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AIアクセラレータやデータセンター向け半導体の開発が相次ぐ

AI技術はクラウドもエッジも共に活発だが、先週はクラウドを念頭に置くデータセンター用途でのAIチップの新製品がIntelとMeta(旧Facebook)から発表があり、Armも新AI IPコアを、Googleはストレージ制御のCPUを発表した。AIチップのスタートアップTenstorrentと提携したラピダスがシリコンバレーに営業拠点を置く。ルネサスは甲府工場を稼働開始した。

AI技術は、OpenAIのようにGPT-3からGPT-4へとひたすら大規模化を目指す方向、NvidiaやIBMのように目的別の適度なサイズのソフトウエアパラメータで目的別の生成AIを目指す方向、大規模化できるように拡張性を含ませたIntelのAIチップなど、データセンター向けでも多種多様に進んでいる。もはや生成AIの大規模化だけがAIではない時代に入ったといえそうだ。


Intel Gaudi

図1 Intelの新AIチップ「Gaudi 3」 出典:Intel


特にIntelが満を持して開発を表明した生成AI対応チップ「Gaudi 3」は、AI専用エンジンともいうべきアクセラレータとなり、64個のAI専用プログラマブルなTPC(Tensor Processing Core)コアと8個のMME(Matrix Multiplication Engine)コア、NIC(Networking Interface Cards)回路を集積しており、6万4000もの並列演算を実行できる。AIだけではなく従来の数値演算も可能なためデータセンターへの応用を狙ったチップとなる。5nmのTSMCプロセスを使用。

LLM(大規模言語モデル)を意識して生成AI向けに128GBのメモリ容量と、現世代のGaudi 2よりも1.5倍広い3.7TB/sのメモリバンド幅を持つHBM2Eを採用、オンチップの96MBのSRAMを集積している。拡張性とオープンスタンダードを考慮して、24個のEthernetポート(200BG/s)を持ち、チップを多数接続できる。GaudiソフトウエアにはPyTorchのフレームワークを搭載している。学習や推論させるためのPCIeも備えている。

Metaも大規模生成AIの推論用チップMTIA(Meta Training and Inference Accelerator)を発表した。昨年発表したMTIA v1は自社内のAIワークロードを試す目的だったが、今回発表の第2世代MTIAは、Meta向けのカスタム仕様のシリコンで、フルスタックの開発プログラムを搭載しており、v1よりも性能とメモリバンド幅を倍増させた。カスタマイズしているため市販のGPUよりも効率が高いという。

Googleはデータセンターでの巨大なストレージを制御するためのマイクロコントローラ(マイコン)である「Axion」を発表した。このチップにはArmの最新CPUである「Neoverse V2」CPUコアを集積している。

ArmもAI対応アクセラレータの開発には余念がない。新たに発表されたNPU(Neural Processing Unit)である「Ethos-U85」は、生成AIではなくエッジAI向けで、FA(Factory Automation)やスマートホームの監視カメラなどの用途を狙ったIPである。いわゆる AI-IoT用途向けのコアであり、Arm IoTリファレンスデザイン基板「Corstone-320」と共に提供する。IoT向けと言っても生成AIの言語モデルとなっているトランスフォーマ・ネットワークやCNN(畳み込みニューラルネットワーク)をサポートする。


ラピダスにも進展があった。シリコンバレーの一角サンタクララに営業拠点となる米国法人Rapidus Design Solutionsを設立した。ここで新興企業からの営業活動に力を入れるという。社長には、AMDやIBM、NetApp、SanDiskでセールス・マーケティング業務を行ってきたHenri Richard(アンリ・リシャール)氏が就任した。


データセンターへの大きな投資案件ではMicrosoftが日本にあるデータセンターに29億ドルを投資して拡充する。Microsoftは東日本と西日本にそれぞれデータセンターをすでに持っており、海底光ファイバを通して世界中のデータセンターとつながっている。ここにAIとクラウド基盤を拡充するためにGPUを含む計算資源を提供するという。経済産業省のGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)プロジェクトに協力するという格好になり、日本政府からの補助金に期待している。Microsoftのデータセンターは、コンピュータを大量に稼働させているコンピュータ棟が7〜8棟もある巨大なキャンパスであるが、セキュリティ上の関係から、それらの場所は明らかにしていない。


ルネサスが300mウェーハを使うパワー半導体の甲府工場を再稼働させた。この工場は2014年10月に停止し、買い手がつかず放置されていた。しかし、EV(電気自動車)や産業ロボットなど新規の半導体需要を見越し、再開することを2022年5月に決定した。搬入口を測り直すと300mm装置が搬入できることがわかり、旧150mmと200mmのラインを300mmラインに大幅にリニューアルした。シリコンのMOSFETやIGBTなどのパワー半導体は、モータ駆動や、カスタム仕様の傾向が強い電源回路などに使われる。これらの回路はシステムの消費電力を大幅に下げることができるため、シリコンパワー半導体の需要が高まることが期待されている。

(2024/04/15)
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