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トップ3の動きそれぞれ:Intel 業績、Samsung 挽回、TSMC 先行

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今年の上半期半導体サプライヤ・ランキング(ファウンドリーを含む)でも後続を大きくリードしているIntel、SamsungそしてTSMCのトップ3について、今後の半導体市場展開を見ていく上でやはりじっくり注目せざるを得ないところである。現下の動きとして、Intelは予想を上回って四半期ベース過去最高の売上高となった第三四半期業績、Samsungは新型スマートフォン発火事故で被った打撃の修復に向けて半導体新製品の打ち上げ、そしてTSMCは最先端プロセス対応先行の引き続くアプローチと、それぞれの中身、方向性を示している。慌ただしい競り合いの状況、推移を追ってみる。

≪新市場、最先端開拓のつばぜり合い≫

Intelの第三四半期業績が、以下の通り好調な内容で発表されている。データセンター、IoTなど新市場向けが引き続き大きく伸びているとともに、パソコンも戻す基調が見えている状況が寄与しているものとみられている。ただし、第四四半期の業績予想には慎重であったことから、直後の同社株価は下落している。大方の予想を大きく上回る第三四半期業績となっただけに、今後の読みには一層注意を要するところがある。

◇Intel's Earnings Rise, but Sales Outlook Disappoints -Shares slide after lackluster revenue forecast for year's final quarter (10月18日付け The Wall Street Journal)

◇Intel's results beat estimates; forecast disappoints (10月18日付け Reuters)

◇Intel's forecast dampens enthusiasm for upbeat third-quarter results (10月18日付け The Mercury News)

◇Intel has sparkling Q3-Intel earnings were up 8.7% in Q3 (10月19日付け Electronics Weekly (U.K.))
→IntelのChief Financial Officer(CFO)、Stacy Smith氏報告、同社は驚くほどの第三四半期となり、1つにはinternet of things(IoT)および半導体からearningsが8.7%増。市場tracker、iSharesは、米国半導体市場が21%増としている旨。

◇米インテル9%増益、7〜9月、非PC向け好調 (10月19日付け 日経 電子版)
→半導体最大手、米インテルが18日発表した2016年7〜9月期決算。売上高が前年同期比9%増の$15.778 billionと、四半期ベースで過去最高を更新、純利益が同9%増の$3.378 billion(約3500億円)。成長の柱と位置づけるデータセンター向け事業やあらゆるものがインターネットにつながる「IoT」向け事業が好調で、パソコン(PC)市場縮小の影響を補った旨。ただ、10〜12月期の売上高について慎重な見通しを示したことが嫌気され、株価は18日の時間外取引で一時、同日の終値に比べて5%以上、下落した旨。

◇The Intel money pit: Renovations cost more, no results in sight (10月20日付け Market Watch)
→Intelが火曜18日午後、予想を上回る第三四半期業績を発表したが、大規模な再構築に向けた費用増大およびいつもは傑出した第四四半期への予測軟化から影が薄くなっている旨。

前回の本欄でSamsungの新型スマートフォン発火事故の顛末を示したばかりであるが、続いて以下の補償対応が発表されている。

◇Samsung Elec to compensate Galaxy Note 7 parts suppliers (10月17日付け Reuters)

◇欠陥スマホ部品の在庫、全額補償、日本メーカーも対象か、サムスン (10月18日付け 中日)
→韓国のサムスン電子が18日、欠陥が判明した新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」の生産・販売停止に伴い、部品を製造する取引企業で生じた在庫について全額補償すると発表、サムスン関係者は「韓国だけでなく各国の取引企業に対応する」としており、日本の部品メーカーも対象に含まれるとみられる旨。

この打撃を修復すべく、当面好調が見込まれる半導体についてSamsungの新製品打ち上げが以下の通り続けて行われている。まずは、10-nm FinFET技術system-on-chip(SoC)製品の量産開始の発表で他社に先行するものとしている。ファウンドリー対応でTSMCに後れをとった状況があっただけに、一気に挽回をアピールする内容となっている。

◇Samsung to Ship 10nm SoCs in 2016-Korean giant plans 7nm with EUV in late 2018 (10月16日付け EE Times)
→Samsungが、年末前にIntelおよびTSMCなどライバルに対抗、10-nm FinFETプロセスで作ったSoCs出荷を目指す旨。この動きは、Samsungが他社向け半導体製造で今年後れをとり、同社Galaxy Note 7スマートフォンを市場から取り去る決定で動揺しているなか出てきている旨。「量産に入っており、2016年では10-nm nodeでの最初の出荷になる」と、Samsungのファウンドリーグループ、マーケティング&ビジネス開発senior vice president、Hong Hao氏。

◇Samsung Elec says it started mass production of 10-nanometre chips (10月16日付け Reuters)

◇Samsung starts industry's first mass production of System-on-Chip with 10nm finFET technology (10月17日付け ELECTROIQ)

◇Samsung Starts Production Of 10nm Chip That Will Likely Be Under The Galaxy S8's Hood (10月17日付け Tech Times)

◇Samsung announces production of SoC with 10nm FinFET technology (10月17日付け DIGITIMES)
→Samsung Electronicsが、10-nm FinFET技術system-on-chip(SoC)製品の量産を開始の旨。Samsungの新しい10-nm FinFETプロセス(10LPE)は、先行の14-nmに比べてプロセス技術および設計使用可能性の両方で強化を加えた3Dトランジスタ構造を採用、面積効率最大30%増並びに27%の高性能化あるいは40%の低消費電力化が可能になる旨。scaling制約の打開に向けて、bi-directional routingが行えるtriple-patterningなどの最先端技法も、前nodesからの設計およびrouting flexibilityを維持するために用いられる旨。

◇Samsung begins making 10-nano chipsets for S8 (10月17日付け The Korea Herald (Seoul))

◇10nm Processing: Samsung Begins Industry's First Mass Production of SoC with 10nm Tech (10月18日付け BusinessKorea)

◇サムスン、最小線幅のLSI量産 (10月18日付け 日経)
→韓国サムスン電子が17日、回路の線幅が10-nmの大規模集積回路(LSI)の量産を始めたと発表、半導体受託生産(ファウンドリー)事業の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が手掛ける先端品を超え、世界最小となる旨。技術競争で先んじているとアピールして大口顧客を確保する狙いがある旨。

続けてモバイルDRAMでも、業界初となる10-nm生産技術ベースの8-gigabyteモジュールの供給を始めるとしている。

◇Samsung produces mobile DRAM, equal to best notebook-Samsung Electronics has begun supplying 8GB DRAM for mobile that will equal smartphone specs to a premium notebook. (10月20日付け ZDNet)

◇Samsung rolls out industry's first 8GB mobile DRAM for smartphones-Samsung puts 10nm chips in mobile DRAM (10月20日付け Yonhap News Agency (South Korea))
→Samsung Electronicsが木曜20日、同社先端10-nm生産技術ベースで業界初、スマートフォン向け8-gigabyteモバイルDRAMモジュールを投入の旨。
該新モバイルDRAMは世界中でより有能な次世代flagshipモバイル機器を可能にする、とSamsungのexecutive vice president、Choi Joo-sun氏。

TSMCは、最先端プロセス対応の先行を積極的にアピールし続けており、現下でも以下の通り見られている。

◇TSMC bids for process leadership-TSMC aims to lead in IC process technology (10月17日付け Electronics Weekly (U.K.))
→TSMCのco-CEO、Mark Liu氏。TSMCは、今年10-nmプロセス量産を始める予定、続けて2017年第二四半期に7-nmリスク生産、2018年に7-nm量産、そして2019年前半に5-nmリスク生産を進めていく旨。TSMCは、ファウンドリーライバルとしてのSamsung Electronics, IntelおよびGlobalFoundriesへの先行を保ちたい旨。

◇TSMC certifies Synopsys IP tools for 7nm process enabling early tapeouts (10月20日付け DIGITIMES)
→EDAおよび半導体IPプロバイダー、Synopsys発。TSMCが、最先端7-nm FinFET技術nodeについてSynopsysのディジタル, signoffおよびcustom implementation toolsの完全一式を認証の旨。

Samsungとのファウンドリー対応の熾烈な戦いが続いており、新たに次の見方もあらわれている。

◇Newswatch: Qualcomm likely to switch follow-up orders for Snapdragon 830 chips to TSMC, says paper-TSMC said to get orders for Qualcomm's Snapdragon 830 (10月19日付け DIGITIMES)
→中国語・Economic Daily News(EDN)発。Qualcommが、同社Snapdragon 830半導体のfollow-up発注について、現在作っているSamsung LSIでの10-nm半導体の生産が予定より遅れていることから、2017年にはTSMCに切り替える様相の旨。

年末恒例の国際会議、IEDMの予告でも、現状の最先端を巡る業界模様が、以下の通り表わされている。

◇TSMC, GF/Samsung Battle at 7nm-Intel may take back seat to foundries (10月21日付け EE Times)
→来るInternational Electron Devices Meeting(IEDM)(2016年12月3-7日:San Francisco)のabstractから、TSMCとIBM, GlobalfoundriesおよびSamsung連合の7-nmプロセスを巡る真っ向からのぶつかり合いについて。


≪市場実態PickUp≫

【今年の半導体販売高予測】

大方は今年もマイナスか、という見方が優勢な世界半導体販売高の伸び予測であるが、ここにきてDRAMはじめ盛り返しの兆候が強まって難しい読みどころとなっている。Gartnerは、0.9%減としている一方、今後に注目としている。

◇Worldwide semiconductor revenues to dip 0.9% in 2016, says Gartner (10月17日付け DIGITIMES)
→Gartner発。2016年の世界半導体売上げが総計$332 billionと予測され、2015年から0.9%の減少、これは2年連続の売上げ減少となり、史上一度しかない旨。しかし、半導体市場の見通しは良くなってきている旨。

IC Insightsの最新予測では、今年は+1%とやっとこさプラスの読みにアップデートされている。

◇2016 IC market forecast raised from -2% to +1% (10月19日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsが、October Update to the 2016 McClean Reportをリリース、2016年のIC市場予測を前回2%減少から今回1%増加と3 percentage points、および2016年IC出荷数量伸長予測を4%から6%に、それぞれ上方修正の旨。この改定の大部分は、力強さが増すDRAM市場による旨。

◇DRAM Pushes Up Chip Forecast (10月20日付け EE Times)
→IC Insightsの最新レポート。1つにはDRAM市場の戻しが奏功、ICs市場が今年辛うじて1%の伸び、そして2017年は4%増の可能性の旨。

◇IC Insights raises 2016 IC market forecast to positive (10月20日付け DIGITIMES)

最後まで締めないとなかなか読めない展開となりそうである。

【Qualcommの新分野攻勢】

Qualcommの踏み込んだ攻勢、まずは、商用5G modem chipsetソリューションの初めての発表が以下の通りである。

◇Qualcomm Tips 28 GHz 5G Chip-Pre-standard modem set for U.S., Korea trials (10月17日付け EE Times)
→Qualcommが、VerizonおよびKorea Telecomによる別々のpre-standard 5G cellular試行で用いられる28 GHz modemに向けた計画を発表、いくつかのベンダーが5Gの要素展開を早めたいとしている最新の動きの旨。該Snapdragon X50により、モバイルおよびfixed-wirelessネットワークスへの5 Gbits/sec downlinksおよびmultiple gigabit uplinksが得られる旨。

◇Qualcomm's 5G preview: high frequencies, 5-gigabit speed-Qualcomm offer peek at 5G fixed wireless modem (10月17日付け ITWorld.com/IDG News Service)
→Qualcommが、同社初の5G modemを披露、fixed wirelessおよびcellularネットワークス上5 gigabits/secの理論的downstream速度が得られる旨。5Gネットワークスが使用できる見込みの2年前、2018年始めにQualcommが出荷するという該X50高周波modemは、ミリ波周波数により800 MHzのspectrumを取り上げる旨。

◇Qualcomm 5G Modem for Smartphones to Support Fixed Wireless, Cellular (10月17日付け Wireless Week)

◇28GHz modem set for pre-standard 5G trials (10月19日付け EE Times India)

◇Qualcomm announces 5G modem solution (10月19日付け DIGITIMES)
→Qualcommの子会社、Qualcomm Technologiesが、Qualcomm Snapdragon X50 5G modemを発表、Qualcommが商用5G modem chipsetソリューションを発表する最初の会社となる旨。該Snapdragon X50 5G modemは、次世代cellular機器を作っているoriginal equipment manufacturers(OEMs)をサポート、並びに初期の5G試行&運用でoperatorsを助けるよう設計されている旨。

次に、connectedカメラに向けた半導体ソリューションである。

◇Connected cameras will get smarter with new Qualcomm chips-Qualcomm aims at connected cameras with new chips (10月17日付け CIO.com/IDG News Service)
→Qualcommが、action cameras(衣服や乗り物などに装着・固定), bodycams(人体装着), dashcams(運転の関連情報格納), IP security camerasおよびvirtual-reality camerasなどinternet-connectedカメラ応用向けにSnapdragon 625プロセッサおよびinternet protocolカメラreference設計を投入、また、connected cameras開発加速化に向けてソフトウェア開発kit(SDK)およびビデオanalytics application programming interface(API)を披露の旨。

◇Qualcomm debuts plans to help build more connected cameras (10月17日付け TechCrunch)

IoT向け標準を取り入れた半導体の市場への拡充が着々と行われている。

◇IoT Hears LTE Calling-Vendors prep Cat M1, NB1 for 2017 (10月19日付け EE Times)
→米国cellular carriers最大手2社とモジュールメーカー5社が、Internet of Things(IoT)向け最新低電力LTE標準を取り入れたQualcomm半導体を使用する旨。この動きは、cellular IoT標準が来年力強く市場に浸透していくことを示している旨。AT&Tは、2017年に国家サービス展開が始まる予定のCat-M1のSan Francisco pilotでQualcommのMDM9206を使用、Verizonは、同社Thingspaceサービスで該半導体を用いる旨。cellularモジュールメーカー、Quectel, Telit, U-Blox, SimcomおよびWistron NeWeb社は、Cat-M1およびNB-1サービスを支持するモジュールで該半導体を用いる旨。

【中国での動き】

ファウンドリーのSMICが、天津拠点のcapacity拡張を発表、世界最大の8-インチウェーハfabになるとしている。

◇SMIC TianJin launches capacity expansion project (10月18日付け ELECTROIQ)

◇SMIC to expand 8-inch facility in TianJin-SMIC plans big expansion of 8-inch wafer fab (10月18日付け DIGITIMES)
→SMICが、同社Tianjin(天津)拠点の拡張プロジェクトを発表、世界最大の8-インチウェーハfabになる旨。TianjinのXiqing Economic Technological Development Areaに位置して、45,000枚/月のcapacityが、拡張完了後は150,000枚/月に達する旨。

3D NANDフラッシュメモリの先陣そしてシェア争いが半導体業界で繰り広げられているが、中国も以下の通り2017年末に加わる動きとなっている。

◇China to produce 3D NAND chips as early as end-2017-Sources: China could be making 3D NAND in 2017 (10月18日付け DIGITIMES)
→業界筋発。Yangtze River[揚子江,長江] Storage Technology(YRST)(Tsinghua UnigroupがXMCのmajority stakeを買収して設立)が、2016年末に中国初のNANDフラッシュおよびDRAMメモリを製造する12-インチfabの稼働を開始、1年後に初の自前の3D NANDフラッシュメモリを生産する見込みの旨。YRSTは、2017年末にも32-層3D NANDフラッシュ半導体を作れる旨。

【データセンターでのFPGA活用】

まずは、Microsoftが、クラウドプラットフォームのAzureおよび検索エンジンのBingに向けてFPGAによる高速化を図っている。

◇Microsoft Puts FPGAs to Work for Azure and Bing-Microsoft's Azure and Bing get boost from FPGAs (10月17日付け eWeek)
→MicrosoftのcloudおよびそのBing検索エンジン両方とも、field-programmable gate array(FPGA)技術を用いてAzure workloadsを高速化している旨。

もう1つ、中国のBaidu(百度)が、XilinxのFPGAsによりmachine learning応用の加速化を行っている。

◇Baidu adopts Xilinx ICs for FPGA acceleration-Baidu uses Xilinx FPGAs to accelerate apps (10月18日付け Electronics Weekly (U.K.))
→Baidu(百度)が、XilinxのFPGAsを用いて中国における同社データセンターでのmachine learning応用を加速化している旨。

◇Baidu adopts Xilinx to accelerate machine learning applications in the data center (10月21日付け DIGITIMES)

【M&A関連】

10月24日の週にも発表の可能性ということで、QualcommとNXP Semiconductorsの合併が以下の通り取り沙汰されている。

◇Qualcomm Said to Be Near Final NXP Deal, May Announce Next Week-Report: Qualcomm-NXP deal may be at hand (10月20日付け Bloomberg)
→本件事情通を引用、Bloomberg発。QualcommとNXP Semiconductorsの長らく噂の合併が、来週発表される可能性、QualcommがNXP買収に$110〜$120/株を支払って交渉をまとめ合意調印に漕ぎ着けようとしている旨。

Mentor Graphicsが、自社の売却を含めた動きに以下の通り出ている。

◇Mentor Graphics working with Bank of America to explore sale-sources-Is Mentor Graphics up for sale? (10月16日付け Reuters)
→Mentor Graphicsが、同社の売却を含めた戦略的代替を求めてBank of Americaと協働している旨。Elliott Managementが最近、Mentorにおける8.1% equity stake取得を発表、SiemensおよびDassault SystemesをMentorの買収先の可能性として見る向きがある旨。

◇Mentor for sale (10月18日付け Electronics Weekly (U.K.))

ディストリビュータ分野での買収完了が見られている。

◇Avnet Completes $841 Million Acquisition of Premier Farnell-$841M purchase of Premier Farnell closed by Avnet (10月17日付け Electronics360)
→法制適合および株主承認を経て、electronicsディストリビュータ、Avnet社(Phoenix, Arizona)が、ライバルのPremier Farnell PLC(Leeds, United Kingdom)買収を完了の旨。


≪グローバル雑学王−433≫

今回は、アフリカの西側海岸真ん中あたり大きな湾が凹んだ先に大方位置する大きな国、ナイジェリアにて、味の素ナイジェリア社長として商品拡販に奮闘される方の考え方の糸口、やり方の工夫など、

『なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか』
 (布施 克彦/大賀 敏子 著:PHP新書 1055) …2016年7月29日 第一版第一刷

より見ていく。経済的にも人口においても大規模なこの国で、先入観や慣習にとらわれない食文化を目にして、「味の素」の商機を見い出し、きめ細かいマネジメントと現地隅々への売り込みを工夫、この20年近くで18倍の売上げに達する経過を辿っている。


第3章 ナイジェリア――どこでも人は人、皆同じ

◆人気がないアフリカの大国
・ナイジェリアのイメージ
 →芳しくないイメージを抱いている人が多い
 →イスラム原理主義武装組織のテロ事件が散発、ますますマイナスイメージが定着
・ナイジェリアのラゴス
 …1991年にアブジャに遷都されるまで、ナイジェリアの首都。いまは経済、商業、金融の中心
 →「ハードシップの高い任地」としている場合が多い
・ナイジェリアは、文字通り大国
 →サブサハラ・アフリカ最大のGDP、2014年で5740億ドル
  …同年の南アが3501億ドル、ケニアが609億ドル
 →大陸最多、1億8000万人の人口、6割が25才未満
 ⇒サブサハラ・アフリカのGDPの3分の1以上、全人口の5人に1人が、それぞれナイジェリアという勘定
・フォーブスの長者番付にランキングされるアフリカ人がひとり
 →2014年世界第23位の富豪、アリコ・ダンゴート氏はナイジェリア人
  …セメントと砂糖で財を成した実業家

◆快適な出迎え
・(著者[大賀氏]は、)ナイジェリアへのマイナス・イメージの先入観という鎧に身を固めてラゴスに
 →ところが、ラゴスの入国管理は、驚くほど効率的
・両替商に100ドル差し出したら、ガラス越しに山のような現地通貨
 →ナイジェリアの通貨、ナイラはすべて紙幣で硬貨はない
・2015年に誕生したばかり、いまのナイジェリア政権の大きな目標
 →石油に依存した輸出構造を多角化、治安を改善、公務員の腐敗を根絶

◆ナイジェリアはすばらしい
・「ナイジェリア人はすっごく勤勉で頑張り屋、ついでに上昇志向が強い」
 →ナイジェリア人の夫とラゴスで働きながら暮らす、とある日本人
・この国の良さを見つめている日本人は、案外たくさんいそう

◆中国のアフリカ進出
・中国の盛んなアフリカへの進出
 →毎年毎年、官民合わせて10万人の中国人がこの大陸に
・中国政府は先頭に立って旗を振り、ハードばかりかソフトにも力
 →アフリカ人留学生の受け入れも戦略的
・2050年の世界の総人口95億人のうち3分の1が中国語を話す
 →そんな時代がほんとうにくるかも
・ニューヨークの国連総会
 →アフリカだけで54票、全体の4分の1以上に
・中国もアフリカも、もともと第三世界の仲間同士
 →国連の交渉が先進国の思惑通りにいくとはかぎらない

◆きらりと光る日本企業
・1970年代後半、ナイジェリアには2000人弱の在留邦人
 →いまラゴスに住む日本人は60人程度、これに対して中国人は5万人
・ここナイジェリアのビジネス地図は、中国一辺倒ではない
 →インド系、中国系、レバノン系、そして現地人が鎬を削っている
・規模は小さく、数は少なくても、きらりと光る仕事をしている日本企業が確実に
 →2000年代後半から、少しずつ増加
 →NEC       …住民登録システム
  ホンダ     …二輪車、四輪車の組立
  ヤマハ発動機  …二輪車の組立
  三菱商事    …高品質タイヤ

◆BOPに食い込む食品産業
・人口が多い上に若く、マーケットが今後も拡大
 →ナイジェリアの強みのひとつ
  …6割、1億人以上がBOP(Base of the Economic Pyramid)層
  →食料品製造・販売業は有望産業のひとつ
・目を見張る健闘をしている日本企業といえば、味の素社
 →ナイジェリアでの年商は100億円超
・現地の主食は餅のようなもの
 →ヤム、キャッサバといったイモ類をついたり練ったりして好みの柔らかさに
・素手でつかんで食べるのもアフリカ全体ではほぼ共通
・気の利いた調味料がないので、おかずの味付けは単純になりやすい
 →日本の「味の素」はそこに巧みに食い込んだ

◆インスタント・ラーメンが食文化に
・ナイジェリア人はインスタント・ラーメンをよく食べる
 →スープ麺ではなく、ヤキソバ
  …インドネシアの会社がつくる「インドミー」が、すでに市民権、ヌードルの代名詞に
 →インドミーを専門に出す屋台も少なくない
・ナイジェリアの人々が、街のそこここの屋台で麺を食べているのにはほんとうに驚かされる
 →「これは」と思えるものに出合えば、先入観や慣習を忘れて試してみる
 →「味の素」の商機もそこに

◆お客様に喜んでもらいたい
・「インドミーはすごい」
 →健闘をほめるのは、味の素ナイジェリア社長、和田見大作さん
・味の素社のナイジェリア進出は、1991年
 →現在は、ナイジェリア国土全体を覆う32の販売支店、1100人のナイジェリア人スタッフを雇用、日本人職員は6人
・面会を申し込んだら、朝一番でホテルまで会いに来てくれるという和田見さん
 →銃で武装したポリスマン付きの車でやってきた
 →言葉の端々に、「お客様」であるナイジェリア人を思う熱い気持ちが垣間見える
  …置いてくれる可能性のある商店なら、ひとつ残らず出向いていく
  …うまく合意ができれば、現物をその場で売って現金を受け取る
・社長自らも、1年のうちほぼ3分の2は国内を行脚
 →一つひとつの商品を小袋に入れ、誰でも購入できるように工夫
 →アフリカの庶民向けの商売の特徴は、この徹底した小袋化
・1998年から比べると、味の素はいまでは18倍の売上げ

◆現地人の信頼を勝ち取る
・和田見社長にとってのナイジェリア人、率いる1000人以上の社員
 →お客様であると同時に、一緒に闘う同志でも
・インドネシアとフィリピンで働いたあと、ナイジェリアにやってきた和田見社長
 →ナイジェリアで、日本企業特有の優れたマネジメントを取り入れ
  …子どもの教育費を会社から前借りできる仕組み
  …社内広報誌を出し、社長自らがスタッフと定期的に会い、会社の置かれている状況や今後の計画を話す
  …腹心の部下を日本での研修に送り出すことも
・現地人社員のなかには古参職員も、圧倒的に会社の事情に詳しく、隅々を知り尽くしている
 →謙虚に彼らの懐に飛び込んでいった
・「アジアもアフリカも、地球の人はみんな同じっす」
・最近、味の素社は、ナイジェリアで東洋水産社と提携することを発表
 →10年後には、ラゴスの屋台で「マルちゃん」を注文することができるようになっているかも

◆「日本人はダメ」ではない
・日本ではアフリカについての興味と理解が、一般的にいってあまり高くない
 →その一方、ハードな環境を舞台に、堂々とビジネスに取り組んでいる日
  本企業も確実に、少しずつだが増加
・(著者の)入国をすんなり受け入れてくれたラゴス国際空港
 →出国はちょっと様子が違い、係官があとからあとから現れて、荷物を検査しパスポートをチェック
・離陸後、窓から改めて見下ろしたラゴス
 →ラグーン、島、マングローブに覆われたこの国最大の経済都市
 →ほとんど海面すれすれの海抜、気候変動の影響が確実に
・彼らも私たち日本人も、地球の運命からは逃れられない
 →同じふるさとを分け合っている

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