TI、NPU搭載マイコン、リアルタイム制御マイコンなど強化
Texas Instruments(TI)は、AI処理を行うNPU(ニューラルプロセシングユニット)を集積したマイコン(マイクロコントローラ)と、DSPコアを2個搭載したマイコンを開発、受注活動に入った。前者のTMS320F28P55xシリーズと後者のF29H85xシリーズは、共にリアルタイム制御可能なマイコンである。産業用ロボットやソーラーパネルの故障検出用などを想定している。

図1 NPU集積マイコン(左)と32ビットDSPコア集積マイコン(右) 出典:Texas Instruments
TMS320F28P55xシリーズにCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を実行するNPUを集積したのは、動作中の異常を正確に把握するためである。従来、モーター ドライブやソーラー システムでは、誤アラートや異常を見つけることが難しかった。従来のルールベースでの異常検出では誤検出や異常の監視は十分ではなかった。その信頼性を高めるためには、誤アラートを低減すると同時に、モーター ベアリングの異常や実際の障害を監視できるよう、高速で予測可能なシステム障害検出機能が必要だった。
TIは、モータードライブのベアリングの異常とソーラーパネルのアークを検出するという二つのユースケースを検討している。
モーター ベアリングの障害は、電動モーターのベアリングに異常な状態や劣化がある場合に発生する。モーター ベアリング用の CNN モデルは、振動信号などのセンサ データから複雑な正常信号のパターンを学習し、そこから外れた信号を異常と見なすように学習させると、ベアリングの障害を示す微妙な変動を検出できる。CNNで はベアリングの磨耗や回転子の不均衡などの障害パターンを、振動や電流信号から識別できるという。予期しない障害の防止や、ダウンタイムの短縮、メンテナンス コストの削減には、こうした障害を検出することが欠かせない。
ソーラーパネルの異常検出では、ソーラーからのDC電流や、バッテリに溜める電圧と電流などのセンサデータからCNNモデルは自律的に学習させることができる。常に正常な電流値を学習させておけば、アーク放電などでDC電流の異常を見つけることができる。またこれをバッテリ管理システムに応用すると、バッテリの充電プロファイルの経時変化を学習させておけば、バッテリの状態をモニタリングしていると充電状態を推定できるようになる。TMS320F28P55xシリーズでは、システム障害の検出精度は99%まで高めることができるようになるとしている。
図2 ソーラーパネルでアーク放電を検出する 出典:Texas Instruments
従来のシステムでは、パワーコンディショナー(図2のDC/DC MPPTs+DC/AC Inverter Power Stages)を制御するC2000とアーク放電を検出するICの2チップ構成だったが、今回のICは1チップ構成で、しかも検出精度は従来のルールベースでの80%から99%に上がった。
もう一つのF29H85xシリーズは、リアルタイム制御性能を上げたICであり、ここではNPUを集積していない。その代わりHSM(ハードウエアセキュリティモジュール)を搭載し、しかもマイコンのコアとは分離しており、セキュリティを強化している。従来の同社のC28シリーズのコアと比べ、シグナルチェーンの性能が2〜3倍高く、DSPによるFFT(高速フーリエ変換)性能は5倍、マイコンとしての割り込み応答時間とレイテンシは1/4などと性能が向上している。性能を上げるためVLIW(Very Long Instruction Words)アーキテクチャを使っており、最大8命令を処理する。