Analog Devices、GaNパワーFETを駆動するシリコンICでGaN回路設計を容易に
Analog Devicesは、GaNパワーFETのゲートをドライブするためのシリコンのドライバICを2023年に新製品として発売していたが、このほどその背景について明らかにした。GaNパワーFETはシリコンのパワーMOSFETと比べて、絶縁耐圧が10倍高く、電子移動度も2000cm2/Vsと高く高速動作に適している。一方、高速すぎて使いにくい点もある。
図1 ADIが力を入れる3種類のGaN FETドライバIC 出典:Analog Devices Inc.
ADIは、3種類のGaN FETゲートドライバを製品化しているが(図1)、このほど、これらの詳細を同社マルチマーケット・パワー製品事業部シニアディレクターのDavid Andeen氏(図2)が明らかにした。これらのICをGaN FETのドライバとして使えば、高速性ゆえのリンギングやノイズなどを抑えることができ、GaNパワーFETの駆動回路を最適化できる。
図2 Analog Devices社マルチマーケット・パワー製品事業部シニアディレクターのDavid Andeen氏
LT8418製品は、直流100V系のハーフブリッジ用の2個のGaN FETを駆動するIC(図3)。トップゲート(上側)とボトムゲート(下側)をそれぞれオン・オフさせ、スルーレートを制御することでリンギングを抑えているという。それぞれのゲートまでの伝搬遅延時間の差は1.5ns以内であるため、高速のスイッチング周波数のPMIC(パワーマネジメントIC)やモータードライブなどに適している。
図3 LT8418 耐圧100VのハーフブリッジGaN FET ドライバIC 出典:Analog Devices Inc.
各種の保護回路も充実している。過電圧やその逆の過低電圧をロックアウトし、ドライバの全ての入出力はGaN FETが誤ってオンになることを防ぐために、デフォルトでロー状態になる。また、2個のFET間のクロストークも防いでいるとしている。
また、LTC7890とLTC7891もGaN FETドライバICであるが、同期型の高圧コントローラとして使う(図4)。スイッチオンとオフのデッドタイムをほぼゼロに設計できるため、スイッチング損失を減らすことができるとしている。
図4 LTC7890/7891 降圧コントローラ向けGaN FETドライバ 出典:Analog Devices Inc.
ADIのGaN FETドライバは高周波でのスイッチングが可能であるため、パワーFET周辺のインダクタやキャパシタを、7ダイオードを小さくでき、スペースに制限のあるロボットアームを動かすモーター制御回路や電力を消費するデータセンターなどの電源周りにもGaNは有効だとしている。またCTスキャナーやMRIなどの医療機器ではイメージングデバイス用の電源の熱管理にも有効だという。GaN FETと一緒に1パッケージに集積したパワーICはすぐにでも可能だが、モノリシック化はもっと先になるとAndeen氏は予測する。
来日したDavid Andeen氏は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業しており、青色LEDでノーベル賞を受賞し、同校に赴任した「GaNの父」(中村修二氏)と同じGaNに関わる開発を行っていることをうれしく思うと述べている。