ノイズに強いSerDesチップの技術をValensが明らかに
10メートル程度なら銅線によるシリアル伝送速度が16Gビット/秒と高速のシリコン製SerDes(直列から並列変換あるいはその逆)チップがノイズ環境の厳しいクルマメーカーに採用された。それもクルマメーカー3社が採用した。チップを設計したのはイスラエルのValens Semiconductor社だ。銅線によるデータ伝送の高速動作でもノイズに負けない。またしても光ファイバの登場はさらに伸びるかもしれない。

図1 欧州3社の自動車メーカーが採用を決めたValens SemiconductorのSerDesチップ
光ファイバはコストの点で銅線にはかなわない。しかも銅線の伝送速度は光ファイバに匹敵する。クルマの環境は信号伝送にとって最悪で、点火プラグからのノイズや電動モーターからのノイズだけではなく、ワイバーやパワーウィンドウ、パワーステアリングなど比較的小さなモーターが多数ある。ここにビデオ映像を送るとなるとノイズで鮮明さが失われることが多い。ノイズの多いクルマにも光ファイバは使われるようになると言われて10年以上経つが、いまだに光ファイバは使われてこない。高価だからだ。
信号線は銅線と言ってもクルマでは重いシールド線は使われない。Valensのチップで送受信する配線は、細い銅線を交互にねじり合わせた、より対線(twisted pair)であり、価格は安い。しかもValensの製品は、10メートル以内ならBER(ビット誤り率)が10の-19乗と非常に低い。さらに、伝送速度(データレート)は高速になればなるほどノイズに弱くなる。Valens SemiconductorのCEO(最高経営責任者)であるGideon Ben-Zvi氏(図2)によると、「例えば2Gビット/秒から4Gビット/秒に速度が2倍に増えると、ノイズの影響は単なる2倍ではない。指数関数的に強く受けるようになる」と述べている。
図2 Valens Semiconductor CEOのGideon Ben-Zvi氏 今回、オンラインで取材した
銅線でありながらValensは、どのようにしてノイズに強くしたのだろうだろうか。「これに関して当社は120もの特許を持っている。その内1/3がノイズ対策に関するもの」と述べ、「詳しくは言えないが、パケットを受け取るたびに独自のアルゴリズムを使ってノイズを打ち消している」という。信号をパケットごとに修正した後、正しい信号を送り出す。
データ伝送では、1と0の信号をいくつかを塊にしたパケットという単位で送るが、パケットをそのまま受けて次に流すのではなく、パケットごとの小さな単位でノイズを打ち消すようなアルゴリズムを使っている。そのようなアルゴリズムを実行するのがDSP(デジタル信号処理プロセッサ:32ビットを基本とする積和演算専用のマイクロプロセッサ)である。ノイズキャンセラにはアナログ式が多いが、「当社はデジタル式の高度なアルゴリズムで打ち消し合っている」(Ben-Zvi氏)ことが低ノイズのカギのようだ。
ここで用いたSerDesは、MIPI(Mobile Industry Processor Interface)A-PHY規格に準じたもので、Analog Devices(元はMaxim Integrated)のGMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)やTexas InstrumentsのFPD-Linkなどのような独自インターフェイス規格ではない。MIPI規格は、もともと携帯電話のカメラとアプリケーションプロセッサ(APU)や、APUと液晶ディスプレイ間の高速通信規格として使われてきた。AV(AudioとVideo)の信号をシリアル伝送するための規格である。これをMIPI AllianceのA-PHYワーキンググループが開発、車載用の長距離SerDesとして標準化した。
Valensは低ノイズのSerDes製品を自動車メーカーにサンプル出荷しており(参考資料1) 、欧州のクルマメーカー3社がこの度採用することを決めた。
参考資料
1. 「 Valens、最大8Gbpsの信号を最大40メートル伝送できるSerDesチップ」、セミコンポータル、(2022/06/07)