Intel・TSMC・Samsung、米国に巨大工場〜中国外しとファンドリ時代を象徴
ついにIntelは、2兆円強を投じてアリゾナに2つの新工場を建設することを決定した。同社は10nm/7nmで出遅れたために、TSMCのファンドリ利用をアナウンスしていたが(編集室注1)、一転して自前の生産にこだわることになったのだ。そしてまた、これは米国政府が進めている中国たたきの新たな半導体産業強化策にも呼応しているプロジェクトにもなるのだ。このことの意味は大きい。
この2つの新工場は、ファンドリ事業を本格拡大するための施策でもあり、世界全体がファブレス+ファンドリに一気加速している情勢を反映している。CPU一本やりで戦ってきたIntelといえども、今後はファンドリでの戦いで一定の勝利を収めなければ、世界チャンピオンの座を脅かされることになる。いわば米国の威信をかけたIntelの新たな戦いが始まったのである。
そしてまた、Intelは、これに加えてさらなる新工場を米国および欧州に建設することも検討中なのである(編集室注2)。米国政府は、5.5兆円(500億ドル)の補助金を用意し、米国内に19のメガファブを呼び込むことを打ち出している。膨大な補助金がもらえるのであれば、米国に工場を作ろうという気持ちがIntelの中で出てくることは当たり前のことであると言えるだろう。
そもそも大手半導体企業の米国新工場の先駆けは、台湾のTSMCであった。米国アリゾナ州に2024年の量産を目指し、5nmの新工場を建設することを決めた。これまた1兆円を上回る投資が予想されている。もちろんのことではあるが、このTSMCのアリゾナ新工場に対して、米国政府はとんでもない金額の補助金を出すと言われている。
米国の巨大工場をアナウンスしたTSMCは、中国の南京工場の拡張については、消極的な姿勢に転じ始めた。すなわち、台湾政府が香港の二の前となるような状況を絶対に回避するとの姿勢があり、これがTSMCをして米国での生産の一気拡大に結び付いていったのである。
そしてまた、世界ランキング2位のSamsungも米国テキサス州に3nm対応の新工場建設をほぼ確定した。ロジックプロセスであり、こちらもシリコンファンドリを中心にする工場である(編集室注3)。2021年内に着工し、2023年の稼働を目指すが、投資額はやはり1兆円を超えてくる。
Intel、TSMC、Samsungという巨大な半導体企業が一気に米国での新工場建設を実行していくという流れは、中国政府にとってはとてもではないが、すごく困ったことになる、との感触を得ているだろう。半導体産業は、米国の国家産業であり、軍事防衛にも結び付くことであるからして、米国政府がこの作戦を一気推進することはあっても、引くことはないだろう。米国対中国の半導体という形での代理戦争は、これからも熾烈を極めるだけであろう。
はてさて、日本の半導体製造装置メーカーにとっては、もちろん嬉しい動きではあろうが、日本政府およびキオクシア、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサスエレクトロニクスなどの半導体デバイスメーカーは、こうした現象をどう捉えていくのか。この行方がひたすら気になるところではある。
編集室注)
1. Intelの前CEOのBob Swan氏はTSMCに委託するとは述べていない。TSMCへの依頼は選択肢の一つと述べたにすぎない。
2. Intelはすでに欧州のアイルランドに先端プロセスの工場を持っており、Intelのこのニュースに対してアイルランド政府は「この計画の中ではアイルランドにおける製造事業も拡張され、リークスリップで進行中の投資事業の完成時には1600人のハイテク分野の新規雇用が創出される見通しです」と述べていることから、アイルランドでの工場建設は間違いないだろう。
3. Samsungは、11年前にテキサス州オースチンに28nm/32nmプロセスからシステムLSI、ファウンドリを米国向けに始めている(「サムスンがロジック向けの32nmファウンドリ戦略をセミコンポータルに語る」)。拡張はやはりオースチン工場の近くになろう。現在人材募集中だ。