米中対立とトランプ問題で半導体ビジネスにも影響が現れる
米中問題とトランプ問題が入り混じるようになってきた。Nvidiaが中国向けH20 GPU(グラフィックプロセッサ)チップを輸出再開したこと、さらにその売り上げの15%を米国政府へ支払うこと、それに対する中国側の反応、また中国の自主半導体開発が車載半導体で活発化してきたこと。それに対して日本のサカナAIのCEOは米中双方から漁夫の利を得よと主張する。
図1 2024年11月来日時のNvidia Jensen Huang CEO
米中経済問題は、トランプ大統領の王様的な振る舞いや関税問題などを含むトランプ問題となって浮上してきた。7月中旬、米国政府はNvidiaの「H20」GPUの中国向け輸出を再開した。H20はHopper(ホッパー)GPUであるH200の機能や性能を落としたバージョンとされているが、中国のレアアース輸出規制に対抗して今年の4月からH20を輸出規制していた。H20もH200も4nmプロセスノードで製造されており、H20の性能を落としたからといって最先端プロセスで作られた禁輸製品のはずだった。
前政権の時にH20の中国向けは許されていたため、4月までそのまま輸出されていた。Nvidiaにとって中国市場は大きく150億ドルの売上を上げてきている、とジェンスン・フアンCEO(図1)は語っている。中国売り上げを確保するためCEOは、ワシントンと北京を何度か行き来して、輸出再開を7月14日に獲得した。この時NvidiaのGPUだけではなくAMDのGPUの中国向け輸出も認められた。
ところが今度は中国側が「イチャモン」をつけた。H20にはセキュリティ上の脆弱性があるというのだ。これに対してNvidiaは真っ向から反論、バックドアなどはない、と反論していた。バックドアは、遠隔でチップに入り込めるという裏口のインターフェイスのこと。バックドアを設けることで遠隔シャットダウン(キルスイッチともいう)と位置追跡機能が搭載されているというのだ。中国側のバックドア懸念は、かつて華為科技の製品にバックドアが設けられていると米国がイチャモン付けたことに対する報復でもある。また、最近になっても、中国当局は自国の企業にNvidiaのH20を使わないように求めたとBloomberg通信が報じた、というニュースが8月13日の日本経済新聞に掲載された。現時点(8月18日)で決着はまだついていない。
それどころか、トランプ政権は、NvidiaとAMDに対して中国での売上額の15%を政府に納めることも約束している。この「上納金」のような税金の二重取りが米国の法律に反しているという意見もあり、どこまでトランプ上納金が制度化されるかは疑問視されている。
ただ、トランプ大統領のディールによる上納金をはじめとして中国向けビジネスの安全保障上の懸念を口にする声もある。13日の日経には、「中国や同盟国に米国が掲げる安全保障の原則は『手数料』で交渉が可能だという誤ったシグナルを送る」ことになる、と民主党クリシュナムルティ委員の意見を掲載している。これに対して、エヌビディアは日本経済新聞の取材に「当社は世界市場での展開において米政府が定める規則に従う」とコメントした。
一方で、国内企業優遇策の一つとして、トランプ米政権がIntelへの政府出資を巡り、同社への半導体補助金の活用を検討していると16日の日経が報じた。「CHIPS・科学法」で定めた補助金の枠組みから、出資金額の少なくとも一部を賄う方向で協議している。米政府はすでにIntelにCHIPS・科学法に基づき最大78億6000万ドル(約1兆2000億円)の補助金の一部を受け取り、工場を建設している。補助金か出資か検討していくようだ。
中国への禁輸を懸念して中国では自主半導体開発が急がれている。特に車載向け半導体でも、自動運転やADAS(先進ドライバ支援システム)向けにAIを搭載し始めている。新興自動車会社の小鵬汽車(シャオペン)と上海蔚来汽車(NIO)は、Nvidiaから半導体の供給を受けていたが、独自の「スマート運転」チップを開発することで米国依存を減らそうとしている、と17日の日経が報じた。
米中争いの隙に日本半導体をもっと強化すべきだ、と台湾のジャーナリスト、林宏文氏は語っているが、かつて日米半導体戦争の隙を狙って急成長を遂げたTSMCと同様に見ている。同様な論調が17日の日経にも見られた。国産AIのスタートアップであるサカナAIのCEOであるデビッド・ハ氏へのインタビュー記事の中で、「日本は米中双方から技術を融合するような『いいとこどり』で漁夫の利を得るべきではないか」と述べている。実際さかなAIは、LLM(大規模言語モデル)の開発で米国のGoogleとOpenAI、中国製AIという3つのモデルを組み合わせて、より良いモデルを生み出している。Nvidiaのジェンスン・フアンCEOと同様、「日本の社会、文化に合うAIは日本で作るべきだ」とハCEOも述べている。




