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クルマ用SoC開発に向け、新コンソシアムASRAが始動

新しいクルマ用SoCを開発するためのコンソシアム「ASRA(Advanced SoC Research for Automotive)自動車用先端SoC技術研究組合」が初めて説明会を開催した(図1)。このコンソシアムでは基本的に、チップレットを中核に据え、自動車メーカーが持つ電子システムのプラットフォームにするための集積回路を開発する。競争と協調の線引きはどうなるのか。

図1 ASRAの主要メンバー 中央がASRA理事長の山本圭司氏、その右隣り(右から3人目)が専務理事の川原伸章氏

図1 ASRAの主要メンバー 中央がASRA理事長の山本圭司氏、その右隣り(右から3人目)が専務理事の川原伸章氏


ASRAの参加メンバーは、OEM(自動車メーカー)としてSUBARU、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダであり、ティア1サプライヤーとしてデンソーとパナソニックオートモーティブシステムズ、そしてティア2およびティア3サプライヤーとしてソシオネクスト、未来図テクノロジーズ、ルネサスエレクトロニクス、日本ケイデンス・デザイン・システムズ、日本シノプシスが参加していた。ここに最近、スズキと日立Astemoが加わった(参考資料1)。

ASRA理事長でトヨタ自動車のシニアフェローでもある山本圭司氏(図1中央)は、「半導体がクルマの性能を決める時代に入ってきた。自動車向けの半導体やコンピュータ、電子システム、ソフトウエアなどこれまではそれぞれが開発してきたものをOEM(自動車メーカー)がまとめる形だったが、それを、1チームとして最適なものをそれぞれに提示して作っていく方向にしたい」と述べている。

クルマの電子システムでは、これまでのようなOEM、ティア1、ティア2というような垂直統合の仕組みがもはや崩れている。OEMは、ティア2の半導体メーカー、さらにはティア3のファウンドリと直接話をしなければならなくなってきたからだ。従来の垂直システムだと、OEMとなる自動車メーカーは、ファウンドリとは遠くなりすぎて、中核情報が遅れてしまうきらいがあった。だから、みんなが1チームとなってクルマの開発を進めていかなければならなくなったのである。

電子システムの鍵を握る半導体なしで、自動車メーカーは次世代のクルマを語ることはできなくなった。そこで自動車各社とも共通に使える技術としてチップレットをはじめとする先端パッケージング技術に目を付けた。

先端パッケージング技術ではチップレットやチップを共通のサブストレート上に置き、SiP(System in Package)としてICを構成する(図2)。ある自動車メーカーでは、例えばハイエンド向けのチップを4分割してSoCチップレットとし、ローエンドには1個のチップレット、ミッドレンジには2個のチップレットを使うことで、車種ごとにSoCを設計し直す必要がない。このため開発期間を短縮できる。またメモリもそのパッケージ内に収めておけばSoC(その中のCPU)との距離が短くできるためシステム性能が高まり、消費電力が下がる。


チップレットをベースとする車載SoCの嬉しさ

図2 ASRAの描くチップレット戦略 出典:ASRA


またチップレットという小さなチップにすれば歩留まりが上がるというメリットもある。CPUのプロセスノードとメモリや他の周辺回路チップレットやチップのプロセスノードが違ってもかまわないという柔軟性も上がる。

2024年3月29日にはASRAに対して、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から2023年度に10億円の研究開発費が下りた。これは「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発(助成)」というテーマに応募、認可されたプロジェクトとなった(参考資料2)。

ASRAがプロジェクトチームとして開発すべき研究課題は、チップレットを作製・実装する技術だけではない。SoCでは必ずCPUが必要で、その上にソフトウエアが走るコンピュータ動作をする。ただし、各SoCがやり取りをするメモリが共有されていなければ他のSoCがやり取りできなくなってしまう。このため「各SoCが持つメモリ内容を全てのCPUが共有できるというキャッシュコヒーレンシー技術を新たに開発していく必要がある(図3)。機能安全やリアルタイム性の技術も必要で、これらの技術を開発、提案し、標準化へとつなげたい」と専務理事の川原伸章氏(図1の右から3人目)は語っている。


チップレットをベースとする車載SoCに必要な技術開発

図3 チップレット開発に必要なハードウエアとソフトウエアの技術 出典:ASRA


また、厳しい環境に晒されるクルマの信頼性に関しても、このSiP半導体に使う材料技術を含め、開発していかなければならない。このため2024年度から5年間に渡り研究開発を続けていく。先ほどの10億円は23年度であるから、24年度にはさらに多くの金額の助成があるだろう。

SoC内のCPUは、OSやミドルウエア、アプリケーションなどのソフトウエアが必要だ。また、クルマではOSにリアルタイムOS(RTOS)も用意する必要がある。CPUでもArm、RISC-Vなどの選択肢がある。このためOEM各社が独自のCPUやSoCを作ることになる。OEMによっては独自のSoCが欲しいというケースがあるため共通化しない。

となると、SoCは各社まちまちだが、各社内では統一されたSoCを使うことで、競争しながらも開発期間の短縮が可能になる。ただし、SoCチップレットを使うという点では共通し、しかもメモリのコヒーレンシーを追求するという点でも共通な技術を開発できる。また、チップレットではチップレットやチップ同士を接続する端子のサイズと距離・ピッチなどは共通化しておく必要があるため、UCIe仕様に準じるとしている。

OSもRTOSを共存させるという点では共通かもしれないが、どのOSを使うという点では各社で競争することになる。もちろんミドルウエアは各社バラバラだろうが。その上で走るアプリケーションソフトウエアもバラバラになる。ソフトウエア開発での共通点を今後、探していくことになるだろう。ソフト開発者が各社とも大量に必要になる。これをどう解決するかが今後の課題だ。


参考資料
1. 「新規参画企業に関するお知らせ」、自動車用先端 SoC 技術研究組合 (2024/03/29)
2. 「NEDO による『先端 SoC チップレットの研究開発」の採択について」、自動車用先端 SoC 技術研究組合 (2024/03/29)

(2024/04/02)
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