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中国が日本向けデュアルユース材料の輸出禁止と日本産ジクロロシラン輸入調査へ

中国商務部(日本の経済産業省に相当)は2026年1月6日、「商務部公告2026年第1号:日本向けデュアルユース品目の輸出管理強化に関する告示」を発表した(参考資料1)。軍事用途にも使えるあらゆるデュアルユース品目を日本の軍事ユーザー、軍事目的、および日本の軍事力を強化する可能性のある最終ユーザーへ輸出することを禁止するとし、発表と同時に発効するとした。更には、翌7日に「商務部公告2026年第2号:日本産の輸入ジクロロシランに対する反ダンピング調査を開始」を発表した(参考資料2)。即日調査開始し、1年かけて徹底的に調査するという。

MINISTRY OF COMMERCE, PEOPLE'S REPUBLIC OF CHINA

図1 中国商務部2026年公告第1号(左)と第2号(右)いずれも日本企業に関する輸出入規制 出典:中国商務部ウェブサイト


「高市首相の11月7日の衆議院予算委員会での台湾有事に関する発言は『中国の内政に対する粗暴な干渉』であり、これに対抗して国家の安全と利益を守るための措置である」と中国商務部広報官はわざわざ今回の措置を行った理由を明らかにしている。しかし、1月9日深夜に読売新聞ウェブサイトが、「首相が通常国会冒頭に衆院解散を検討」というスクープを打って以来、各紙の紙面は政局報道一色となってしまい、さらに1月19日の高市首相の大義なき解散宣言がそれに輪をかけている。中国の措置への対応どころではないようで、本件関連ニュースも報道されなくなってしまっている。そこで、これら2つの中国の対日措置がどんなものなのか原典に基づいてまずは正しく認識することから始めよう。 彼を知らず己を知らざれば、戦いに生き残れないだろうから......。


対日輸出禁止品にはレアアースだけではない

商務部2026年公告第1号は、「すべてのデュアルユース品目は、日本の軍事利用者、軍事用途、その他日本の軍事能力に寄与する最終用途への輸出を禁止する」として、上記の規定に違反して、中国原産の関連軍民両用物品を日本国内の組織または個人に譲渡または提供した国または地域の組織または個人は、法的責任を問われることになると脅している。つまり、第三国経由での「密輸」にも厳しい目を向けている。

この公告に先立ち、中国商務省は、12月31日に、従来の「輸出規制法で指定された禁輸リスト」を改訂し、「2026年版」を公告しており、168ページにわたりびっしりと細かい文字で数千品目にわたる詳細な規制品目リストが添付されている(参考資料3)。レアアース(希土類)などの重要鉱物ばかりが話題になっているが、化学薬液、特殊ガス、工業材料はじめ幅広い分野の多数の品目が含まれており、半導体製造や利用にも影響を及ぼしかねない。

対日輸出規制がどの程度厳格に施行されるのか現時点では不明であるが、もしも厳格に施行されたならば、日本の多くの主要産業分野に著しい影響を与えかねず、政府間交渉でなんとか解決に向けた、したたかな大人の交渉を行うとともに、安さゆえの中国一局集中購入を避けて他国からの輸入を促進する必要があろう。しかし、異例ともいえる厳冬の総選挙による政治空白が日本を危うくしないことを祈るばかりだ。


中国商務部が日本産ジクロロシランの反ダンピング調査を開始

中国商務部2026年公告第2号は、日本産の輸入ジクロロシランに対する反ダンピング調査を開始したことの発表である。ジクロロシラン(化学式SiH2Cl2)は、半導体製造において、Si酸化膜やSi窒化膜、単結晶Siエピ膜などの成膜に不可欠の重要な特殊ガスで、日本製は超高純度で世界的に定評がある。日本の主要サプライヤは、信越化学工業、日本酸素ホールディング傘下の大陽日酸、住友精化などである。

中国政府は、中国製の半導体製造材料はじめ産業用材料の日本への輸出規制に加えて、今度は日本製半導体製造材料の中国への輸出に関しても取り締まりを始めているようで、口先だけではなく見せしめともいえる実力行使に出てきたと言えよう。

中国商務部は、中国のジクロロシラン業界の代表である唐山三福電子材料有限公司から昨年12月8日に提出された日本を原産とする輸入ジクロロシランに対するアンチダンピング調査」の申請を受理し、調査を開始したと発表した。商務部は、「中華人民共和国アンチダンピング条例」の関連規定に基づき、1カ月にわたり、申請者の資格、調査対象製品の関連情報、中国における同種製品の関連情報、調査対象製品の中国業界への影響、調査対象国の関連情報に基づき予備審査を行った。その結果、商務部は「中華人民共和国アンチダンピング条例」第16条に基づき、2026年1月7日より日本産の輸入ジクロロシランに対するアンチダンピング調査を開始することを決定したという。

中國商務部の報道官は、「本調査は、中国内産業界からの要請を受けて開始された。2022年から2024年にかけて、日本からのジクロロシランの輸入量は概ね増加したが、この間、価格は31%下落した。日本からの輸入品に対するダンピングは、国内産業界の生産と操業に損害を与えている。調査当局は申請を受理した後、中国の関連法律やWTO(世界貿易機構)規則に基づいて審査し、申請がアンチダンピング調査を開始するための条件を満たしていると判断し、調査を開始することを決定した。捜査当局は法に基づいて捜査を行い、捜査結果に基づいて客観的かつ公正な裁定を下す予定だ」と述べている。

日本の為政者の思慮深さに欠ける発言や無為無策により中国政府の日本産業界に対する措置がさらに拡大せぬよう祈るばかりである。同時に、日本企業は、中国には、「反ダンピング法」だけではなく、中国国民にスパイ活動を強いる「国家情報法」や外国人に何癖を付けてスパイとして捕らえる「反スパイ法」など様々な共産主義独裁国家独自の法律があることを熟知して、中国側との取引に細心の注意を払う必要があろう。


韓国が漁夫の利を得るかも

なお、筆者は、この2つの日本産業界に影響を与えかねない公告が、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が国賓として訪中し習近平主席ら要人と会談の期間中に行われたことに注目している。中韓両国は、サプライチェーンを深く連結し、経済貿易の面での互恵的協力で合意したという。韓国は、半導体グレードのジクロロシランの主要生産国でもあり、漁夫の利を得そうな状況である。中国は、日韓の分断を望んでいるように感じるのは著者のうがった見方だろうか。李大統領も、日中関係が悪化していることに関して、高市首相の期待に反して、「我々が一方の肩を持つことは対立を激化させる要因だ」と述べ、中立の立場を取る考えを強調している。

参考資料
1. 中国商務部2026年公告第1号、(2026/01/06)
2. 中国商務部公告2026年第2号、(2026/01/07)
3. 中国商務部デュアルユース規制品目リスト2026年度改訂版、(2025/12/30)

国際技術ジャーナリスト 服部 毅
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