セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

グローバルM&Aに待った! 米国、台湾政府からの相次ぐ動き

|

依然収まらないグローバル半導体業界のM&A(企業の買収・合併)の動きについて、揺れる世界の政治経済情勢を背景とする摩擦の兆しを取り上げたばかりであるが、一呼吸もなく独占禁止、公正取引など審査する米国および台湾政府筋から待った!がかかって反対に至る案件が続いている。いずれも中国が関わる内容であり、国家5ヶ年計画に挙げて半導体業界の自立&拡大に向けてグローバルなM&Aに取り組む同国に対する警戒感が一層増幅してきている。Donald Trump次期米国大統領が台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統と電話会談という従来の殻を破る動きもあって、今後にますます注目となる。

≪承認OKに立ちはだかる国家の壁≫

この11月始めにFPGAのLattice Semiconductorが新設ファンドに買収される動きが以下の通り見られて、そのファンドは中国の投資筋が後押ししているという観測があった。

◇Lattice Semiconductor to be Acquired for $1.3 Billion (11月3日付け EE Times)
→最後の独立FPGAメーカーの1つ、Lattice Semiconductor(Portland, OR)が、新たに設立されたグローバルprivate equity buyoutファンド(Palo Alto, CA)による約$1.3 billion買収に合意の旨。これでXilinxが最後まで残る大手FPGAプレーヤーとなる旨。

◇Lattice Semiconductor to be bought by China-backed Canyon Bridge -Private equity firm puts down $1.3B for Lattice (11月4日付け Reuters)
→programmable半導体メーカー、Lattice Semiconductor(Portland, OR)が、中国出資が支援する新設private equity会社、Canyon Bridge Capital Partnersにより$1.3 billionで買収されようとしている旨。

◇China-backed Canyon Bridge buys Lattice for rupee 8,666 crore ($1.3 billion) (11月7日付け EE Times India)

このファンドは中国の中央政府からきている投資ということがわかってきて、本件は暗礁に乗り上げて米国政府筋の反対に至る可能性の展開となっている。

◇Lattice Deal May Hit A Snag (11月28日付け EE Times)
→今月始めに発表された米国半導体メーカー、Lattice Semiconductor社のCanyon Bridge Capital Partnersによる$1.3 billion買収取引が、暗礁に乗り上げる可能性の旨。Reuters、月曜28日発によると、Canyon Bridge Capital Partnersは、"中国の中央政府からのcashが一部資金であり、宇宙計画にも間接につながっており、Canyon Bridgeにおける投資は最高国家行政機関、国務院からきている"と結論づけの旨。

◇Exclusive: Chinese government money backs buyout firm's deal for U.S. chip maker-Lattice buyer was funded by China's government (11月28日付け Reuters)
→Lattice Semiconductorを買収しようとしているCanyon Bridge Capital Partnersは、中国の最高政府機関、国務院が融資しているbuyout会社、米国regulatorsが該$1.3 billion取引に反対する可能性の展開の旨。

◇Filings detail just how many suitors were courting Lattice (11月30日付け Portland Business Journal)
→Latticeには現在、Canyon Bridge Capital Partnersが$1.3 billionで買収を仕掛けており、該Canyon Bridge取引は11月3日に発表されたが、Lattice買収は、遡って2015年6月に異なる名前の公表されていない中国のfinancial buyerがアプローチして始まっている旨。

次に、ドイツの半導体製造装置メーカーを中国のファンドが買収する案件について、米国の当局が待った!をかけた以下の内容である。

◇Showdown Looms as U.S. Questions Chinese Deal for German Chip Designer-Aixtron purchase falls short on US approval (11月19日付け The New York Times)
→Committee on Foreign Investment in the United States(CFIUS)が、国家セキュリティの懸念から中国・Fujian Grand Chip Investment Fund(FGC:福建芯片投資基金)の半導体製造装置メーカー、Aixtron(ドイツ)買収認可に反対を推奨の旨。Aixtronは$710 millionでの買収に同意しているが、法制的に打ち消される一方、Barack Obama大統領がCFIUSの推奨に従うかどうか決定する旨。

これについてObama大統領は、次の通り阻止する方向に動こうとしている。

◇Obama Set to Block Acquisition of Aixtron by Chinese Firm (12月2日付け EE Times)
→Bloomberg news serviceなどのメディア報道。Barack Obama大統領が、中国の投資会社(中国・Fujian Grand Chip Investment Fundが設立したGerman shell corporation)によるドイツの半導体装置ベンダー、Aixtron SE(Herzogenrath, Germany)の買収を、米国国家セキュリティの根拠から阻止するよう金曜2日動く運びの旨。法律によってObama大統領は、CFIUS(Committee on Foreign Investment in the United States)の勧告(11月18日)から15日以内に阻止するかどうか決めなければならない旨。

最後に、台湾の実装&テストメーカー、ChipMOS Technologiesを中国のTsinghua Unigroupが買収する動きであるが、台湾政府が結局これに反対して、上海に合弁会社を設立することになった経過が以下の通りである。

◇ChipMOS shares to halt trading on November 30 (11月29日付け DIGITIMES)
→Taiwan Stock Exchange(TSE)でのcompany filingによると、実装&テストのChipMOS Technologiesが、11月30日に株式取引停止に入る旨。ChipMOSが中国のTsinghua Unigroupとの戦略的連携および株式割当契約を断とうとしているという憶測が渦巻いている旨。市場観測筋は、Tsinghua UnigroupのChipMOSそしてPowertech Technology(PTI)との取引についてともに、台湾政府からの承認が得られそうになく、さらに悲観的になっている旨。

◇UPDATE 2-Taiwan's ChipMOS scraps share sale plan to China Unigroup on regulatory uncertainty (11月30日付け Reuters)

◇ChipMOS and Tsinghua Unigroup agree to form joint-venture (11月30日付け ELECTROIQ)
→ChipMOS TECHNOLOGIES社とTsinghua Unigroup Ltd.(“Tsinghua Unigroup”)が、合弁を設立し、Tsinghua Unigroupの以前のprivate placement(私募債発行)計画を相互に終わらせる合意を発表の旨。

◇ChipMOS abandons sale of 25% stake to Tsinghua Unigroup-Taiwanese chip assembler still seeks partnership with Chinese conglomerate (11月30日付け Nikkei Asian Review (Japan))

◇ChipMOS and Tsinghua Unigroup to form joint venture in Shanghai -ChipMOS won't sell stake to Tsinghua Unigroup (11月30日付け DIGITIMES)
→台湾政府による反対に遭って、ChipMOS Technologiesは、25%のequity stakeをTsinghua Unigroupに売却する計画を放棄、代わりに両社は、上海に合弁を設立する意向の旨。ChipMOSの子会社、ChipMOS BVIが、ChipMOS Technologies (Shanghai)の54.98%をTsinghua Unigroupが率いるグループに約CNY498.4 million($77 million)で譲渡する旨。該取引完了後はChipMOS BVIはChipMOS Shanghaiの45.02%をもつ一方、Tsinghua Unigroupは子会社、Tibet Unigroup Guowei Investmentを通して48%を占める旨。

世界の政治情勢が非常に敏感の度を増すなか、半導体業界のM&Asの今後の成り行き、方向性にますます注目である。


≪市場実態PickUp≫

【Intelの新市場対応】

Intelが、internet of things(IoT)グループに向けてARM出身者を採用するとともに、自動運転グループのトップ人事を以下の通り行っている。

◇Intel Snags Exec from ARM to Run IoT-Intel separates automotive team from IoT-Intel recruits ARM exec for IoT group (11月29日付け EE Times)
→前ARM Holdingsの戦略executive vice president、Thomas Lantzsch氏が、1月にIntelにinternet of things(IoT)グループのsenior vice president and general managerとして入る旨。またIntelは、automotiveグループをIoTグループから分離しており、該IoTグループを率いて退任を予定していたDouglas Davis氏が該新automated drivingグループのトップになる旨。

◇Intel puts former ARM exec in charge of its IoT group-Tom Lantzsch will lead Intel's Internet of Things unit, with the aim of boosting the chip giant's footprint vs. his old employer. (11月29日付け ZDNet)

◇Intel Recruits ARM Executive Thomas Lantzsch to Head Connected Device Effort-Company executive Douglas Davis will lead new automated driving group (11月29日付け The Wall Street Journal)

その自動運転については、IntelはDelphi AutomotiveおよびMobileyeとのコラボを発表、Intelのプロセッサそして車載SoCが当該システムに入る計画としている。

◇Delphi, Mobileye to use Intel chip for self-driving car system (11月29日付け Reuters)

◇Intel to Team With Delphi and Mobileye for Self-Driving Cars-Intel chips to go into self-driving car system (11月29日付け The New York Times)
→Intel, Delphi AutomotiveおよびMobileyeが、自動運転車システムでコラボ、Core i7プロセッサそして後にはIntel system-on-a-chip(SoC)デバイスを取り入れる旨。DelphiおよびMobileyeは、約2年で自動運転車システムを車載メーカーに提示する計画の旨。

◇Can Intel Win Auto Brain Chip Race? (11月30日付け EE Times)

◇Is Mobileye-Intel New ‘Wintel’ of Auto? (12月2日付け EE Times/Blog)
→すでにvision processingを支配するプレーヤー、MobileyeとIntelが、自動運転に向けてどんな技術を出してくるか?そして、MobileyeのEyeQ半導体とIntelの未発表の車載SoCの間の働きの分割はどうか?


【MediaTekの動き】

台湾の半導体設計、MediaTekが、まずは中国の電気自動車メーカーへの出資を検討している。

◇MediaTek mulling investment in electric car company NextEV-Report: MediaTek may invest in EV company (11月25日付け DIGITIMES)
→MediaTekが、中国の電気自動車メーカー、NextEVに出資する意向、自動車electronics分野での事業を拡大する狙いの旨。

MediaTekもまた、来年1-3月には車載向け、それも自動運転車用統合半導体ソリューションを打ち上げるとしている。

◇MediaTek to launch family of chips for autonomous cars-MediaTek readies chips for self-driving cars (11月28日付け VentureBeat)
→MediaTekが、来年始め3ヶ月の間に自動運転車用統合半導体ラインを投入する計画、該半導体は、reconstructed vision advanced driver-assistance systems(ADASs), 高精度ミリ波レーダ, infotainmentおよびtelematics強化に用いられる旨。

◇MediaTek Entering Automobile SoCs (11月29日付け EE Times)

◇MediaTek to roll out new product line for automotive industry (11月29日付け DIGITIMES)
→MediaTekが、2017年第一四半期から車載業界向けに全体的、完全統合システムソリューションを投入する計画を発表の旨。

同社のhigh-endモバイルプロセッサ、Helio X20ファミリーについて、展開&強化が行われている。

◇MediaTek enhances deca-core chip lineup-MediaTek adds 2 chips in line of 10-core ICs (12月1日付け DIGITIMES)
→MediaTekが、同社high-endモバイルプロセッサ、Helio X20ファミリーに新たに追加、その新しいHelio X23およびX27は、該SoCファミリーの全体性能、カメラ品質および電力消費を改善、ユーザexperiencesの次のレベルを提示する旨。該新MediaTek Helio X23およびX27はまた、同社のtri-cluster deca-coreアーキテクチャー(2個のARM Cortex-A72コアおよび4個のARM Cortex-A53コア), およびMediaTekのCorePilot 3.0技術を特徴としている旨。

【RISC-V】

Google、Oracle、HPE(Hewlett Packard Enterprise)などが参加するオープンな命令セットの低消費電力RISCプロセッサを開発するRISC-V(five)は、プロセッサでのオープンなエコシステム形成が進む可能性が謳われているが、startupによる1つの具体的な前進の動きが見られている。

◇Open Source SoC Debuts-Startup releases RTL, Arduino board (11月29日付け EE Times)
→startup、SiFive(San Francisco, CA)が本日、同社最初のRISC-V-ベースSoCで動作、該半導体についてopen source RTL codeがonlineで入手できる、$59 Arduino boardの販売を開始、依然初期段階にあるopen sourceハードウェアの動きでは1つのmilestoneを印すものである旨。SiFiveは、open-source RISC-V instruction set architectureベースのFreedom Everywhere 310 system-on-a-chip(SoC)プロセッサおよび該320-megahertz, 32-bit半導体で進んでいくHiFive1ソフトウェア開発ボードを投入、該Arduinoボード価格が$59の旨。

◇SiFive launches open source RISC-V custom chip-SiFive offers RISC-V chip, development board (11月29日付け VentureBeat)

RISC-V Workshopが開催され、注目拡大の模様が表わされている。

◇RISC-V Expands its Audience-Workshop attracts chip architects, execs-RISC-V architecture gets more attention (12月1日付け EE Times)
→第5回RISC-V Workshop(2016年11月29-30日:GoogleのQuad campus[Mountain View, CA])にて。RISC-Vの動きが、半導体architectsおよびexecutivesの一層の関心をつかんでおり、academicsが植えた種子が破壊的な商用実現性に成長するかどうか見つめている旨。

【スーパーコンピュータ関係】

この11月14日にスーパーコンピュータの計算速度の世界ランキング「TOP500」が発表されたばかりであるが、まずは、我が国が改めて世界最高水準を目指す取り組みである。

◇Japan plans supercomputer to leap into technology future (11月25日付け Reuters)

◇産総研が開発するAI処理向けスパコン、世界最高水準の処理性能目指す (11月29日付け ZDNet Japan)
→日本で人工知能(AI)、機械学習研究向けに大規模なスーパーコンピュータの構築が進んでおり、産業技術総合研究所(AIST)は、「人工知能処理向け大規模・省電力クラウド基盤(AI Bridging Cloud Infrastructure:ABCI)」は100ペタフロップス以上の処理能力を約束しており、「世界最高レベルのAIの研究開発」を可能にするとしている旨。Reutersによると、日本政府は同プロジェクトに195億円を投じ、約130ペタフロップスの処理能力実現を目指す旨。

スペインでは、x86, Power9およびARM半導体を一体化したアプローチが見られている。

◇New supercomputer will unite x86, Power9 and ARM chips-Ambitious supercomputer being built at Barcelona Supercomputing Center will host a trifecta of chip architectures-ARM, Power9, x86 chips to go into supercomputer (11月30日付け CIO.com/IDG News Service)
→スペインのBarcelona Supercomputing Centerが、MareNostrum 4スーパーコンピュータを構築しており、3つの高性能computing clustersがあり、各々ARM-ベース, Power9およびx86プロセッサが入っている旨。該clustersが一緒になって、最大13.7 petaflopsのcomputing capabilityが得られる見込みの旨。

現時点我が国最速のスーパーコンピュータが、以下の通り動き始めている。

◇国内最速のスパコン始動…「京」の2.2倍 (12月2日付け YOMIURI ONLINE)
→東京大学と筑波大学は1日、計算速度が国内最高のスーパーコンピュータ「オークフォレスト・パックス(Oakforest PACS)」の運用を始めた旨。最大で1秒間に約2京5000兆回の計算ができ、理化学研究所の「京けい」(神戸市)の計算速度の約2.2倍となる旨。新しいスパコンは、富士通が超高性能な部品などを使って製作した旨。11月に発表されたスパコンの計算速度を競う世界ランキング「TOP500」では、「京」(7位)を上回り6位になった旨。

【トランプ政権への働きかけ】

このところ連日、Donald Trump次期米大統領による新体制人事、そして従来の路線をひっくり返すような発言が続いており、以下その一部である。

◇Priebus: Trump will void Cuba deal unless Castro regime moves to concessions-Obama's Cuban thaw might not last, Trump team warns (11月27日付け FoxNews.com)
→Donald Trump次期米大統領が大統領補佐官に向けて選んでいるReince Priebus氏。Barack Obama大統領のキューバとの国交回復努力が、Trump氏が就任して敏速に巻き返しになる可能性の旨。

◇トランプ次期米大統領、キューバ合意打ち切りを警告 (11月29日付け 日経 電子版)
→トランプ次期米大統領が28日、オバマ大統領がキューバと合意した国交回復を再交渉する意向を示し、より良い条件で妥結できなければ「合意を打ち切る」とツイッターに投稿した旨。トランプ氏は大統領選でキューバの人権侵害を批判、25日に死去したキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長についても「60年近く国民を虐げた野蛮な独裁者」と非難していた旨。

◇トランプ氏、米企業の国外移転警告、NAFTAは「災害」 (12月2日付け 日経 電子版)
→トランプ次期米大統領が1日、訪問先のインディアナ州で演説し、「企業はこの先、影響を伴わずに米国を離れることはないだろう」と述べ、高関税などの手段をちらつかせて米企業の海外移転を強く警告した旨。北米自由貿易協定(NAFTA)は「全くの災害」と批判し、「それは変わるだろう」と見直しの必要性を改めて示唆した旨。

このような中、半導体業界を代表する米SIAから、政策提言を説明する書簡がDonald Trump次期米大統領に送られている。Obama大統領からは、米国の半導体業界に影響を与える最重要課題を調べるために半導体ベテラングループの招集がこの10月末に行われたばかりであり、今後の成り行きに注目せざるを得ないところである。

◇SIA Urges President-Elect Trump to Support Policies that Promote Innovation (12月1日付け SIA/Blog)
→SIAが今週、Donald Trump次期米大統領に書簡を送付、米国半導体業界、アメリカの革新および経済を強化するための一連の政策提言を説明している旨。SIAの政策計画は、基礎研究への投資、pro-growth法人税改革の施行、グローバル市場への自由で公正なアクセス、アメリカのハイテクworkforceの強化および先端製造推進を求めている旨。


≪グローバル雑学王−439≫

ビルマの方がいまだ馴染み深いが、1989年に軍事政権が国名をミャンマーとしたとのこと。最近では、実質的に国を率いるアウン・サン・スー・チーさんが来日したばかりであるが、長いトンネルを抜けた経緯のこの国で長らく過ごして奮闘している日本人の3つの例について、

『なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか』
 (布施 克彦/大賀 敏子 著:PHP新書 1055) …2016年7月29日 第一版第一刷

よりそれぞれ融け合う過程を見ていく。ミャンマーの医療環境改善、少数民族への支援、そしてチーク材輸出と、それぞれの活動の中で共通することとして、時間をかけてこそ到達できる現地の人々との異文化理解というものが表わされている。


第9章 ミャンマーの闇を照らしてきた日本人たち

◆「世界の孤児」から「アジアのフロンティア」へ
・ミャンマーにて、2011年3月にテイン・セイン大統領が就任して以来、矢継ぎ早に実施された民主化政策
 →今や「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるほど世界注目の的に
・ミャンマーに進出する日本企業の数は、2011年〜2016年にかけて、それまでの6倍
 →この地に居住する日本人の数も、従来の500〜600人から2014年12月現在1367名(外務省統計)に
 →ヤンゴンの東南約20kmにあるティラワ地区の経済特区では、日本とミャンマーが共同開発する工業団地が一部造成中
・暗い時代ではあっても、この国の魅力を見抜き、その潜在能力を信じて、長くこの地の社会に溶け込んで暮らしてきた日本人たちがいる
 →アジア最後のフロンティアの先達となってきた日本人たちに会うため、2016年2月、(筆者:布施氏は)初めてミャンマーの地を訪れた

◆ミャンマーの医療環境改善に尽くす
・ミャンマーで最初に会った日本人は、小丸佳憲(こまる よしのり)さん
 →日本の医療機器メーカー、ニプロのミャンマーにおける代理店企業の代表
 →ミャンマーの医療環境改善を目指す医療コーディネーターとして、幅広く活躍
・小丸さんは、学校卒業後、外資系の船会社に勤務、ミャンマー人との接点を得る
 →1987年、38才のときに神戸の貿易商社に転職、1990年に初めてミャンマーを訪れた
 →「世界にはまだこんなところがあるのか」
  …幼い頃目に焼きつけた生まれ故郷(愛媛県)の風景に重なる
・小丸さんはその後独立、ミャンマーとの取引を中心とする貿易商社を神戸に設立
 →1995年1月の阪神・淡路大震災で、小丸さんの会社は大きな被害
 →自らが被災者の立場であるにもかかわらず、在日のミャンマー人をサポート
・このことを契機に、彼は人生転換の一大決心
 →大好きなミャンマーの人たちに囲まれて仕事をしながら、ミャンマー社会に貢献したい
 →最初は、家族を置いての単身赴任
・1995年7月、アウン・サン・スー・チーが6年に及ぶ自宅軟禁から解放
 →しかし、ミャンマーの本格的な夜明けは、その後先送りに
 →この国の将来を悲観した日本企業の多くは、ミャンマーから撤退
・小丸さんはここで踏ん張った
 →ミャンマーに来て8年、この社会にようやく自らの位置を確保し、現地の人々の信頼を得始めた時期でも

◆一時的な嫌悪感を克服する
・そんな小丸さんでも、ミャンマー人に嫌悪感を募らせた時期があった
 →しかし小丸さんは、ミャンマー人や社会の持つ長所が、短所を凌駕していると考えることでこの危機も乗り越えた
 →一時的な嫌悪感を克服、ミャンマー人とその社会を本当に理解するように
・小丸さんがこれまでに、ミャンマーの医療環境整備に尽くした功績は大きい
 →ミャンマーの医療関係者の小丸さんへの信頼は厚く、「何かあったら小丸さんに相談」となるケースが多い
・慕う人たちは、医療関係者だけにとどまらない
 →神戸で行ったさまざまな援助を、忘れないミャンマー人が大勢
 →今の小丸さんを支える大きな財産に
・小丸さんは、神戸大学へのミャンマー人留学生の保証人になったことも
 →この10年ほど、僧院におけるボランティア活動として、ミャンマーの若い人たちに、日本語や日本文化を教えている
 →ミャンマーの若い世代が、彼を慕うだけでなく、これから日本とミャンマーの関係を深める、先導者となってくれることが小丸さんの願い
・ミャンマー人の医療従事者の質と職場環境の改善にための、ソフト、ハード両面にわたる継続的サポートを、小丸さんは自らのライフワークと位置づけ

◆ミャンマーの少数民族への支援に勤しむ女性
・次に会った日本人は、和田直子さん
 →当地で合弁事業を手がける水産会社勤務の夫とともに、ふたりの男の子育て
 →しなやかな強さを感じさせる颯爽とした女性、「薩摩おごじょ」
・和田さんがミャンマーに来たのは2003年
 →同じ九州出身、当時すでにミャンマーで働いていた夫を訪ね、その後結婚、現在までヤンゴンに住む
 →ミャンマーに来る直前の2001〜2003年まで、中米のホンジュラスで音楽教育支援の活動
 →学校を出て4年間教員を務めた後、青年海外協力隊を志願
  …本来海外志向の強い人だったと想像
・ミャンマーに来て約1年間、和田さんはヤンゴンのホテルに勤務
 →その後、セセダナーというNGO組織に参加
  →ミャンマー中部の東に突き出た辺境の地、シャン州で幅広い社会貢献活動を展開
・現在彼女はセダナー唯一の日本人スタッフであると同時に、日本財団のミャンマー駐在員事務所の職員として、日々の業務に従事

◆シャン族の伝統民芸品をヤンゴンで売る
・ミャンマー各地を訪れるなか、和田さんは少数民族の女性たちの手による伝統民芸品の素晴らしさに魅せられた
 →それぞれのコミュニティ内部で、特定の用途のためにつくられているのだが、もっと多様な用途にも使えるはず
・2008年、浮かんだ具体的なアイデア
 →伝統の織物を使ったスリング(抱っこひも)づくりと、その販売
 →2011年、実際の商品づくりが始まった
 →販売する店、店名「dacco(ダッコ)」、をヤンゴン市内にオープン
 →年に一度、東京・芝の増上寺で開かれるミャンマー祭りへの出店が実現
 →一部商品のインターネットによる販売も展開
・丁寧な作業を行うことで不良品率を減らせば、より多くの報酬が得られることを生産者たちに説いた
 →理解が浸透、その結果、不良品率は改善へ
 →daccoの仕事が、少数民族の生活改善にも、つながり始めている様相
・少数民族の民生向上を目指す和田さんの仕事は地味だが、国家が直面する難問解決への貢献にもつながっている
 →まだ、接触していない数多くの少数民族による素晴らしい製品を発掘できる可能性
 →和田さんのライフワークが、今後さらに発展することを祈りたい

◆ミャンマーの主力輸出品を支えて27年
・最後に会ったのは、小畠攝治郎、一子夫妻
 →1989年にミャンマーに来て、以降27年間この地で暮らす
 →広島市に本社を置く株式会社藤本がミャンマーで展開する製材事業に、長年従事
・チーク材は、ミャンマーにとって、天然ガスや農産物、繊維と並ぶ重要な輸出品
 →この国の経済が苦境のなかにあったときも、貴重な外貨獲得源、限られた先進国技術の獲得源でも
・ミャンマーと日本の、仕事の価値観やペースの違いを調整するのも、攝治郎さんの大きな役割
 →ミャンマー人の資源を守る姿勢を尊重しながらも、一方では日本側の品質や効率性を重んじる要求にも配慮

◆「ありがとう」とは言わない、ミャンマー流の感謝表現
・小畠夫妻の長年、これほどの貢献にも拘らず、ミャンマーの人たちと深く付き合う機会があまりなかった由
 →軍政時代の特殊環境だけのことではなく、一般的にミャンマーの人たちは素っ気ない態度の人が多いという
・製材工場では現在、三百数十名のミャンマー人従業員が働き、家族を合わせると千数百名のミャンマー人の生活
 →雨季明けの毎年10月の満月の日に行われるダディンジュ(Thadingyut)は、感謝の思いを伝えるこの土地の行事
  →日常的に感謝を表す直接的な言葉はなくても、従業員たちの心を知り、日頃のストレスが癒される楽しみな日
・攝治郎さんは、現地日本人会で最も煩わしい事務局の仕事を長年引き受け
 →事務局のミャンマー人職員から、結婚式の仲人を頼まれた
  →外国人に仲人を頼むということは、ミャンマーでも異例のこと
  →小畠夫妻にはうれしい思い出に
・日頃感謝の念を口にしないミャンマー人。滅多に頭も下げないミャンマー人
 →ミャンマー人の感謝の念や敬意の表現は、ときを置いて意外な形で届けられる
 →その土地に長く住まない限り、本当の異文化理解には到達しない

◆ミャンマー人と日本人は相性が良い
・ミャンマーの人たちは、日本人に負けないくらい「おもてなし」の心を持っている
 →これからますますこの国を目指す日本人が増えることで、両国の関係がさらに親密となることを期待
 →楽観視は禁物。時には現地の人に対して上から目線の日本人がいる旨
・ミャンマー社会を理解し、ミャンマーの人たちといかに接してゆくべきか
 →長年この異文化の土地に住み、幾多の困難な山坂を乗り越え、そして社会に溶け込んだ日本人たちの経験や行動が、大切な指針となるはず

◆ティラワでの懸念
・ミャンマー滞在の最後に、ヤンゴンの東南約20km、ティラワの経済特区を見学
 →一角に、日本とミャンマーが共同開発している工業団地が造成中
・ヤンゴンとティラワを往復、ひとつの懸念
 →交通渋滞が激しく、約20kmの片道に約1時間半
 →途中にある海のように幅が広いバゴー河に架かる橋の通過に多くの時間
・これからティラワに来る日本人たちは、ミャンマー社会との接触も限られたものにならないだろうか
 →一抹の懸念が杞憂に終わることを祈りつつ、(筆者は)帰国の途に

月別アーカイブ