米国、中国華為を完全封鎖へ、APUの中国輸出も事実上禁止
米国が華為科技(ファーウェイ)への制裁をさらに強化した。華為にとって事実上、5Gスマートフォンを生産することが極めて難しくなる。華為包囲網の抜けを一つずつ縫い合わせることでほぼ完全な包囲網が完成したと見るべきだろう。華為に部品を納めてきた日本企業への影響も大きい。
2020年8月17日、米国商務省は華為の関連会社38社をエンティティリスト(輸出する場合に米国の許可が必要な顧客のリスト)に加え、米国の技術とソフトウエアへの制限をさらに強化した(参考資料1)。華為が調達したり、仲介したり、購入したりする時にエンティティリストに含まれる企業や団体への輸出管理管轄を厳しく制限する、というもの。
これまで米国は5月に出した米国製のテクノロジー(半導体製造装置)を使って製造した製品を9月16日以降、中国へ輸出することを事実上禁止する声明を出した。これを受けて、華為の半導体設計子会社であるHiSiliconは7nmといった最先端のチップ(ほぼ5G向けのアプリケーションプロセッサ(APU)とモデムIC製品)は9月15日出荷分を含めてTSMCへ大量に発注している。
このため、TSMCの第2四半期(4〜6月期)での売り上げは、前年同期比34.1%増、と大きく潤った。同様にTSMCが製造したウェーハをチップに切断、組み立て、パッケージする後工程を受け持つOSAT(Outsourced Semiconductor, Assembly and Test)メーカーも大いに潤い、やはり売り上げが前年同期比30%超えを記録した(参考資料2)。いわば、華為特需ともいうべき一時的な需要の高まりであった。第3四半期でも9月15日まではこの勢いで潤うと見られる。TSMCは第3四半期も約20%増の成長を見込んでいる(参考資料3)。
それだけではない。華為は、7nmプロセスで作れる5G向けのAPUとモデムチップをHiSilicon以外のメーカーからも調達しようとして躍起になって入手している。Qualcomm、MediaTekへも盛んに購入するほか、7nmプロセスでの設計経験したことのある企業にも接触している。
加えて、設計ツールも駆け込み需要が来ているようで、直近の四半期は2ケタ成長している。LSIの設計・検証ツールのトップメーカーであるSynopsysの20年度第3四半期(5〜7月期)は、前年同期比13%、第2位のCadenceも第2四半期(4〜6月)に同10%増という2桁成長を示した。EDA業界はこのところ急速な成長が見込めなくなり、中国市場に期待してきた。それだけに、中国市場への供給が止まれば、EDA業界は苦しくなる。同時に華為は、これから先のアップデートが事実上できなくなる。
華為の活発な代替え作戦を察知した米商務省は今回の措置を取った。すなわち、QualcommやMediaTekのAPUやモデム製品の華為への輸出は事実上できなくなる。これは、華為が第三者経由で設計を依頼あるいは製品を入手することを制限したものである。
華為への主要半導体製品が輸出禁止になれば日本企業への打撃も大きい。華為のAPUやモデムの数が制限されれば、スマホの数量も制限されるため、日本の部品メーカーもその影響を受ける。ソニーのCMOSイメージセンサや村田製作所のコンデンサ、TDKのフェライト製品など、5Gスマホ向け製品の生産を絞らざるを得なくなるからだ。少なくとも華為は9月15日まで、大量購入するだろうが、それ以降はAPUとモデムが入手できなくなる以上、他の部品を購入する意味がなくなる。
もちろん華為は、中国トップで世界5位のファウンドリSMIC(参考資料4)に対しても7nmの製造を期待していたが、どうやらSMICに裏切られた節がある。SMICは16nmでもまだ量産初期のレベルで、無理に7nmへ行こうとすると資金力で無謀な計画となる。そうなると、かつてNECと合弁したことのある中国内のHua HongやGrace Semiconductorなどへ依頼するしかなくなる。いずれも中小のファウンドリだ。ファウンドリで世界第9位のHua Hongの2020年第2四半期の売上額は、前年同期比4.4%減の2億2000万ドルに留まっている。TSMCやUMC、Samsungの2桁成長と比べると対照的な売り上げである上に、微細化プロセスはほとんど無理だ。
製造2025では中国内の半導体生産シェア70%達成は無理としても、10年先に追いつけるとなるだろうか。中国の若者は、テンセントやアリババ、百度などインターネットビジネスに行きたがり、半導体に来る人材は少ない。10年、20年でもファウンドリで追いつけないとなると、華為の将来は厳しくなると言わざるを得ない。
参考資料
1. Commerce Department Further Restricts Huawei Access to U.S. Technology and Adds Another 38 Affiliates to the Entity List (2020/08/17)
2. 後工程請負OSAT市場、2020年2Qにおける最新上位10社ランキング (2020/08/18)
3. 2020 Second Quarter Earnings Conference (2020/07/16)
4. ファウンドリメーカーの最新世界トップテン、TSMCは30%成長 (2020/06/12)