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Valens、最大8Gbpsの信号を最大40メートル伝送できるSerDesチップ

今後車載カメラが十数個搭載されるようになると、カメラからのデータをクルマ内のドメインコントローラやECUなどカーコンピュータユニットに送られる配線は極めて複雑になる。複数の配線を1本にまとめるSerDesチップは欠かせなくなる。この市場を狙ったイスラエルのValens Semiconductorが日本の自動車市場にやってきた。

VELENSは業界で初めてA-PHYチップセットのエンジニアリング・サンプルを出荷 / Valens Semiconductor

図1 Valens Semiconductorがサンプル出荷する車載用MIPI A-PHYチップ 出典:Valens Semiconductor


同社の自慢は、1リンク当たり8Gbpsと高速の映像をより対線(Twisted pair)で、40メートルも歪なしで送ることができるという技術。同社の最新SerDesチップ「VA7000シリーズ」(図1)は、MIPI(Mobile Industry Processor Interface)規格のA-PHYという長距離伝送のSerDes物理層インターフェイスを扱って8Gbpsのデータを送ることができる。元々MIPI規格は、画像のデータを電話機内でカメラからプロセッサまで伝送する短距離通信の規格であったが、MIPI Allianceは電話用のインターフェイス規格をもっと拡張して応用を広げるために組織化された。

MIPI A-PHY規格は、最近MIPI Allianceが標準規格として採用し、最大15メートルまで伝送することを保証する。それまでは短距離規格のC-PHYやD-PHYしか使われなかった。これでは例えばトラックの後方にカメラを設置し、その映像をドライバー近くのECUに伝送する(図2)ためには、途中に中継器となるべきブリッジが必要だった。A-PHY規格を使えば、そのブリッジは要らなくなり、車内の配線がシンプルになる。大型トラックやトレーラーの安全性を、より低コストで高めることができるようになる。


安全上の重大な問題を解決し、人々の命を救う / Valens Semiconductor

図2 トレーラーの後方に設置したカメラからの画像データをドライバー席近くのECUに伝送できる 出典:Valens Semiconductor


SerDes(サーディスと発音)チップは複数の信号線を1本にまとめたり、その逆を行なったりするチップで、直並列変換と呼ぶべき、昔からの技術ではある。ただ、昔は8Gbpsというような高速の直並列変換はなかった。MIPI A-PHY規格では、外来ノイズを受けにくい外側をシールドされた同軸ケーブルで15メートルまで伝送できるが、同軸ケーブルは重い上に、トレーラーだと中継器が必要になる。


複数インターフェースを高帯域の単一リンクに集約 / Valens Semiconductor

図3 複数の信号を1本の信号にまとめたり、その逆をしたりするSerDes技術 出典:Valens Semiconductor


Valensの技術は、MIPI A-PHY規格を十二分に満足する40メートルまで伝送できる。しかもクルマでは重くなりやすい同軸ケーブルではなく、軽いより対線を使う。クルマというシステムは他のシステムと比べ、はるかにノイズレベルが高い。このためノイズに負けない信号レベルを獲得することが難しいため、従来は長距離伝送が難しかった。

Valens社はなぜスペックよりも高いレベルの性能を出せるのか。これについて同社CEOのGedeon Ben-Zvi氏は、次のように語っている。「Valens社の製品ではアナログとデジタル技術(DSP)を使っているが、当社には優れたDSP技術がある。各伝送ではパケットごとに、ケーブル歪を分析して計算、自動的に補正している。ここにAI(機械学習)で分析する。チップ内にはDSPや、ケーブルの特性を学習し最適化する技術も含んでいる。」

アナログではプリエンファシスのような従来技術も加え、さらに機械学習のメカニズムでストカスティック(Stochastic)なアルゴリズムを使って、ケーブルによる信号の歪をDSPで予測し補正する。アナログとデジタルの「いいとこどり」をしているといえそうだ。 

(2022/06/07)

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