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半導体新分野、3つのイニシャルA(Auto:AR/VR:AI)での活発な動き

今後の半導体応用の新たな分野の開拓を巡って多くのキーワードに注目しているこのところ、そして残り少なくなった今年、2016年であるが、特に高性能computingを駆使する3つの分野、Automotive(車載)、Augmented Reality/Virtual Reality(AR/VR:拡張現実/仮想現実)、artificial intelligence(AI)、すなわち3つのイニシャルA分野での活発な動き、競い合いが目立ってきている。Nvidiaが毎年開催しているGPU開発者向けのイベント、GTC(GPU Technology Conference)が引っ張る動きを、特に受け止めている。

≪白熱する競い合い≫

まずはAutomotive(車載)分野であるが、その先行するNvidiaがこのほど、Californiaでdriverless vehiclesをテストする許可を、下記の通り得ている。自動運転車向けartificial intelligence(AI)システムの開発とあり、絡み合う3つのイニシャルA分野でもある。

◇Nvidia is now clear to test self-driving vehicles on California roads (12月8日付け TechCrunch)

◇California gives Nvidia the go-ahead to test self-driving cars on public roads-Nvidia gets OK for autonomous vehicle tests in Calif. (12月9日付け The Verge)
→Nvidiaがこのほど、Californiaでdriverless vehiclesをテストする許可を得た旨。自動運転車向けartificial intelligence(AI)システムを開発、自動運転車技術開発で中国のBaiduと協働も行っている同社は、California Department of Motor Vehiclesから同州でテストを行う承認を先週得ている旨。

自動運転車用custom system-on-a-chip(SoC)デバイスについては、Tesla Motorsが、従来のNvidiaからこんどはSamsungとのコラボという切り換えが見られている。

◇Tesla may use a bespoke system-on-chip for its autonomous cars-It's reportedly working with Samsung, which would supply Tesla with semiconductors for this chip.-Tesla, Samsung plan an SoC for self-driving cars (12月9日付け CNET)
→Tesla Motorsが、自動運転車用custom system-on-a-chip(SoC)デバイスでSamsung Electronicsとコラボ、これまでTeslaは同社Autopilotシステム向けにMobileyeおよびNvidiaの半導体を用いている旨。

米国では今後の車載運用に向けた法制化の検討が進められているが、vehicle-to-vehicle(V2V)通信技術について次の動きがあらわれてきている。

◇DoT Shifts V2V Mandate into Gear (12月14日付け EE Times)
→米国運輸省が火曜13日、vehicle-to-vehicle(V2V)技術の運用を進める規則を提案、米国が世界で初めてすべての新しい軽自動車にV2V通信を義務化する道筋となる旨。米国regulatorの該notice of proposed rulemaking(NPRM)は、車にIEEE 802.11pでも知られるdedicated short range communications(DSRC)技術を取りつける、だいぶ遅れた政治的推進を行っている旨。

Augmented Reality/Virtual Reality(AR/VR)は、NvidiaのGTCは然り、方々の展示会で数多く取り組みが披露されてきているが、Qualcommは今後の方向性を次のように表わしている。

◇Why Qualcomm believes that the future of VR and AR is mobile-Qualcomm goes all in on VR and AR (12月11日付け VentureBeat)
→Qualcommが、augmentedおよびvirtual realityの人気に賭けており、この型の媒体をサポートするプロセッサおよび技術を更新、開発している旨。
同社はVRとARがさらに密接につながるようになると見ており、「VRを包含するARが新技術として開発されて、VRとARは次第に一緒になっていく。」とプロジェクト管理vice president、Tim Leland氏。

囲碁や将棋の名人と渡り合って注目されているartificial intelligence(AI)システムであるが、先行するNvidiaなどを追うAdvanced Micro Devices(AMD)の以下アプローチである。

◇AMD Amps up its AI Play-Software suite attacks Nvidia's Cuda (12月12日付け EE Times)
→Advanced Micro Devices(AMD)が、3つのグラフィックスacceleratorsボード、4つのOEM chassisおよびオープンソースソフトウェアstackなどartificial intelligence(AI)製品一式の計画を発表、Nvidiaがしばらく前から出荷しており、Intelおよび少数のstartupsが代替を準備中の新興途上の市場に加わる旨。

◇AMD takes on Nvidia with new Radeon Instinct chips for machine learning-AMD's AI/machine learning chips challenge Nvidia (12月12日付け VentureBeat)
→Advanced Micro Devices(AMD)が、artificial intelligence(AI)およびmachine learning応用向けにgraphics processing units(GPUs)のRadeon Instinctラインを投入、高性能computing向けGPU acceleratorsに特化しているNvidiaに対抗する旨。

◇AMD chases the AI trend with its Radeon Instinct GPUs for machine learning-AMD claims the fastest will outpace Nvidia’s current Titan X Pascal card. (12月12日付け PCWorld)

韓国でもSamsungおよびSK HynixのAIシステムへの取り組みが始まろうとしている。

◇Neuromorpic Chip: Korean Semiconductor Companies to Develop Human-Like AI -Korean chipmakers aim at AI with new chips (12月15日付け BusinessKorea magazine online)
→Samsung ElectronicsおよびSK Hynixが、artificial intelligence(AI)システムを作り出す活動を強化、neuromorphic(神経派生型)プロセッサを開発している旨。韓国はbrainlike神経ネットワークリサーチおよびビッグデータ解析の領域で米国、日本および欧州に後れをとっている、と業界観測筋は見ている旨。

AIシステムでの倫理、道徳というものをどう考えて取り入れるか、IEEEでの検討が進められている。

◇AI Ethics Effort Starts at IEEE-Group targets moral issues in machine learning (12月13日付け EE Times)
→IEEEが本日、倫理をartificial intelligence(AI)を用いるシステムの設計プロセスの一部とする広範なinitiativeをキックオフ、1年以上準備している該活動は、consensus-drivenの行動につながる対話白熱を期待、すでに3つの標準化活動を生み出している旨。

以上、3つのイニシャルA分野の現下の活発な動きを見てきたが、来る新年のトレンドに以下の通り盛り込まれている。

◇These Trends Will Shape Embedded Technology in 2017-2017 trend forecast for embedded systems (12月13日付け Electronic Design)
→2017年にembedded electronicsを形成すると見込まれるhot topicsは、internet of things(IoT), artificial intelligence(AI), データストレージ, 安全およびセキュリティ, プロセッサ技術, およびaugmented/virtual reality(AR/VR)そしてadvanced driver-assistance systems(ADAS)である旨。

新年早々のラスベガスでのCES(Consumer Electronics Show)では、3つのイニシャルA分野が大きく前面にあらわれようとしている。

◇Your A List for CES 2017 (12月13日付け EE Times)
→来るConsumer Electronics Show(2017年1月5-8日:Las Vegas, NV)の大方の関心は以下の“A”リスト:
 Artificial Intelligence(AI)
 Augmented Reality/Virtual Reality(AR/VR)
 Automotive
 IoT, wearablesおよびUltra High Definition TVは、現在hot listから外れている旨。

注目の中国市場でも、半導体関連の討議テーマとしてAutomotiveが新たに登場している。

◇SEMICON China 2017 presents six forums in China's explosive growth market (12月14日付け ELECTROIQ)
→SEMICON China and FPD China(2017年3月14-16日:Shanghai New International Expo Centre)について。以下の6つのフォーラム:
 NEW: Automotive Forum
 China IC Industry Forum
 Power and Compound Semiconductor Forum
 Tech Investment Forum
 Emerging Display Forum
 IoT Forum: MSIG(MEMS & Sensors Industry Group) Conference ─ Creating and Capturing Value in the MEMS and Sensors Ecosystem


≪市場実態PickUp≫

【のし上がる中国】

第40回を迎えたセミコン・ジャパン(2016年12月14-16日:東京ビッグサイト)にてSEMIから発表される市場データから、中国の躍進ぶりを物語る2点。
まず、2016年半導体製造装置購入額について我が国を抜いて初のトップ3入りである。

◇China Enters Top Chip Equipment Spenders (12月13日付け EE Times)
→annual SEMICON Japan exhibition(東京)にてSEMIがリリースしたpressステートメント。2016年半導体製造装置購入額のトップ3が、台湾、韓国そして中国。中国は$6.7 billionの見込みで$4.8 billionの日本を追い抜いて、初めてトップ3に入る旨。

◇China to join top-3 semiconductor equipment spenders for first time, says SEMI (12月14日付け DIGITIMES)

◇半導体製造装置5兆円、2017年市場予想、中国3位入り、SEMI (12月14日付け 日経産業)
→半導体製造装置の国際業界団体、SEMI(米カリフォルニア州)が13日、2017年までの世界市場予測を上方修正、2016年は前年比8.7%増の$39.7 billion(約4兆5700億円)、2017年も9.3%伸び、$43.4 billion(約5兆円)に達すると予測した旨。地域別では2016年、2017年ともに台湾が1位、韓国が2位を維持し、3位には中国が入る見通しとなった旨。装置市場のトップ3に中国が入るのは初めて。

2017年から2020年にかけて新たに操業を始める見込みの世界の前工程拠点のうち、その42%を占める中国となっている。

◇New fab facilities: China dominates, followed by Americas and Taiwan (12月14日付け ELECTROIQ)
→SEMIが、World Fab Forecastを更新、2017年から2020年の間に62の新しいFront End拠点が操業を始める見込み、うち26が中国で世界全体の約42%、次いでAmericas地域が10、台湾が9の旨。

◇China Dominates Planned Chip Fabs-Most new fabs will be in China, SEMI says (12月15日付け EE Times)

【トランプ次期米大統領】

米国次期政権の体制が固められつつあるが、半導体業界が含まれるハイテク分野大手各社の代表と次期大統領との会合が以下の通り行われている。関係の修復を図る雰囲気が表わされている。

◇Here's How Trump Courted Sandberg, Cook, and Bezos-Trump courts tech execs in Trump Tower meeting (12月14日付け Bloomberg)
→米次期大統領、Donald Trump氏が、Facebook, Apple, Amazon, Tesla, Microsoft, AlphabetおよびIBMなどハイテク大手executivesをTrump Towerに招き2時間会合、数人の出席者は"好意的でなだめるよう"と評した旨。議論は、jobs, immigration, 通商および米中関係に及んだ旨。

◇Donald Trump Strikes Conciliatory Tone in Meeting With Tech Executives -Prominent Silicon Valley executives meet with president-elect in a high-profile summit (12月14日付け The Wall Street Journal)

◇Trump meets Silicon Valley elite after mutual mistrust in campaign (12月14日付け Reuters)

◇アップルCEOらITトップ、トランプ氏と会談 (12月15日付け 日経 電子版)

OracleのCEO、サフラ・キャッツ氏がトランプ政権移行チームに加わるとされているが、同氏は、米実業界では、財務などの実務を知り尽くした実務派の経営者としての評価が上がっており、2015年度の米実業界最高報酬の女性として知られている。

◇オラクルCEO、トランプ政権移行チーム参加 (12月16日付け 日経 電子版)
→米オラクルのサフラ・キャッツ(Safra A. Catz)共同最高経営責任者(CEO)が15日、トランプ次期米大統領の政権移行チームに加わった旨。オラクルの業務もそのまま続ける旨。キャッツ氏はもともとトランプ氏と親交があるIT業界では数少ない人物。トランプ氏の当選後に個別会談していた旨。
トランプ氏は14日にキャッツ氏を含むIT業界トップらと会合を開くなど疎遠だったIT業界との距離を縮めようと動いている旨。

【2017年展望】

2017年の市場を展望するいくつか。まずは、M&Aの進展が見込まれるグローバルシリコンウェーハ業界である。

◇Commentary: Silicon wafer industry headed for consolidation-A look at consolidation in silicon wafers (12月13日付け DIGITIMES)
→Siltronic AG(Munich)が中国の国家が支援する業界団体からの関心を引きつけており、2017年のグローバルシリコンウェーハ業界が統合期間を経ていく見込みの旨。中国は半導体メーカーの今後の伸びに向けた重要市場となっている一方、中国の現地政府は半導体の自己充足に突き進んでいく旨。semiconductor-gradeシリコンウェーハなど半導体製造分野における買収を追い求めて、2017年は中国からの買い手が増えていく見込みの旨。

今年後半からの戻し基調が続くメモリ価格の見方が表わされている。

◇NAND flash shortage to spur SSD and eMMC prices, says DRAMeXchange-DRAMeXchange: NAND flash shortage to drive up SSD, eMMC prices (12月13日付け DIGITIMES)
→DRAMeXchange発。NANDフラッシュメモリ半導体の不足から、2017年第一四半期のSSDおよびeMMCデバイス価格が前四半期比10%以上上がる見込みの旨。

◇DRAM prices set to keep rising through 2017, says DRAMeXchange (12月14日付け DIGITIMES)
→DRAMeXchange発。2016年後半に上がっているDRAM価格が、2017年も上がり続ける見込み、供給ビット伸長が20%弱と史上最低になっている旨。サプライヤは弱い需要から2016年前半は価格の急落に苦しんだが、notebook出荷の戻しと中国のスマートフォンベンダーの力強い売上げがDRAM需要を刺激、第三四半期以降メモリ価格を押し上げている旨。
2017年の半導体は5%増と、近年では強気の部類の以下の見方である。新分野が引っ張る期待となっている。

◇Chip Market Brightens in 2017-Wall Streeter predicts return to 5% growth-Analyst predicts chip sales to grow 5% in 2017 (12月14日付け EE Times)
→Deutsche BankのRoss Seymore氏予測。2017年の半導体業界販売高が、データセンター、車載electronicsおよび通信システムに入る半導体需要の高まりが引っ張って、5%増加すると見る旨。consumerおよび産業用応用は約4%の伸び、一方、PC用半導体販売高は2%減少する旨。

製造設備投資について、まだらのプラスマイナス模様があって1%増の見方と表わされている。

◇Fab Tool Biz Faces Challenges In 2017-Outlook strong for some sectors, tepid for others. Consolidation, rising costs of development could take a toll.-Fab gear: A mixed bag in the new year (12月15日付け Semiconductor Engineering)
→ファウンドリーおよび3D NANDフラッシュメーカーによる力強い投資が2017年も続く見込み、とPacific Crest Securitiesのアナリスト、Weston Twigg氏、来年の世界capital spendingを1%増の$63.9 billionと予測している旨。

【韓国市場】

政治で揺れる韓国であるが、半導体関連では、SamsungがシステムLSI事業を再編、ファブレス半導体事業を設けるという観測が以下の通りである。

◇Strengthening Foundry Business: Samsung Likely to Spin off Foundry Business Division -Samsung may reorganize its System LSI division (12月12日付け BusinessKorea magazine online)
→Samsung Electronicsが、System LSI事業部門を再編する可能性、ファウンドリー事業のスピンオフなど検討している旨。LSIおよびsystem-on-a-chip(SoC)設計/開発チームと合併、ファブレス半導体事業を設ける計画の旨。

◇Samsung Reportedly Mulls Foundry Spinoff (12月14日付け EE Times)

2大大手、SamsungとLGの連携、協調関係が進んでいる。

◇Cooperation for Global Competition: LG and Samsung Groups' Interdependence Likely to be Rising -LG, Samsung to cooperate more in IT, consumer (12月15日付け BusinessKorea magazine online)
→韓国conglomeratesの最大手2つ、Samsung GroupとLG Groupが、consumer electronicsおよびITの領域で一緒に活動している旨。Samsung Electronicsはスマートフォン用電池設計でLG Chemとコラボの一方、LG ElectronicsはSamsungからDRAMsおよびNANDフラッシュメモリデバイスを購入、そしてLG InnotekはSamsungスマートフォンの電池向けに2-metal chip-on-film実装を供給している旨。

【flexibleディスプレイ】

スマートフォンでの採用が増えて、2017年の出荷急増が見込まれるflexibleディスプレイが、以下の通り表わされている。

◇Flexible display shipments to increase sharply in 2017 (12月12日付け ELECTROIQ)
→flexibleディスプレイ技術を用いて設計を行うスマートフォンメーカーが増えて、2017年のflexibleディスプレイ出荷が、2016年から135%増、139 million台に達する見込み、IHS Markitによると、flexibleディスプレイは2017年のディスプレイ出荷台数全体の3.8%を占める見込みの旨。

◇Flexible display shipments to surge 135% in 2017, says IHS (12月12日付け DIGITIMES)

◇Growth Curve Accelerating for Flexible Displays (12月13日付け EE Times)


≪グローバル雑学王−441≫

亀裂の走る世界とどう向き合うか。いま世界各地で深刻になっている民族や宗教、経済格差などに起因する紛争や対立、暴力という問題をどう考え、どのように向き合っていけばよいのか、に焦点を当てた書、

『紛争・対立・暴力 −世界の地域から考える』
 (西崎文子・武内進一 編著:岩波ジュニア新書 842) …2016年10月20日 第1刷発行

を今回から読み進めていく。毎日のように海外での事件、動きとして目にするものの、身近には捉えにくいところがあるが、観光立国として海外からの来訪が増える一途、そして2020年には東京オリンピックを控える我が国であり、アフリカ・南スーダンへの自衛隊派遣もあって、ひしひしと迫り来る感じ方があるのも事実である。世界の各地域を専門とする研究者による8つの文章の解説にこれから目を通していく。


≪はじめに≫

・日常的に流れている「紛争・対立・暴力」をめぐるニュース
 →なにも今日にはじまったことではない
・今を去ること70年ほど前、世界は「冷戦」といわれる時代に突入
 →直接戦争となるには至らなかったが、核兵器を含む軍備の拡張が進められ、大国からその同盟国へと武器の供給
 →その中で、地域紛争が戦争へと発展、多大な犠牲
  …朝鮮戦争、ベトナム戦争、アンゴラ内戦
・「冷戦」より前の帝国主義の時代にも、ヨーロッパ列強や米国、日本などが植民地支配、同時に植民地争奪を目的とした戦争を展開
 →今日、世界のさまざまな地域の間での貧富の格差、民族間の対立、資源や国境線をめぐる紛争の背景にこの時代の遺産
・今起こっている「紛争・対立・暴力」は、過去の時代に見られたものと切り離して考えることはできない
・「紛争・対立・暴力」を如何に捉え、努力を重ねたのか、私たちの時代の
 問題との向き合い方を考え直す上で必要ないくつかの心構え
 →1)個々の事象に対する自分の感性を大事にしながら、大きな視野でものごとを捉えること
   …流れる映像に「感応」することと同時に、一歩退いて、ものごとの背景に何があるのかを理解するように
 →2)「視座」についてじっくり考えること
   …誰の目を通してものを語るのか、どのような立場でものごとを捉えるのかを意識すること
   …自分が誰の立場に身を寄せているのか、目線をどこに置いているのかを吟味することで気づくことが少なくない
 →3)メディアでよく使われる言葉や、定型化したニュース報道に疑問を持つこと
   …メディアの言葉や政府が広報に使う言い回しは、繰り返されることによって私たちの意識の中に浸透
   …その使い勝手のよさが、さまざまな問題に気づく機会を奪っていないか、立ち止まって考えてみることも大切
・この新書に収められた8つの文章 …以下の文章,ら文章
 →2015年10月の日本学術会議主催のシンポジウム「亀裂の走る世界の中で――地域研究からの問い」をもとにしている
 →2015年1月、パリの「シャルリ・エブド」社襲撃が触発
・このパリの事件にとどまらず、さまざまな亀裂の裏には、その地域の専門家でなければなかなか見えない複雑な事情が存在
 →これを解き明かさなければ、修復や和解への一歩は踏み出せない
・このシンポジウムは、地域それぞれについての理解を深め、地域相互の対話を進めていく試み
・対立や暴力を見ることは、その向こうに見える世界を考えることでも

プロローグ 引き裂かれてきたイスラム教徒の世界 …文章

◆母国で居場所を奪われたイスラム教徒
・2015年の11月13日、フランスのパリで大規模なテロ事件が発生
 →起こした犯人は、イスラムという宗教を信じる人たちのなかから
 →しかし、間違えないこと。イスラムという宗教を信じている人が危険なわけでも犯罪者であるわけでもない。
 →弱者を助けることはイスラム教徒にとって、もっとも大切な教え
・過去半世紀のあいだに、多くのイスラム教徒の命を奪う戦争が何度も起きた
 →世界のイスラム教徒のなかには、女性や子どもの命を戦争という手段で奪ってしまう欧米諸国に怒りを爆発させる人たちも
 →そこからテロリストが出てきたのは事実
・イスラム教徒が平和に暮らせるような居場所を奪われてしまったことが駆り立てた暴力
 →奪ったのは、アジアから中東やアフリカにかけての国々
  …現在まで、多くの国で民主主義が発達していない
・中東からアフリカにかけての国々の国境線を引いたのは、イギリスやフランス
 →20世紀のはじめごろ、この地域を植民地として支配するために勝手に分割
 →同じ民族の人、同じ宗教(宗派)の人びとが国境線によって分断されたまま暮らすことに
・イスラム教徒の人たちは、貧しい人、弱い立場の人をお互いに助け合うことを大切に
 →イスラム社会では、相互扶助の活動は盛んだが、逆に政府による福祉は不十分
 →大国に軍事的に守られており、政治の体制はなかなか変わらない
  …近年のエジプトの例

◆ヨーロッパでも居場所を奪われたイスラム教徒
・20世紀の半ば、1960年代、中東や北アフリカのイスラム教徒の人たちは、先進国の多いヨーロッパに移り住むように
 →第二次世界大戦で多くの若者を失ったヨーロッパ諸国
 →豊かなヨーロッパで良い暮らしをするために働きに
・1970年代の前半、家族をつれてヨーロッパに住むようになると、自分たちの生き方がヨーロッパの人たちとは違うことに気づいていく
 →暮らしている国のルールに従うことと、価値観まで同化することは別
・イスラム教徒の側も、自分たちだけでかたまって暮らすほうが気楽と感じるように
 →次第に周囲の社会から孤立へ
・中東やアフリカでの戦争の犠牲を、さまざまなメディアで目の当たりに
 →イスラム教徒は、こういうシーンに激しい怒り
・ヨーロッパにわたったイスラム教徒の人たちは、就職しようとすると、なかなか現地の人たちと平等に扱われない
・ヨーロッパ各国の人たちは、隣人であるはずのイスラム教徒たちと、ますます関係が険悪化
 →繰り返されていくうちに、「もういやだ、こんなところにいたくない」と思う若者は、当然のように増えていく

◆最悪の病としての「イスラム国」
・2003年にアメリカと有志連合が、イラクで戦争を起こし、この国を破壊
 →戦争後、選挙が行われ数の多いシーア派のイスラム教徒が勝利
・スンニー派の部族長たちは、戦争後の政治に大きな不満
 →そのなかから、おそろしく過激な集団、「イスラム国(IS)」が生まれる
 →となりのシリアも内戦のさなか、あっという間に勢力を拡大
・母国でも、ヨーロッパでも、若者たちのなかのわずかに、この集団にひかれていく人たち
 →パリでテロを起こしたのも、こういう若者たち
・いま、アメリカを中心とする有志連合は、シリアとイラクの「イスラム国」に激しい空爆
 →「イスラム国」というのは、世界のイスラム教徒たちのあいだに生まれた、これまでに例のない病気のようなもの

◆あまりに多い難民が生まれた
・シリアの内戦では、政府軍と反政府勢力が激しい戦いを始めて5年に
 →信じられないことに、反政府勢力がいるという理由だけで、無関係の市民の上にも爆弾を雨のように
・ロシア軍は、シリア政府軍の味方、反政府勢力のいる地域を激しく爆撃
 →しかし、そこには「イスラム国」はいないことが多い
・もとのシリアは、とても美しい国
 →残念なことに、円形劇場や神殿などの遺跡も「イスラム国」に支配され、世界遺産の貴重な建物が壊された
・「イスラム国」のやっていることは、とてもひどいこと
 →しかし、アメリカやロシアのミサイルは、ふつうの人たちの生活を一瞬で破壊
 →無関係の人たちの命を奪うことも許すことはできない
・この15年、世界は「テロとの戦争」に明け暮れてきたが、何ひとつ、平和になっていない
・2015年、歴史的にも最悪の人道の危機、シリアから450万人もの難民の人たち
 →EU(ヨーロッパ連合)の移動の自由を使ってどっとヨーロッパになだれこんだ
 →例のないヨーロッパ中への殺到
  …最初のうちは温かく難民を迎えていたドイツの人びとも、次第に、もう限界と訴えるように
・悲しいこと。いまの中東からヨーロッパにかけては、いくつもの深い谷によって分断されてしまったよう

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