富士通とNvidiaの協業の実態とその背景
先週末、富士通とNvidiaの協業の記者会見が行われた。共同でAI半導体チップを開発するという見出しの記事があったが、AIチップは共同で開発しない。三つの分野で協業するという発表である。自律的に進化するAIエージェントのプラットフォームの開発、HPC(高性能コンピューティング)に向けたコンピュータ基盤の開発と拡販、そしてAIのインフラを用いた顧客へのサービス提供、である。それぞれを紹介する。
図1 富士通代表取締役社長兼CEOの時田隆仁氏(左)とNvidia CEOのJensen Huang氏(右)
AIエージェントのプラットフォームの共同開発では、NvidiaのGPUを提供するだけではなく、超並列の積和演算器を動作させるためのソフトウエアCUDAや、AIフレームワークやアーキテクチャを含む全てのAIモデルを使い設計するための高性能・低遅延の推論プラットフォームDynamo、さらにAIエージェントを創り出すための開発ツールNeMoといったソフトウエアプラットフォームを、富士通のAIプラットフォームであるKozuchiに導入する。これにより、いろいろなAIモデルを作成するだけでなくAIエージェントも生みやすくなる。
2番目のDynamoは、拡張性があり効率の良いAI推論を実行するためのOSのようなものだ、とNvidiaのJensen Huang氏は、以前語っていた。富士通は、Nvidiaの持つ多くのAIソフトウエアプラットフォームを採り入れることで、自律的に学習するようになるAIを作りたいのである。
次世代HPC基板の共同開発・拡販は、富士通が開発している次世代スーパーコンピュータ向けCPU「MONAKA」に加え、NvidiaのGPUを演算専用アクセラレータとして導入する新しいコンピュータを共同で開発することだ。MONAKA+GPUのスパコンを理化学研究所が富士通と共同開発することをすでに述べていたが、同様な仕組みのコンピュータを外販しようというもの。これまでスパコン向けに開発したCPUチップは外販できなかった。
ArmベースのCPUコアを導入したMONAKAは富岳のCPUの次に来るもので、次世代スパコンにGPUを導入することは時間の問題だった。というのは、スパコンの世界ランキングのTOP500の2025年6月に発表されたトップ10機種(表1)の中でGPUを使っていないスパコンは富岳だけだったからだ。しかもGPUを入れるならNvidiaと判断したようだ。スパコンランキングのトップ米El Capitanと2位のFrontierはAMD製、3位のAuroraはIntel製を使っており、4位から10位までにNvidiaもGPUが多く使われている。

表1 世界のスーパーコンピュータトップ10ランキング 出典:TOP500の資料をセミコンポータルが表に加工
今回の提携では、NvidiaのGPU同士を多数連結させ並列動作させるためのインターフェイスにNvidia独自のNVLinkを使っているが、富士通はGPUをこのインターフェイスを通じてMONAKAにつなげたかった。そこで、CPUとMONAKAをつなぐNVLink Fusionというインターフェイスを共同開発する。このインフラに最適化されたAIソフトウエアと開発エコシステムも共同開発する。NVLink Fusion向けの半導体チップを共同開発することになるが、AIチップを共同開発する訳ではない。開発する高性能コンピュータを拡販する予定だ。
また、共同開発した次世代の高性能コンピュータは、AIインフラとなり、AIエージェントプラットフォームを通して、顧客がAIエージェントやAIモデルを活用できる機会を拡大していくとする。そのためにパートナーエコシステムを構築し、それを拡大していくため共同のパートナープログラムを提供する。
この具体的な事例として、産業用ロボットメーカーの安川電機とも共同でロボットにAIを導入する試みを検討する。目指すのは自立型ロボットによる現場革新だ。Nvidiaのメタバース開発ツールOmniverseを使いデジタルツインで現場の最適設計や、最適なワークフローを自律的に行っていくエージェンティックAIなどを利用できるようになる。
Jensen Huang氏は、その国に合ったAI(ソブリンAIとNvidiaは呼ぶ)を、その国の強い分野に導入すると、その国はますます強くなる、と昨年来日した時も述べている。日本の強いロボットにAIを導入することで日本はもっと強くなることが期待される。


