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半導体洗浄技術は日本が圧倒的な強みを発揮して世界をリードする得意分野

ベルギーの独立系半導体研究機関であるimecは、1992年以降、「Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces(UCPSS))と称する半導体プロセスのクリーン化・洗浄技術に関する国際会議を隔年で開催している(参考資料1)。

直近のThe 17th Symposium on Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces (UCPSS 2025)は、去る9月にimecに隣接した同機関の設立母体であるルーベン・カトリック大学(KU Leuven)工学部キャンパスで4日間にわたり開催された。世界中から過去最多となる350人余りの半導体技術者や研究者が参加した。日本からも過去最多の60人余りが参加した。

UCPSS 2025

図1 UCPSS 2025参加者の集合写真  出典:UCPSS主催者撮影、ベルギー・ルーベンカトリック大学工学部キャンパスにて


UCPSS 2025

図2 UCPSS 2025会場の様子 出典:著者撮影


同会議では、チュートリアル4件、招待講演4件、一般講演52件(要旨講演付きポスター展示16件を含む)の合計60件の講演が行われた。発表者の所属する組織の所在国による国別発表件数を表1に示す。

UCPSS 2025 発表件数

表1 UCPSS 2025における国別発表件数 出典:プログラムに基づき筆者集計


日本からは遠いベルギーでの開催にもかかわらず、日本から発表が最多となった。10組織から多彩な発表が行われた。ドイツからの発表のうち、4件はSCREEN ドイツ子会社による発表(そのうち3件は日本人による発表)であり、これらを含めれば、日系企業・研究機関からの発表は20件に達する。2位のベルギーは、15件のうち14件がimecからの発表であり、日本のように国内各組織からの発表というわけではない。

ISSCCやVLSI Symposiumなどの半導体国際会議の日本からの発表は、長期減少気味で欧米や近隣国(中国、韓国、台湾)から大きく差をつけられて日本の存在感が薄れるなか、日本には世界洗浄装置市場でトップ争いを演じる2大メーカーが存在し、中小洗浄装置メーカーや世界的な高純度薬液・純水メーカーも多数存在し、クリーン化・洗浄技術は日本が圧倒的に強いため、この分野の日本の存在感は際だっている。
日本勢による発表テーマの一覧を表1と表2に示す。表1は、SCREENグループからの発表、表2はそれ以外の日本人による発表である。SCREENによる発表の多さが際立っている。


UCPSS 2025SCREENグループからの発表

表2 UCPSS 2025におけるSCREENグループからの発表 出典:筆者作成


UCPSS 2025 SCREEN以外の日本勢による発表

表3 UCPSS 2025におけるSCREEN以外の日本勢による発表 出典:筆者作成


SCREEN グループからの発表のうち3件がimecとの共著であり、imecに研究者(所属はSCREENドイツ法人 )を派遣して先端ウエットエッチング・クリーニング開発の一端を担っていることが窺える。また、世界規模で大学や企業とも幅広く協業していることがわかる。

日本からの発表は、エッチング・洗浄技術、洗浄・乾燥装置、薬液、デバイスと広範にわたるテーマを取り上げており、研究者の層も厚い。セントラル硝子と三菱ケミカルといった材料メーカーが先端デバイス製造用薬液をimecと共同開発(薬液メーカーが開発した新組成の薬液をimecが評価)している。TELアメリカ法人からの発表は2件あったが、残念ながら東京エレクトロンの日本勢からの発表はなかった。


高アスペクト比微細パターン倒壊問題が最大の課題

シリコンウェーハ洗浄工程は、全工程の約3割を占めて、最頻工程となっており、増加傾向にある。今回のシンポジウムでは、全セッションの中で、「高アスペクト微細構造」が最大のセッションで、様々なパターン倒壊の考察や倒壊防止防止策が提言された。
3D デバイスのエッチングに関しては、3D NANDフラッシュメモリ製造用のSiN選択エッチ、GAA(ゲートオールアラウンド)ナノシートトランジスタおよびその先のC(Complementary)FET向けSiGe選択エッチ、 3D DRAM用のSi層の薄化などの発表が脚光を浴びた。環境問題に最も熱心に取り組んでいるフランスやベルギーからは、洗浄液の環境負荷低減や洗浄工程の環境対策についての発表が注目された。


UCPSS 2025 Congress Brochure

図3 UCPSS 2025予稿集 撮影:筆者撮影


なお、会場では、予稿集(図3)が配布されたが、発表論文は査読後に単行本として刊行されることになっている(参考資料2)。

参考資料
1. UCPSS
2. “Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces XVII” (書籍版はTrans Tech Publications 、電子版はScientific.netより2025年12月刊行予定で書店でも購入可能)

国際技術ジャーナリスト 服部 毅
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