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日の丸パワー半導体業界の再編本格化するも勝ち残るのは厳しい現実

伝統的に強いといわれてきた日本のパワー半導体産業が今後凋落しかねないことを、本稿著者は繰り返し本欄で指摘してきた。「パワー半導体は日本の強み!だけど漂う日の丸半導体凋落の既視感」(2022年、参考資料1)、「中国勢の攻勢で日の丸パワー半導体が失速、外国勢の勝ち組と組むしかない?!」(2025年、参考資料2)といった具合である。

これがいよいよ顕在化してきて、最近は、毎週のように国内パワー半導体メーカーの買収や協業の話が新聞紙面をにぎわせている。

ローム、東芝、三菱電機は、2026年3月27日、パワー半導体事業統合および経営統合に関する協議開始に向けて基本合意書を締結したと発表した。国内企業の事業再編を支援する独立系プライベート・エクイティファンドである日本産業パートナーズ(JIP)や系列のTBJホールディングスも協議に加わり統合を仲介するという。


日本のパワー半導体企業

図1 日本のパワー半導体企業の相関関係:赤色表記は2026年3月に明らかになった事柄 出典:2026年3月末までのメディア情報を基に筆者作成


ロームと東芝は、パワー半導体業界再編を目指す経済産業省の意向を受けて、2024年3月、ロームの半導体事業と、東芝の子会社である東芝デバイス&ストレージ(東芝D&S)の半導体事業の業務提携強化に向けた協議を開始すると発表していたが、意見が食い違い遅々として協議が進まないなか、今回は三菱電機が新たに加わったことになった。これにより、ロームと東芝の半導体事業および三菱電機のパワー半導体事業の統合に向けた協議が始まることになる。

これに先立ち、ロームは2026年3月6日、株主のデンソーから買収提案があったと公表した。ロームは、東芝、三菱電機とのパワー半導体事業統合と、デンソーによる買収を天秤にかけて慎重に検討するらしい。ロームと東芝D&Sは、経済産業省から最大1294億円の助成金を取得する見込みで、経済産業省の影がちらつく2社経営統合の話も同時に進めるという。


世界第2位のパワー半導体メーカーの誕生?
 
ロームと東芝D&Sおよび三菱電機のパワー半導体の世界シェアを統合すると11.3%となり、計算上はInfineon Technologiesのシェア24.4%に次ぐシェアを確保することになる。だから、新聞には「世界第2位のパワー半導体企業の誕生へ」という見出しが躍る。でもこの表現にはデジャブ(既視)を感ぜざるを得ない。かつて日立、三菱、NECのシステムLSI 事業統合でルネサスエレクトロニクスが誕生した時にも「世界第3位の半導体企業の誕生」ともてはやされたからだ。

しかし、現在の同社は売り上げが低下し、ランキングは世界19位まで落ち込んでおり、トップ20からも消えそうな瀬戸際である。NEC, 日立、三菱3社のDRAM事業合弁のエルピーダメモリも同様だった。誰が主導権を握るかはっきりしない対等合併では、権力争いや襷(たすき)掛け人事が横行し、業績は低迷しがちである。ロームは、デンソーによる買収を避けようとしているかにみえるが、主導権が明確な買収を避けていては、日の丸パワー半導体は、船頭多くして更に衰退してしまいそうだ。


パワー半導体事業売上ランキング

表1 過去3年間の世界半導体企業のパワー半導体事業売上高トップ10社ランキング
:市場シェア(%)の順。赤字は日本企業、カッコはトップ10のランク外を示す 出典:Omdiaデータを基に筆者作成


かつては「パワー半導体企業売上高トップ10」に名を連ねていたルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長は、3月25日に開催された株主総会で、パワー半導体事業について「いったん様子見を決めた分野に果敢に攻めていく判断をする段階ではない。どの会社が主導権を握るか、はっきりした段階でパートナーシップなどの議論を進めたい」と、今回の動きには距離を置くとしている。


外国勢と組むしか生き残れない?

パワー半導体業界で、ダントツの首位を守るInfineonは、パワー半導体をデジタル制御する周辺半導体も製造する総合半導体メーカーとして日本のライバルを寄せつけないが、さらにパワー半導体事業を拡大し、スケールメリット(数の経済)でライバルに大差をつけようとしている。同社のハネベックCEOは、「パワー半導体は規模の勝負だ」としたうえで、乱立する日本勢をけん制する発言をしている。

Infineonは、顧客に対して提案型ビジネスを心掛け、日本企業の御用聞き型ビジネスとの差を際立たせている。一方、三菱、ローム、東芝のパワー半導体事業が統合しても、市場シェアはInfineon 1社(24.4%)の半分以下の11.3%に過ぎない。雨後のタケノコのように続々誕生する中国勢の猛攻も目覚ましく、こちらも大口径ウェーハでスケールメリットを狙っている。2024年以降、トップ10リストに突然中国勢が名を連ね、順位を上げてきており、日本トップの三菱電機を間もなく抜きそうな勢いである(表1参照)。

日本のすべてのパワー半導体メーカーが統合したところでトップ企業の市場シェアに追いつかないが、せめてデンソーや富士電機も含めて総力を結集すべきだろう。以前提言したように、Infineonなどの先行欧米勢や急成長する猛攻中国勢などの外国勢の勝ち組と組まないと生き残れない可能性がさらに高まっている(参考資料3)。もっとも、デンソーはInfineonにすでに出資しているし、ロームは、Infineonとパッケージング共通化契約を結び、セカンドソース構築を目指している。

(筆者注)本稿は2025年3月末時点の業界情報に基づいており、その後情勢が変化している可能性があります。なお、ロームと東芝の事業統合についてのテクノロジー面からの考察については、津田編集長の週間ニュース分析(3月30日付)をご覧ください。

参考資料
1. 服部毅、「パワー半導体は日本の強み!だけど漂う日の丸半導体凋落の既視感」、セミコンポータル、(2022 /09/01)
2. 服部毅、「中国勢の攻で日の丸パワー半導体が失速、外国勢の勝ち組と組むしかない?!」、セミコンポータル、(2025/09/26)
3. 服部毅、「EV減速と中国勢の攻勢激しく『世界一』日本の揺らぐ足元」、週刊エコノミスト誌、pp.30-31、2025年10月7日号

国際技術ジャーナリスト/Hattori Consulting International代表 服部 毅
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