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10月も前年比増加、年間半導体販売高予測が横這いに上方修正

米国Semiconductor Industry Association(SIA)から月次世界半導体販売高データが発表され、今回はこの10月で$30.45 billionで前月比3.4%増、前年同月比5.1%増と、今年後半に予想されている戻し基調に弾みがついている。
World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)の秋季予測も今回出されており、注目の本年販売高は$335.0 billionと2015年から0.1%減とほぼ横這いの水準に上方修正されている。世界の政治情勢が激変にもまれるなか、半導体の世界でも米中間の摩擦がくすぶり始めており、本年もあと僅かとなってきたが、全体的な推移を慎重に見守っていく必要がある。

≪10月の世界半導体販売高≫

米SIAからの発表内容が、次の通りである。

◯10月のグローバル半導体販売高が前年同月比5%増;業界予測上方修正−WSTS予測は2016年販売高フラット、2017年、2018年は控え目な増加 …12月5日付け SIAプレスリリース
半導体製造、設計および研究の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2016年10月の世界半導体販売高が$30.5 billion、前月の$29.5 billionから3.4%増、2015年10月の$29.0 billionから5.1%増と発表した。月次販売高の数値はすべてWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。加えて、WSTS業界予測の最新版は、2016年の年間半導体販売高がおおよそフラット、2017年および2018年は僅かな市場の伸びとしている。

「グローバル半導体市場はここ数ヶ月戻してきており、10月は2015年3月以来の前年比販売高増加を示している。」とSemiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、John Neuffer氏は言う。「前月比では、すべての市場地域およびほとんどすべての半導体製品カテゴリーにわたって販売高が増加している。一方、最新業界予測は上方修正され、今では2016年の年間販売高がフラット、そして2017年および2018年に小幅な増加としている。全体では業界は2016年の締めに向けて力強さを増す好位置にある。」

地域別では、前年同月比でChinaが+14.0%, Japanが+7.2%,Asia Pacific/All Otherが+1.9%, およびAmericasが+0.1%と増加したが、Europeは-3.0%と減少している。前月比では、すべての市場地域で販売高が増加、Americasが+6.5%, Chinaが+3.2%, Japanが+3.0%, Europeが+2.2%, およびAsia Pacific/All Otherが+2.0%である。

【3ヶ月移動平均ベース】

市場地域
Oct 2015
Sep 2016
Oct 2016
前年同月比
前月比
========
Americas
6.05
5.68
6.06
0.1
6.5
Europe
2.91
2.76
2.82
-3.0
2.2
Japan
2.70
2.81
2.89
7.2
3.0
China
8.58
9.47
9.78
14.0
3.2
Asia Pacific/All Other
8.75
8.74
8.91
1.9
2.0
$28.97 B
$29.46 B
$30.45 B
5.1 %
3.4 %
--------------------------------------
市場地域
5- 7月平均
8-10月平均
change
Americas
5.10
6.06
18.7
Europe
2.70
2.82
4.6
Japan
2.61
2.89
11.0
China
8.61
9.78
13.5
Asia Pacific/All Other
8.13
8.91
9.6
$27.15 B
$30.45 B
12.2 %
--------------------------------------

加えてSIAは本日、WSTSの2016年秋季グローバル半導体販売高予測を支持して発表、2016年の該業界世界販売高が$335.0 billionで2015年販売高総計から0.1%減と見通している。WSTSでは、Japanが+3.2%およびAsia Pacificが+2.5%と増加する一方、Europeが-4.9%そしてAmericasが-6.5%と減少すると見ている。主要半導体製品カテゴリーの中では、WSTSは、センサが+22.6%,ディスクリートが+4.2%, アナログが+4.8%そしてmicroprocessors(MPUs)およびmicrocontrollers(MCUs)などのMOS micro ICsが+2.3%と、2016年の伸びを予想している。


2016年より先の半導体市場は、すべての地域にわたって控え目な伸びが見込まれている。WSTSは、2017年についてグローバルに3.3%の伸び(総販売高$346.1 billion)、そして2018年について2.3%の伸び(同$354.0 billion)を予想している。WSTSは、グローバル半導体メーカーの広大なグループを招集、年に2回業界予測をまとめて表わしており、半導体の流れの正確でタイムリーな指標となる。

※10月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
http://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/October%202016%20GSR%20table%20and%20graph%20for%20press%20release.pdf

※WSTS秋季予測の概要、以下参照。
http://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/WSTS%202016%20Autumn%20Forecast.pdf
★★★↑↑↑↑↑

これを受けた業界各紙の反応である。

◇Global October chip sales increase, says SIA (12月6日付け DIGITIMES)

◇Global semicon sales to grow at modest pace in 2017 and 2018-Chip sales will grow in 2017-18, SIA says (12月6日付け The Star Online (Malaysia))

◇Global semiconductor sales increase 5% year-over-year in October (12月8日付け ELECTROIQ)

依然収まりを見せない半導体業界のM&A、ここにきて米中間の摩擦も高まっているが、SEMIよりM&A取引契約額が今年ピークに達するという見方が、以下の通り表わされている。

◇Semiconductor Mergers and Acquisitions Reach Peak (12月6日付け SEMI)
→半導体業界が成熟、多くの半導体メーカーが新たに磨いた戦略に基づいて事業、技術および製品ラインの放棄、投資あるいは充足を行っている旨。
2015年には半導体メーカーの間で$60 billionを超えるmerger and acquisition(M&A)の動きが記録され、予想される取引契約に基づくと、2016年および2017年はそれぞれ$116 billionおよび$93 billionを上回るM&Aの可能性の旨。自前の半導体supply chainを築く上での中国の戦略的興味および歴史的に安い金利も、M&Aを魅力的な選択肢にしている旨。

IC Insightsからは、このM&Aの動きが相まって、半導体サプライヤランキング(専業ファウンドリーを除く)のトップ5の占める市場シェアが今年41%に達するという見方を表わしている。

◇Five suppliers to hold 41% of global semiconductor marketshare in 2016 (12月7日付け ELECTROIQ)

◇Fab Five take 41% market share-Five companies will have 41% market share this year, says IC Insights, up from the 32% share held by the top five companies in 2006.-IC Insights: 5 chip firms hold 41% of market (12月7日付け Electronics Weekly (U.K.))

◇Top-5 semiconductor vendors to hold a combined 41% market share in 2016, says IC Insights (12月7日付け DIGITIMES)
→IC Insights発。2015年および2016年の活発なM&Aの動きが半導体業界の景観を造り直し、トップメーカーが今やずっと大きな市場シェアを握っている旨。専業ファウンドリーを除く世界の半導体サプライヤ・トップ5、Intel, Samsung, Qualcomm, BroadcomおよびSK Hynix合わせると2016年の市場シェアが41%になる旨。10年前のトップ5合計は32%シェアであり、9pp上がっている旨。

さて、本年の世界半導体販売高が昨年を上回るかどうか。足元のDRAMの市場価格の推移が次の通りであり、1つとして引き続く流れになるかどうかにかかってくる。

◇DRAM contract prices rise to US$18 in November, says DRAMeXchange (12月7日付け DIGITIMES)
→DRAMeXchange発。PC DRAMメモリの契約およびspotともに市場価格が、10月および11月に上昇、11月の主流4GBモジュール平均契約価格が前月比約2.9%高の$18の旨。一方、4Gb DDR3およびDDR4半導体のspot市場価格がそれぞれ前月比6%および2%上昇、平均$2.6および$2.53の旨。


≪市場実態PickUp≫

【IEDM(International Electron Devices Meeting)から】

この時期恒例のIEDM(International Electron Devices Meeting)(2016年12月3-7日:SAN FRANCISCO)は、さすがに一桁ナノメーターの話題に目がいくところ。目に止まった各社の取り組みである。

◇TSMC, IBM Detail 7-nm Work-Separate talks upbeat on EUV lithography (12月6日付け EE Times)
→今回のIEDMの初日、TSMCおよびIBMからの7-nmプロセス技術についてのそれぞれの論文プレゼンで満員のballroomに熱気、Moore's lawおよびextreme ultraviolet(EUV) lithographyに向かう結果が示された旨。TSMCは4月までにrisk生産化を目指すプロセスでこれまでで最小の6T SRAMを、IBMはEUVで作られたリサーチ用デバイスでこれまでで最小のFinFETをプレゼンの旨。

◇Chipmakers announce 7nm technology-Moore's Law may be slowing down, but that isn't stopping chipmakers from announcing new technology at a record pace.-IEDM brings word of 7nm process technology (12月6日付け ZDNet)
→annual International Electron Devices Meeting(San Francisco)にて、TSMCおよびGlobalFoundries, IBMとSamsung Electronicsの連合が、7-nm半導体製造プロセス開発の詳細を説明している旨。TSMCは、10-nm半導体が今四半期の間に量産に入り、来年末までに7-nm IC製造が続くとしている旨。GlobalFoundriesは、10-nmプロセスnodeを飛ばして、2018年始めまでに7-nm半導体のrisk生産に直接向かう旨。

その先のnanowire技術によるCEA-Letiの5-nm nodeへの取り組みである。

◇Leti shows the way to fabricating CMOS devices for 5nm node using nanowire technology (12月6日付け ELECTROIQ)
→CEA Techの機関、Letiが、nanowireアーキテクチャーをもって競争力のある5-nm nodeを構築するのに必要なすべての要素を業界に供給できることを示す2つの論文プレゼンを行った旨。

◇Leti's 5nm Node to Stack Si Nanowires (12月7日付け EE Times)
→CEA-Letiが、5-nm nodeに向けて有望なnanowire architecturalブロックを披露する2つの論文をプレゼンの旨。

【米中間の摩擦の火種】

前回示したドイツの半導体製造装置メーカーを中国のファンドが買収する案件であるが、Obama大統領が阻止の措置をとっている。

◇Obama Poised to Block Chinese Takeover of Germany's Aixtron-Chinese bid for Aixtron will be blocked by US (12月2日付け Bloomberg)

◇Obama Blocks China's Acquisition of Aixtron (12月3日付け EE Times)
→米国のBarack Obama大統領が金曜2日、ドイツの半導体装置サプライヤ、Aixtron SEの米国事業の中国のFujian Grand Chip Investment Fundが設けたペーパーカンパニーによる買収を、米国国家安全への脅威になるとして禁止する大統領命令を出す非常措置をとった旨。Grand Chipは、中国の中央政府が一部所有する中国の投資会社である旨。

◇Obama Blocks Chinese Bid for Technology Firm Aixtron-Move follows recommendation of Committee on Foreign Investment in the U.S. (12月3日付け The Wall Street Journal)

これについての分析が続いている。

◇Aixtron Sees Slim Path to Save China Sale After Obama Order-Aixtron may divest US unit to advance deal (12月5日付け Bloomberg)
→Equinetアナリスト、Victoria Kruchevska氏。Obama大統領のCommittee on Foreign Investment in the U.S.(CFIUS)の推奨を支持する決定は、Aixtron(Herzogenrath, Germany)が米国部門を分離すれば売れる可能性を残すし、あるいはregulatorsを納得させるlegal structure修正が行なえる旨。

◇Why China Wants U.S. Memory Chip Technology -- And What Washington Is Doing About It (12月6日付け Forbes)

中国政府からは当然の反発の反応である。

◇China appeals to U.S. to stop disrupting acquisitions (12月5日付け The Mercury News)
→Barack Obama大統領がドイツの半導体製造装置メーカーの買収をセキュリティriskから阻止する件、中国がWashingtonに対して月曜、海外corporate買収の途絶を止めるよう急ぎ求めた旨。中国のFujian Grand ChipによるAixtron SE買収提案は"純粋な市場の振る舞い"、と中国外務省spokesman, Lu Kang氏。

中国のファンドがこの買収について先に進めないとして、本件終わりとなっいる。

◇Chinese Takeover of Aixtron Collapses After U.S. Ban-President Barack Obama blocked offer for semiconductor firm on national-security grounds (12月8日付け The Wall Street Journal)

◇Chinese purchase of German tech firm fails after US block (12月8日付け Business Standard (India)/Agence France-Presse)

◇China criticizes U.S. for blocking German Aixtron deal-Aixtron acquisition is scuttled by US block (12月9日付け Reuters)
→Fujian Grand Chip Investment Fundが半導体装置サプライヤ、Aixtronの買収を米国政府により起こされた国家セキュリティの懸念から進めないとした木曜8日、Aixtronの$721 million買収提案はだめになった旨。「米国は、国家セキュリティの名において、しばしば市場および商業の原理から離れて、正規のビジネス活動に干渉している。」と中国商務部スポークスマン、Shen Danyang氏。

他にも、中国のファンドがドイツのシリコンウェーハメーカーにアプローチする動きが見られている。

◇Siltronic Said to Attract Takeover Interest From China Group-Chinese investors want big stake in Siltronic (12月2日付け Bloomberg)
→本件事情通発。国家が支援する半導体投資ファンド、中国のNationalSilicon Industry Groupが、ドイツのシリコンウェーハメーカー、Siltronic AGにおけるmajority stakeの買収に関心をもっており、いままた政治的反対に直面しそうな中国のtakeoverである旨。

これも前回示したFPGAのLattice Semiconductorに対する中国の新設ファンドによる買収の動きについて、米国議会から次の通り反対の表明が行われている。

◇Lawmakers Urge Rejection of Lattice Semi Takeover-Lattice Semi buy is opposed in Congress (12月6日付け EE Times)
→米国lawmakersの団体が、財務長官(Treasury Dept. Secretary)、Jack Lew氏宛て書簡を作成、中国の中央政府とつながる投資会社によるprogrammableロジックサプライヤ、Lattice社買収提案について、米国半導体主導性に対し脅威になるとして却下するよう督促の旨。代表のMark Pittenger氏が作成、議会メンバー22人が署名した該書簡は、Canyon Bridge PartnersによるLattice買収が"市場を歪め、革新システムを徐々に害する"と警告している旨。


【Qualcommの10-nm ARMサーバプロセッサ】

Intelが席巻するサーバプロセッサ分野に、Qualcommが、10-nm FinFETプロセスで作られた48-core半導体のサンプル配布を行って、ARMサーバSoCの巻き返しが図られている。

◇Q'comm Takes ARM Servers to 10nm-Snapdragon giant demos 48-core SoC (12月7日付け EE Times)
→Qualcommが、10-nm FinFETプロセスで作られた48-core半導体のサンプル配布を発表、次第に減少するARMサーバSoCベンダー分野でリードをとっている旨。最先端プロセスで新市場にテコ入れ、Qualcommのデータセンターグループ、general manager、Anand Chandrasekher氏は、前に在籍したIntelからの教訓を適用している旨。

◇Qualcomm's new chip may be too late as ARM server market fades-Qualcomm's Centriq 2400 server chips are based on ARM architecture, which hasn't set the server world on fire-Qualcomm goes after Intel with a server chip (12月7日付け CIO.com/IDG News Service)
→Qualcommが、サーバ用Centriq 2400プロセッサのサンプルを配布、48個のARMコアがあり、2017年後半に量産に入る旨。同社は、Intelが席巻、約90%のシェアをもつ市場を狙っている旨。

◇Qualcomm Launches The First 10nm Server Chip (12月7日付け Forbes)

◇Qualcomm Unveils Chip to Attack Intel Server Stronghold-The Centriq 2400 processor, which is shipping in sample quantities to be tested by big web services, is expected to be available broadly in the second half of 2017 (12月7日付け The Wall Street Journal)

◇Qualcomm begins commercial sampling of 10nm server chips (12月8日付け DIGITIMES)
→Qualcommが子会社、Qualcomm Datacenter Technologiesを通して、10-nmサーバプロセッサの商用サンプル配布を発表、該Qualcomm Centriq 2400シリーズは、最大48-コア、10-nm FinFETプロセス技術で作られる旨。該シリーズは、Qualcomm Falkor CPUおよび高い性能と電力効率がともに得られるよう最適化、最も共通するデータセンターworkloadsに取り組むよう設計されたQualcomm Datacenter Technologiesのcustom ARMv8-compliantコアを特徴としている旨。

【MicrosoftとQualcommのWindows 10連携】

これもIntelが席巻する領域への挑戦の趣きがあるが、MicrosoftとQualcommが連携、notebooksおよびタブレット用にWindows 10をQualcommのSnapdragonプロセッサとコンパチにしようとしている。

◇Microsoft Unveils Windows 10 for Qualcomm Chips, Hits Intel-Microsoft adapts Windows 10 for Qualcomm chips (12月7日付け Bloomberg)
→Microsoftが、notebooksおよびタブレット用にWindows 10をQualcommのSnapdragonプロセッサとコンパチにする契約を締結、それらの製品は2017年に出てくる見込み、Windows-ベース機器で席巻するIntelに挑む可能性の旨。

◇Microsoft and Qualcomm Team Up on Tablets-Partnership will result in Windows 10 update that runs on chip in Qualcomm's Snapdragon line of processors (12月7日付け The Wall Street Journal)

【TSMCの5-nm以降対応新工場】

上記のIEDMに7-nmの取り組みが示されているが、TSMCが、5-nm以降の先端node製造に向けた投資計画を表わしている。台湾政府との話し合いで進める形が表わされている。

◇TSMC to build new plant for 5nm and newer processes (12月7日付け DIGITIMES)
→台湾の科学&技術相、Yang Hung-duen氏。TSMCが、5-nm以降の先端node製造に向けた投資スケジュールの概要を表わしており、総額NT$500 billion($15.6 billion)の投資で新しい製造拠点を作る計画の旨。TSMCはYang氏のコメントに対し正式に反応していない旨。

◇Taiwan's TSMC to build $16bn advanced chip facility-World's largest contract chipmaker wants more orders from Apple, Qualcomm ahead of rivals-TSMC plans to build a $15.7B fab in Taiwan (12月7日付け Nikkei Asian Review (Japan))

◇TSMC、1.7兆円投資、次世代半導体生産へ検討 (12月8日付け 日経)
→半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が次世代品の生産に向け、5千億台湾ドル(1兆7900億円)規模の投資計画の検討に入った旨。
用地確保などに向けて台湾当局と協議を始めた旨。回路線幅を5-nm以下まで細めた半導体が対象。高い処理能力が求められるデータセンター向け需要の開拓を急ぐ旨。


≪グローバル雑学王−440≫

アフリカ、インド、東南アジアなどの国々、それもどちらかというと縁遠い地域、まさにタイトルにも"世界の隅々"と表わしてあるが、現地との融和、融合を図る尋常ではない奮闘ぶりを発揮している日本人の方々を、

『なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか』
 (布施 克彦/大賀 敏子 著:PHP新書 1055) …2016年7月29日 第一版第一刷

より追ってきたが、今回で読みおさめとなる。最後の事例は、いまや政治的大混乱の最中にあるお隣の韓国で、日本語教育により日本への留学を希望する若者のサポートに奮闘している方についてである。複雑な国民感情があるなかでの付き合い方の極意なるものが表されている。華やかな表舞台よりも世界の隅々で、地道な活動を通じて貢献する日本人を増やすことが、日本の存在感を世界で高める結果につながると締められており、今後の方向性の1つとして考えさせられる。


第10章 嫌日嫌韓を超えて

◆ソウルの山の手にて
・韓国の首都、ソウルを東西に貫く大河・漢江(ハンガン)
 →その南岸にある江南(カンナム)、1970年代以降急速に発展した地区
 →繁華な商店街を歩くと、時事日本語学院の江南キャンパスの入るビル
・当初日本語専門の出版社として韓国人が創業した時事日本語学院
 →韓国内の主要都市にキャンパスを持つ、大手の語学学校兼予備校
 →日本語教育の場として約40年の実績
・江南などソウル市内のキャンパスには、韓国人教師に混じり、30名弱の日本人講師が勤務
 →子安勇誠さんはその中のひとり、2009年より江南キャンパスで教鞭、日本人講師陣のリーダー的存在
 →昼夜にわたる幅広い指導科目の担任として、多忙な日々
・長期的かつ安定的に根強い日本への留学を希望する若者の数
 →2016年実績、時事日本語学院は250名弱の韓国人留学生を、日本の大学へ送り込んだ

◆痛快だった韓国報道陣との激論
・子安さんは、韓国系の血筋を持つ父親と、日本人の母親の間に生まれた
 →父の計らいで、義務教育課程修了後から高校二年生にかけて、ハワイのマウイ島で学生生活
 →グローバルな環境で育てたいとの思いのよう
・その後日本の大学に入って英文学を専攻、卒業後は国際電信電話会社(現在のKDDI)に就職
 →英語と言葉遣いにかかわる社員教育を担当
 →30才のとき、社内派遣の海外語学留学生に選抜され、1年間ソウル延世大学で韓国語を研修することに
 ・韓国から帰国した子安さんは、国際電信電話会社を退社、警視庁の通訳センターで捜査通訳に携わることに
 →その後テレビ朝日の報道局国際衛星担当に
 →2000年、金大中と金正日による南北首脳会談が実現、子安さんは、日本取材陣の代表衛星コーディネーターとして、韓国に出張
・そのとき、南北統一への期待一色の韓国のマスコミ陣に対し
 →子安さんは、乗り越えるべき難問は数多く、簡単に統一が進むわけがないという持論を展開
 →双方激しい議論の応酬に
・これから子安さんは、もっと韓国人と付き合って、韓国のことを研究したいと考えるように
 →家族を日本に残して単身韓国に、ソウル大学国際大学院に入学、韓国学を学ぶことに
・子安さんは卒業後も韓国に残り、大学院の夜間コースで韓日翻訳講師、並行して、時事日本語学院の講師の職も得た
 →その後は同学院の講師専任となり、現在に至る
・韓国の若者たちには今でも長幼の序が身についている
 →熱心に勉強する学生たちは、筆者のような外来者に対してもきちんと挨拶

◆韓国人との付き合い方
・韓国には、2013年10月1日現在で3万7000人弱の日本人が住んでいる
 →うち永住者は7000人弱(全体の18.5%)
 →韓国に長く住んでいる日本人の数は割に少ない
 ・日韓関係は複雑、韓流ブームが巻き起こるかと思えば、嫌日、嫌韓の気運も巻き起こる
 →しかし、子安さんは韓国での生活で、自由を満喫していた
 →子安さんは韓国の人たちと、言いたいことを言い合う。関係性を配慮して、微妙な話題を避けたりはしない。
 →日韓の間に横たわる微妙な話題であっても、構わずに相手にぶつける
・怒鳴り合った後しばし冷却期間は必要かもしれないが、相手の主張に思いを巡らし、自らの言動への反省も試みる
 →そのプロセスから相互理解が進み、新たな高みに達した友好関係が構築できる
 ・子安さんは韓国人の特徴を理解、それを実践して友好関係を広げ、この地のコミュニティに具合の良いポジションを確保

◆韓国生活はなぜ自由なのか
・子安さんは時折、日本に戻って十日も過ぎると、早く韓国に帰りたくなるという
 →日本では、話していいことと、いけないことを分けなくてはならず気疲れ
 →心のままを口に出せる韓国流に自由を感じている
・韓国人たちにとっては、決して自由な社会ではないはず
 →系譜を重んじ、階級意識を残し、儒教に基づく慣習や儀礼がいまだに色濃く残る堅苦しい社会
 →韓国人はストレスを溜め、それを怒鳴り合いで発散させる
・韓国社会には、ウリ(身内)とナム(よそ者)という概念
 →ウリの範囲は必ずしも固定的ではない。そこに韓国社会の柔軟性
 →アイデンティティを知り、その人間性を認めれば、外国人の子安さんでもウリ扱いされるように
・子安さんは夜の講義を終えた後、遅くまで営業するコーヒーショップで過ごすことが多い
 →そこでは常連客とのコミュニケーション、子安さんにとって至福の時間
 →新たな交友関係が生まれ、子安さんを招き入れるウリの世界が広がってゆく

◆嫌日を知日に変える技
・子安さんは深夜のコーヒーショップに通い始めたころ、韓国人の中高年常連客たちから、先の尖った視線
 →週二回はそのコーヒーショップに通い、常連客たちとストレートな会話を交わした
 →常連客たちは、次々と微妙な話題を投げかける。子安さんは遠慮せず、思いの丈をストレートに
 →見識が認められ、率直な性格が気に入られ、子安さんは常連客たちからウリとして迎えられた
・子安さんを慕う教え子は数多い。孫のような年齢の韓国の若者たちとも、議論を交わしながら融和していく日々
 →日本へ送り出した若者たちが、将来日韓の架け橋となり、両国関係の深化に寄与する人材となる期待

◆韓国人の二重性
・子安さんによれば、韓国人には二重性
 →嫌日の人は多いが、袈裟までは憎くない。日本の社会は嫌いだが、日本の文化が好き
 →その思いがいったん確立すれば、それをすぐには変えないし、それを人前ではっきりと公言
・激論を恐れずに、率直にぶつけ合うことが、日韓問題の解決につながるというのが、子安さんの持論
・韓国人の多くが、日本や日本人に嫌悪感を持っているのは事実。その一方、日本のよさも知っている
 →日本人が考えるように、いったん摩擦が生じても、それでサヨナラとはならないのが韓国人
 →韓国人の民族性をよく理解し、自らの実践力で韓国社会のなかに自らの立ち位置を確立した子安さん
・日本を理解する韓国の若者を増やしていく子安さんの仕事は、称賛に値するもの
 →今回子安さんとのインタビューを通して、韓国について新たに学んだことは多い
 →自らの反省も含めて、日本人はもっと韓国人とその社会を知る努力が必要

≪あとがき≫

◆グローバル人材の多様性
・アメリカ東海岸のボストンに隣接するケンブリッジ市を中心に、医学・薬学関連の研究所や企業が急速に集積
 →バイオクラスター地域
 →アメリカの領土ではあっても、無国籍の風が支配する完全なグローバル社会
 →いかに画期的な技術を開発するかが重要、国籍などのバックグラウンドはあまり関係ない
・本書に登場してきた日本人たちも、立派なグローバル人材
 →このように立派で、中身が多様なグローバル人材が、すでに世界の隅々で活躍していることを、本書を通して知ってもらいたい

◆エスニック社会で活躍するグローバル人材を増やすべし
・本書で紹介したグローバル人材は、エスニック社会に単純同化することなく、さまざまな活動を通じて周囲の人たちから慕われている
 →その社会における日本(人)の評価を高めることに貢献
 →日本の評価を高めると同時に、世界における日本の影響力を強めることに、より直接的につながっていくはず
・義務教育の段階から海外生活を体験している子どもたちは、将来グローバル人材に育つ確率が高いのに、学費の問題で日本へ帰してしまうのは、もったいない話
 →海外在住の子女たちへの、義務教育の無料化適用を、日本政府は考えてもよいのではないか
 →国内においては、多様な価値を尊重させる教育を施すことが大事だと思う
・世界を股にかけて、華やかな活動を展開するグローバル人材よりも、世界の隅々で、地道な活動を通じてエスニック社会に貢献する日本人を増やすことが、日本の存在感を世界で高める結果につながる
 →世界のエスニック社会で活動する無名の日本人たちこそが、日本の積極的平和外交の最前線を、実質的に担っている人たちだと思う

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