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1200Vや2000V耐圧のSiC MOSFET発表相次ぐ、EV急速充電/再エネ需要加速

EV(電気自動車)の急速充電や再生可能エネルギーのDC-ACコンバータなどの用途に向け、1200Vあるいは2000VのパワーSiC MOSFETでオン抵抗を減らした製品が競い合っている。UnitedSiCを買収したQorvoが1200V耐圧でオン抵抗23mΩ(図1)、SiCデバイス販売額トップのSTMicroelectronicsを追いかけるInfineonが2000V耐圧でオン抵抗20mΩ程度のSiC MOSFETを発表した。

1200V製品ファミリーの拡大 / Qorvo

図1 Qorvoの1200VのSiC JFETファミリ 出典:Qorvo


Qorvoは携帯電話の無線回路(送信回路のパワーアンプやMEMSフィルタなど)に強い半導体メーカーだが、SiCパワー半導体のUnitedSiCを昨年買収した。UnitedSiCのSiCトランジスタは基本的にパワーJFET(接合型電界効果トランジスタ)を使うが、JFETは通常ノーマリオン型(ゲート電圧ゼロでオンするデバイス)なので、ゲートにマイナスの電圧をかけてオフにする。そのためにシリコンなどのMOSFETをカスコード接続して、他社のパワーMOSFETと同様、実質的にノーマリオフ型にしている。JFETはソースからの電子が結晶性の悪いMOS界面を通らず、バルクを流れるトランジスタなので、電子移動度がバルク並みに高い、という特長がある。このためオン抵抗が生まれつき低い。

今回Qorvoは、同社が第4世代のSiCデバイスと呼ぶように、最小23mΩ〜70mΩで耐圧がこれまで最大の1200Vのトランジスタ製品を開発した。TO-247-4L/3Lの標準パッケージに封止されたディスクリートトランジスタである。カスコード接続のMOSFETを集積しているため、ゲート電圧は0〜12Vと0〜15Vとして通常のノーマリオフ型のパワーMOSFETと同様に扱える。また、内蔵ダイオードによりスイッチングに電荷を素早く抜ける。

これまでの世代のSiCデバイスと比べて、面積当たりのオン抵抗が小さく、SiC結晶の理論限界の近くまで下げた(図2)。オン抵抗は面積を大きくすると下がるが、それではコストが下がらない。コスト的に十分見合い、かつ性能も上げるために、同社は、RDSon×面積という指標で表し、この指標を前世代よりも40%削減したとしている。


「ユニポーラ限界」に近づいている第4世代テクノロジー / Qorvo

図2 結晶性の良さを売りにするQorvoのSiC JFET 出典:Qorvo


また面積を上げずにオン抵抗を下げると寄生容量も下がってくる。800Vで30Aのスイッチングでのエネルギーは前世代の62%しかない496µJ(マイクロジュール)で、出力容量Cossは前世代の54%しかない150pFにとどまった。その結果、Cossを充放電するためのエネルギーEossも従来の73%に減った。このためスイッチング損失は30%削減され、高速動作が可能になった。

一方で面積を小さくして損失を減らせば、熱抵抗が上がるはずだが、これに対しても対策を取り、ダイアタッチのハンダを使わず銀でシンタリングすることで熱抵抗を前世代よりも40〜60%下げたという。さらに従来150µmのSiCウェーハの厚さを削り100µmと薄くすることも熱抵抗の削減に効いた。

製造にはSiCの150mm(6インチ)ウェーハを持つ米国内のファウンドリを利用している。

一方、CoolSiCというSiC パワーMOSFET製品のブランド名を持つ、Infineon Technologiesは、5月10〜12日ドイツのニュルンベルグで開催されたパワーエレクトロニクスの展示会PCIMで、耐圧2000VのパワーMOSFETを発表した(図3)。オン抵抗は12mΩと24mΩの2種類でディスクリートとモジュールの2種類用意した。


True 2kV SiC MOSFET & diode technology for applications operating up to 1500 V DC / Infineon Technologies

図3 2000VのSiC MOSFET ディスクリートでもモジュールでも提供する 出典:Infineon Technologies


直流1500Vで正常にスイッチング動作する応用では、半導体の耐圧が2000V程度は必要である。太陽光発電や蓄電池システムなどでは、架線に戻すため高耐圧デバイスを直列に接続し、送電線の街中の電圧6.6kVや遠距離の66万ボルトなど、高圧にして送り出す。各トランジスタの耐圧は高ければ高いほど、トランジスタ数は少なくて済む。例えば2008年ごろのパワーコンディショナーは幅1.5メートルほどのロッカーのサイズだったが、2kV耐圧のデバイスだと、リュックザック程度のサイズに収まる。

またEVの急速充電は、400〜450VのEV電圧よりも高い800V程度に昇圧して一気に充電させることで充電時間を短縮している。こういった用途では高耐圧のトランジスタが求められる。

(2022/05/24)
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