き」 (11月)
「グローバルM&Aに待った! 米国、台湾政府からの相次ぐ動き」 (12月)
【新市場の躍動】 9件
減速気味のモバイル機器の後を睨んだ新市場、新分野の取り組みは世界各市場地域で引き続き活発に行われており、IoT、wearableに加わって、AI、AR/VR、自動運転、IIoT、5Gなど多彩なキーワードのラインナップとなっている。囲碁の名人を破ったAIシステムを象徴的に、computing技術を駆使した高性能化、高度化に大きな期待がかかる現時点である。
「新しい市場、応用、そして技術に向かう嗅覚およびアプローチ」 (3月)
「次の市場driverの期待、IoTへの取り組み、突きつけられる課題」 (4月)
「人工知能、自動運転に向けたプロセッサはじめ半導体開発白熱化」 (5月)
「新しい機能性の展開に備える色合いが増すCOMPUTEX TAIPEI」 (6月)
「Hot Chipsを軸に次世代、新分野への取り組み、連携を見る」 (8月)
「便利、快適な使い勝手の飽くなき追求、高まる新市場分野開拓の波動」 (9月)
「IIoT、AI、自動運転車、5G、半導体新分野に向けた枠組み作り活発化」 (10月)
「IoTに向けた動き活発化:対抗、製品&技術、セキュリティ、連携、M&A」 (10月)
「半導体新分野、3つのイニシャルA(Auto:AR/VR:AI)での活発な動き」 (12月)
【各社戦略転換】 7件
新市場への切り換えを既存市場の充実とともに図らざるを得ない状況から、半導体各社の戦略転換が大きく進められたこの1年であり、以下のタイトルのそれぞれによく表れているところである。上記の通り、新市場には多彩なキーワードがあって、標準化、法制化対応などいろいろクリアすべきステップを要する側面がある。
「パソコン不振&スマホ鈍化の渦中、インテルの新分野軸足移行加速」 (4月)
「アップル13年ぶり減収、iPhone初の減少、加速する基軸の転換」 (5月)
「Imec Technology Forumに見るIoTはじめ新基軸への転換&重点化」 (5月)
「世の中変わった、変わらなければ、激変の環境への各社の対応続々と」 (7月)
「Intel Developer Forum(IDF)に見る10-nmファウンドリー&新分野移行」 (8月)
「スマホ発火事故の一方、半導体の伸びへの期待、激動のSamsung」 (10月)
「トップ3の動きそれぞれ:Intel 業績、Samsung 挽回、TSMC 先行」 (10月)
【最先端新製品・新技術】 4件
新市場、M&Aなどへの注目に煽られる状況が続いて、最先端新製品・新技術関係は以下の通りに留まっている。Moore's Lawに一区切りをつけて今後は新たなロードマップに向かう一方、微細化の取り組みは最大手の各陣営で凌ぎが削られて一桁ナノメートルプロセス技術を巡る動きが続いている。
「7-nmを目指すTSMCはじめ最先端の取り組み、連携、ロードマップ」 (3月)
「Moore's Law後のcomputing加速継続に向けたロードマップの取り組み」 (5月)
「絶え間ない熾烈な性能競争、スパコン「TOP500」現状模様」 (6月)
「最先端の一桁ナノメートルプロセス技術を巡る連携、展望」 (7月)
【グローバル市場の波動】 9件
世界経済の減速から始まって、英国のEU離脱、欧州でのテロそして難民問題、そしてトランプ次期大統領の予想外の勝利と、尽きることのない波動、波紋が年中続いたという受け止め方である。グローバルな半導体市場、半導体業界であり、それぞれのインパクトについて順次分析を試みている以下のタイトルとなっている。
「同時株安、原油安で始まった2016年初、半導体関係の展望、取り組み」 (1月)
「世界経済の減速の渦中、各社業績、戦略的取組み、M&Aインパクト」 (2月)
「厳しさが増す2016年の見方のなか、中国への対応、インドでの動き」 (2月)
「政治的摩擦の色合いの深まり、様々なM&A関連の激しさを増す動き」 (2月)
「今後の方向、あり方の模索 …急速な変化の中でのアプローチ」 (3月)
「東アジアの半導体業界の激動:中国のM&A、韓国vs.台湾」 (6月)
「新分野・新市場開拓に向かう現時点:規制、連携、路線構築の動き」 (9月)
「驚きの米国大統領選挙勝利、乱れてはならない半導体業界の進展」 (11月)
「熱を帯びてきた2件:10-nm SoC先陣争い、中国関連の摩擦」 (11月)
【中国半導体業界の構築】 3件
中国の動きに特化して注目させられた以下のタイトル内容である。M&Aの動き、進展はもとより、中国国内の300mm Fabがどう展開していくか。世界の新設fabの大半を占めていく中国だけに、今後注目度が高まる本分類となりそうである。
「中国での半導体生産の本格的始動、TSMCの300mm Fab、湖北省、・・」 (4月)
「中国半導体を巡る動き活発化・・・業界垂直統合、中国2社合併 etc.」 (8月)
「拡大一途の中国半導体市場の現況:国内外メーカー進出、製造装置」 (9月)
≪市場実態PickUp≫
【computing活発化】
ここのところ、そして来る新年、2017年に向けて、Artificial Intelligence(AI)はじめcomputing分野の動きが非常に活発になっているとともに、大きな期待が表わされている。
◇Advances in artificial intelligence, IoT highlight IHS Markit's global technology predictions for 2017 (12月21日付け ELECTROIQ)
→IHS Markitによる2017年技術トレンド・トップ7:
Trend #1 - Smart Manufacturing Accelerates With More Real-World Products
Trend #2 - Artificial Intelligence(AI) Gets Serious
Trend #3 - The Rise of Virtual Worlds
Trend #4 - The “Meta Cloud” Era Arrives
Trend #5 - A Revolution in New Device Formats
Trend #6 - Solar Still the Largest Source of Renewable New Power
Trend #7 - Low-Power Technologies Extend Reach to Inaccessible IoT Devices
◇Race for AI Chips Begins-CEA to open source benchmarking tools-The AI chip competition is in full swing (12月22日付け EE Times)
→deep learningが2016年のcomputing業界のagendaを引き続き引っ張っているが、来る2017年は、エキスパート曰く、Artificial Intelligence(AI) communityがdeep神経ネットワークス用の“inference”エンジンの高性能化およびパワー高効率化に向けた需要を強めていく旨。
◇Computing Got Colorful in 2016 (12月22日付け EE Times)
→2016年では、computingが活発で色彩に富んだ時季に入っている旨。以下の切り口:
VR finally works through nausea, skepticism
Race to define AI accelerator begins
Thanks for the new memories
Mobile mainstream gears up for 5G shift
【2017年のメモリ市場】
2017年に向けて注目のもう1つにメモリ市場があり、まずは、自立化に邁進する中国において展開するメモリのドラマである。
◇China's Memory Drama: Must-See in 2017 (12月19日付け EE Times)
→中国のメモリ半導体生産計画が、依然概略だけながらも2016年に注意深い業界観測筋には明らかになった旨。次に見つめているものは、Micron, Intel, Samsungなどグローバルサプライヤの中で誰が中国との技術licensing合意あるいは合弁を案出して交渉に最初に動くか、である旨。
2017年のメモリ市場全体については、IC Insightsより2016年後半からの余勢もあってか、10%増と積極的な見方が表わされている。2021年まで見渡しても比較的大きな伸びが見込まれている。
◇Memory Drives Chip Growth-IC Insights: Memory sales to hit $85B in 2017 (12月20日付け EE Times)
→IC Insightsの最新レポート。来年のメモリ半導体販売高が10%増、記録更新の$85.3 billion、増加が続いて2021年には約$110.0 billionに達すると予測する旨。価格および販売数量両方の増加から、メモリ分野は半導体販売高全体の伸びを引っ張る見込み、メモリ市場の平均年間伸長率は2016-2021年で7.3%となる予想、該期間のIC市場全体を約2.4 points上回る旨。
◇Total memory market forecast to increase 10% in 2017 (12月20日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsが来年1月にリリースするThe McClean Reportの20周年版から、メモリの予測について。
◇Memory IC market to increase 10% in 2017, says IC Insights (12月21日付け DIGITIMES)
【引き続くM&A】
2016年を締めるタイミングでもM&Aが続いており、史上最高の規模が見込まれるなか上積みが進んでいる。まずは、ARMによるhigh performance computing(HPC)の立場強化を狙うものである。
◇ARM tackles server compatibility issues with Allinea acquisition-Software compatibility has been a big problem for ARM adoption in servers and supercomputers, but the acquisition may help-ARM buys software firm for server app tools (12月16日付け CIO.com/IDG News Service)
→ARM Holdingsが、ソフトウェア開発、debuggingおよびporting toolsサプライヤ、Allinea Software(英国)を買収、Allineaは、開発者のARM-ベースサーバおよびsupercomputingシステム用のアプリ作成を支援する旨。
◇ARM Bolsters HPC Position Through Acquisition (12月20日付け EE Times)
→ARM(Cambridge, UK)が、high performance computing(HPC)用ソフトウェアtoolsの大手プロバイダー、Allinea Software(San Jose, CA)を買収、これによりHPC, machine learningおよびデータanalytics市場に向けた開発toolsの範囲が拡がるとしている旨。
amsは、ノイズ除去分野の強化に向けた買収である。
◇ams acquires digital noise cancellation technology-Ams pens agreement to buy Incus Laboratories (12月19日付け New Electronics)
→Ams(Austria)が、active noise cancellation(ANC)市場での立場拡大に向けてIncus Laboratories(英国)を買収する合意に調印の旨。
医療分野の国内大型案件、キヤノンによる東芝メディカルの買収が完了している。
◇キヤノン、東芝メディカルの買収完了、6655億円 (12月19日付け 日経 電子版)
→キヤノンが19日、東芝メディカルシステムズの買収を完了したと発表、各国当局の独占禁止法に基づく審査が完了し、保有する新株予約権を行使した旨。今年3月の買収合意時点では秋までの完了を見込んでいたが、中国当局との調整が長引いていた旨。買収額は6655億円。キヤノンにとって過去最大の買収案件となる旨。主力事業のカメラと複合機の市場がいずれも成熟化しており、医療分野を商業印刷やネットワークカメラと並ぶ戦略分野と位置づける旨。
TDKが、MEMS分野で知られる米国のInvenSense買収で合意している。IoTに向けた強化が図られている。
◇TDK in Talks to Buy InvenSense (12月20日付け EE Times)
◇TDK Agrees to Pay $1.3B for InvenSense (12月21日付け EE Times)
→TDK社が、inertialおよびマイクロフォンMEMSのInvenSense社(San Jose, California)の約$1.3 billion買収に合意、高度に統合が進んだ半導体業界2016年のたぶん最後のM&Aの1つになりそうな旨。該取引は、2018年3月31日締め年度の第二四半期、2017年7-9月四半期に完了の見込み、InvenSenseはTDKの完全子会社となる旨。
◇Japan's TDK to buy U.S. chip maker InvenSense for $1.3 billion-InvenSense agrees to $1.3B purchase by TDK (12月21日付け Reuters)
◇TDK to acquire InvenSense for US$1.3 billion (12月21日付け DIGITIMES)
◇TDK、米センサ買収、1500億円、脱スマホ依存目指す (12月22日付け 日経)
→TDKが21日、米国のセンサメーカー、インベンセンス(カリフォルニア州)を買収すると発表、約13億ドル(約1572億円)を投じて発行済みの全株式を取得する旨。モノが回転する動きを検出するジャイロセンサーなどを製品群に加え、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」分野を強化、スマートフォンに偏った収益構造を見直す旨。
【Green500でもNvidia】
最もエネルギー消費効率の良いスーパーコンピュータが年に2回ランキングで表わされるGreen500に注目。computing分野で先行するNvidiaが、ここでも以下の通り1位、2位を占めて生きの良いところを見せている。
◇Green Computing: GPUs Strike Back-Top-ranked green supercomputers use GPUs (12月19日付け Semiconductor Engineering)
→ともにNvidiaのTesla P100 graphics processing units(GPUs)ベースのDGX SaturnVおよびPiz Daintシステムが、Green500リストに格付けのスーパーコンピュータのトップ2である旨。該Piz Daintシステムは、NvidiaのK20xプロセッサをTesla P100半導体で置き換えて、エネルギー効率を改善できた旨。2016年11月Green500のトップ5、次の通り。…以下はシステム概要。
Green500順位 | TOP500順位 | MFLOPS/W | Site | Total Power(kW) |
1 | 28 | 9462.1 | NVIDIA Corporation | 349.5 |
…NVIDIA DGX-1, Xeon E5-2698v4 20C 2.2GHz, Infiniband EDR, NVIDIA Tesla P100 | ||||
2 | 8 | 7453.5 | Swiss National Supercomputing Centre | 1312 |
…Cray XC50, Xeon E5-2690v3 12C 2.6GHz, Aries interconnect, NVIDIA Tesla P100 | ||||
3 | 116 | 6673.8 | Advanced Center for Computing and Communication, RIKEN | 150.0 |
…ZettaScaler-1.6, Xeon E5-2618Lv3 8C 2.3GHz, Infiniband FDR, PEZY-SCnp | ||||
4 | 1 | 6051.3 | National Supercomputing Center in Wuxi | 15371 |
…Sunway MPP, Sunway SW26010 260C 1.45GHz, Sunway | ||||
5 | 375 | 5806.3 | Fujitsu Technology Solutions GmbH | 77 |
…PRIMERGY CX1640 M1, Intel Xeon Phi 7210 64C 1.3GHz, Intel Omni-Path |
Nvidiaの株価にも注目、人気ぶりがあらわれている。
◇NVIDIA: The Yahoo Finance Company of the Year-Nvidia's stock price nearly triples in 2016 (12月19日付け Yahoo)
→投資家が今年、Nvidiaの株式に集まってきて、株価が1年前の約3倍になっている旨。「人々は突然の成功と考えるが、大方のそのような成功のように何年もかかっている。」と、同社CEO、Jen-Hsun Huang氏。
【中国における業界人事の動き】
Globalfoundriesの中国販売VPが辞職する動きである。
◇Globalfoundries Greater China head reportedly to leave (12月19日付け DIGITIMES)
→業界筋発。GlobalfoundriesのGreater China販売VP、Joe Chen氏が、12月20日付けで辞表を提出、2012年9月にGlobalfoundriesに入ったChen氏は、多くの主要ICメーカーからの新しい28-nm半導体受注獲得で貢献の旨。同氏の離脱は、Greater China市場におけるGlobalfoundriesの事業に何らかの意味をもたらす様相の旨。
TSMC出身者関係で2件。まずは、CEOを務めた方の中国・Tsinghua Unigroupに加わる動きであるが、まだ噂、憶測の域を脱していない表わし方となっている。
◇Ex-TSMC CEO Tsai reportedly to join Tsinghua Unigroup (12月21日付け DIGITIMES)
→Chunghwa Telecom(CHT)のchairmanおよびTSMCのCEOを務めたRick Tsai氏が、中国・Tsinghua Unigroupに加わって四川省成都市(Chengdu)での新しい12-インチウェーハ工場の設立を支援する旨。しかしながらTsinghua Unigroupは、Tsai氏と接触していないとしてこの憶測を打ち消した旨。
もう1つ、TSMCでR&D担当executive VPでco-COOを務めた方のSMICの非常勤取締役就任である。こちらはTSMCが確認している内容となっている。
◇Former TSMC senior executive becomes independent, non-executive director for SMIC (12月22日付け DIGITIMES)
→TSMCでR&Dを担った前executive VPでco-chief operating officerだったShang-yi Chiang氏が、SMICにより独立したnon-executive directorとして12月20日付けで任命された旨。Chiang氏は、TSMCでは2015年末にadvisor to the chairmanを務めたのが最後、今回の新しいpositionはnon-compete clauseを侵害しないとTSMCは特に言及している旨。
◇TSMC stalwart takes SMIC role (12月22日付け Taipei Times)
本件の分析が以下に表わされており、Samsungへの波紋も取り上げられている。
◇Commentary: Implications of former TSMC executive serving as independent director at SMIC (12月23日付け DIGITIMES)
→今回の前TSMC executiveを巡る動きは、TSMCとSMICが中国におけるそれぞれの市場を引っ張る立場をSMICの地理的優位性を用いて維持していくのに何らか協力する様相と憶測できる旨。Samsung Electronicsも、TSMCとSMICが中国市場におけるSamsungの拡大をかわすよう一緒に結びついていくことを心配し始めているところがある旨。
≪グローバル雑学王−442≫
今年の時事ワードと称して挙げるとすれば、Britainとexitを合わせた"Brexit"が入ってくると思うが、国境のない共生を目指している欧州連合(EU)からの英国の脱退の動きは、改めて「一つのヨーロッパ」を創る難しさを投げかけている。数多くヨーロッパ全域を覆う試練について、
『紛争・対立・暴力 −世界の地域から考える』
(西崎文子・武内進一 編著:岩波ジュニア新書 842) …2016年10月20日 第1刷発行
より時間軸、地域、いろいろな切り口で迫っている。文化、風習、そして食べるものも違う人々が急に入ってきて、如何に融合していくか。我々の身の回りもだんだんそうなっていくという可能性を踏まえた心構えが、求められていくところと思う。
I 亀裂と共生の間
ヨーロッパ―――試練に立つ多民族共生と人権 …文章2
・恒久平和、国境なき市場、人の自由な交流の実現により「一つのヨーロッパ」を創ろうとするEU(欧州連合)
→しかし加盟国の北と南の間には経済格差
…ギリシャを舞台とした「ユーロ危機」もその表れ
→難民の人道的受け入れ、人の自由な交流、多民族共生はいずれも、EUの理念に関わるもの
…守るための努力、協力が求められる
◆国境のない共生をめざして
・1958年に6ヶ国で始まったEEC(欧州経済共同体)
→現在では、28ヶ国のEU、人口5億人の諸国家の共同体に
…本部または政府(欧州委員会):ベルギーのブリュッセル
欧州議会:フランスのストラスブール
欧州司法裁判所:ルクセンブルク
・2002年からは共通通貨の「ユーロ」、使用国は19か国に
・EUの下でのヨーロッパは、国籍の別によって区別され、不利益を受けることのない共生の場になろうとしてきた
・EU諸国には2000万人以上と推定されるヨーロッパ外の出身者が住んでいる
…一般に「移民」
→第二次世界大戦によって、復興とその後の経済発展のため多数の外来の労働者を必要とした
→この人々がその後定住、市民としての権利が認められている場合が多くなった
・加えて、ヨーロッパ各国は、政治的・宗教的迫害を受けたり、戦火に遭った難民を受け入れてきた
→過去10年間に220万人に…アメリカ合衆国のそれの約4倍
◆西と東の経済格差、移住者が増えて
・21世紀に入りEUの加盟国は東方に大きく広がった
→多数の人々がよりよい雇用と生活を求めて、東から西の国々へ移動
…イギリスには66万人のポーランド人、イタリア、スペインにはそれぞれ100万人、80万人のルーマニア人(2012年)
→受け入れ国民の側では、短期間の大量入国に不安と戸惑い
・問題には二つの側面
→1) EU内に依然として大きな経済格差があり、これを縮める政策が不十分
2) 自由移動のヨーロッパを差別のないヨーロッパに変えるための意識改革の必要性
◆「ユーロ危機」の背後にあるもの
・「ユーロ危機」を招いた張本人の国、ギリシャ
→輝かしい古代文明の由緒ある地
→今は、国民1人当たりGDPが1万7000ドル、EU平均の46%、観光業以外に産業に恵まれない国
→国の借金、国債に頼る赤字財政になりがち
・ユーロ建てで発行される一国の国債の信用が揺らげば、ユーロそのものの信頼に影響
→欧州中央銀行(ECB)もEU、IMF(国際通貨基金)も、ギリシャの援助に乗り出さざるを得ない
→ドイツなど他の国々も2010年には資金を拠出、援助をすることに決定
◆制度の改革と意識の改革
・二つに分けるべき問題
→I ユーロという超国家の通貨制度の問題
→税制が不統一、財政運営の方針は1つではない
→EUでは国家・地域間の経済格差が大きいのに、それを縮小するための手段や制度的仕組みが不十分
→II EUの市民の間に一つの共同体に属しているという感情が弱く、国を超えての連帯意識がなかなか働かない
→EU内の国や地域の間にみられる経済格差をそのままにしておくことは許されず、その縮小は、これからのEUの最大の課題
→意識変化が進むかどうか、今後のEUの発展のカギを握る
◆「イスラム問題」という亀裂
・9・11からのイスラム過激派の攻撃テロ事件
→批判の眼が、ヨーロッパのなかに定住している移民にも
→確かに多い、国籍・出身地からみて「ムスリム」(イスラム教徒)と見なされる移民
…フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、スペインの5か国合計で約1000万人
・なぜ「反イスラム」なのか
→ヨーロッパ内外で起こったイスラム過激派のテロ行動から衝撃を受けた市民は少なくなく、移民にも動揺
→今一つ、ムスリムの移民の若者のなかから、ごく少数ながら過激派の直接行動に参加する個人が生まれている
…失業し、貧しい移民二世たちの存在
…希望をもてない若者たちが、国際的過激派集団の誘いに乗りやすい
◆試練に立つ多文化共生
・しかし、イスラムを危険視し、排除することにつながってはならない
→移民たちは、地道な生活者、共生の場を築いてきたのに、それを台無しにするような行動を進んでとることはない
→過激派の誘いに応じやすくしたのは、ヨーロッパ内での差別、失業、貧しさではなかったかという指摘と反省も
…雇用差別をなくし、平等な市民として扱うことは大切
・EUの多文化・多民族共生を脅かしかねない今一つの亀裂
→西の国々で戦後行われてきた移民・難民の受け入れと共生社会をつくる努力を共有しない、東の国々の意識の違いが明らかに
→EUは、多数に上るシリア難民を加盟諸国が分担しながら受け入れるという案をまとめたが、十分な共同歩調はとられそうにない
…厳しいヨーロッパの現状
◆EUのゆくえ――危機から何を学ぶか
・危機から学ぶべきこと
→産業を再配置、「南」と「東」の国々に雇用を増やし、国・地域の間の所得を再分配する仕組みを整える
…EU市民の意識の改革、連帯の意識を培うことの必要をユーロ危機から学んだはず
→ヨーロッパに集中するこれらの難民を、世界が分担して受け入れるよう、国際社会に訴えることは必要
…国連の責務