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TI、SiCを効率よく駆動するドライバICでEVの走行距離を延ばす

Texas Instruments(TI)が開発したSiCパワートランジスタ向けのゲートドライバIC製品「UCC5880-Q1」は、SiCパワーMOSFETの欠点を解消したドライバICだ(図1)。SiCはIGBTと比べ、少数キャリアの蓄積時間がない分、高速にスイッチできる。しかし、オーバーシュートやリンギングなどのノイズを発生しがちになる。TIのチップはこの欠点を解消した。

UCC5880-Q1:ゲート・ドライブ能力をリアルタイムで可変できる 業界をリードする絶縁型ゲート・ドライバ / TexasInstruments

図1 SiCの効率を上げるドライバIC 出典:Texas Instruments


TIの考え方はSiCの効率を追求するもので、その結果、効率が上がった分だけ航続距離が延びる、というもの。このため少しでも効率を高めることで、電気自動車の航続距離を伸ばそうとしている。このICを使えば効率は最大2%上がり、1回の充電で走行できる距離は11.2km伸びるという。走行中にバッテリ電圧を検出しながらドライブするスルーレートを変えることで効率を上げていく方法を紹介する(参考資料1)。

ただし、効率だけを追求して高速スイッチングを追求しすぎると、今度は高い過渡電圧(ノイズ)を発生し、パワートランジスタを破壊してしまう恐れがある。そこで、そのオーバーシュート電圧特性を調べた。トランジスタをオフからオンに変化させるとスイッチング損失は低下する。しかし、高速に変化させると急峻に立ち上がる、すなわちV/μsで表現されるスルーレートが急になればなるほど、オーバーシュート電圧は過渡的に高くなる(図2)。


SiC slew-rate control by varying gate-driver IC drive strength / Texas Instruments

図2 スルーレートを急峻にすると損失は減るがオーバーシュート電圧は高まる 出典:Texas Instruments


ゲートドライブの電荷(電流)をリアルタイムでうまく調整できれば、オーバーシュート電圧と効率アップのトレードオフから最適値を見つけることができる。そこで、高電圧バッテリのエネルギーサイクル(充放電特性)を見ると、バッテリ電圧が高ければ高いほどオーバーシュート電圧も高くなるため、バッテリパック電圧特性を見ながらゲートドライブ電荷(過渡電流)を調節する。


Transient overshoot vs. battery peak voltage and state of charge / Texas Instruments

図3 バッテリ電圧の低下曲線を考慮しながらドライブのスルーレートを調整する 出典:Texas Instruments


バッテリの電荷が100%から80%になるとバッテリパック電圧は420Vから370V近くまで低下するが、この間はドライブを弱めてオーバーシュート電圧を下げるようにする(図3)。しかしバッテリ電圧が80%から20%に下がっている間は、オーバーシュート電圧が低いため、急峻なスルーレートでドライブを強め、スイッチング損失を減らしていく。

実際の回路では、ドライブICの最終段のパワーMOSFETをハイサイド側、ローサイド側、それぞれに2個のパワーMOSFETを集積している。それぞれドライブ電流の大きなトランジスタと小さなトランジスタという構成にしてドライブ能力の調整を2つのパワーMOSFETで行っている。つまり、ドライブICが駆動するSiCパワーMOSFETへのゲートドライブ能力(電荷)をハイサイド側、ローサイド側でそれぞれ調整できるようにしている。


The UCC5880-Q1’s dual-output split gate-drive structure / Texas Instruments

図4 ドライブICの終段パワーMOSFETを二つに分け、ドライブ能力を調整する 出典:Texas Instruments


こういったバッテリ電圧の高い期間と低い期間とで、SiC パワーMOSFETのゲートドライブ能力を調整することでオーバーシュートとスルーレートをリアルタイムで調整できるようにした。1回の充電で走行するEVを駆動するトラクションインバータのSiCパワーMOSFETの効率を上げられるように工夫した。このようなドライバICに絶縁型の電源モジュールとも組み合わせると部品点数が減少し、信頼性向上につながるとしている。

車載向けの半導体デバイスではTIはレイトカマーではあるが、受け入れられるような製品をアグレッシブに発表している。今回もSiCを使うためのリファレンスデザインもリリースしている。

参考資料
1. Lakkas, G, "How to maximize SiC traction inverter efficiency with real-time variable gate drive strength", TI E2E Design Support (2023/05/08)

(2023/06/01)

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