これでよいのか?日本の半導体市場シェアが単調下落し続けついに5%台まで下落
米国半導体工業会(Semiconductor Industry Association)は、2025年8月の世界半導体売上高(3ヵ月移動平均)が前年同月比21.7%増649億ドルだったと発表した(図1)(参考資料1)。このところ、前年比20%前後の成長が毎月続いており、世界半導体市場は好調な状況が継続している。
8月の売上高を地域・国別に見てみると、アジア太平洋地域が前年同月比43.1%増、米州が同25.5%増、中国が同12.4%増、欧州が同4.4%増だったが、世界市場で日本だけが同6.9%減とマイナス成長となった。世界中で日本市場だけ2025年6月から3ヵ月連続でマイナス成長に陥っている。

図1 半導体月間売上高(単位:10億ドル)および前年同月比成長率(%)の過去20年間の推移 出典: WSTS/SIA
2025年8月の日本市場シェアは5%台
SIAは、毎月、世界各市場の対前年同月比および前月比増減率を工業会トップのコメントと共に発表しているが、世界全体に占める各市場のシェアは発表したりコメントしたりすることはない。そこで、WSTSのデータを基に8月の市場シェアを算出してみると、トップは米州の32.0%、次いでアジア太平洋地域が28.2%、中国が27.2%、欧州が6.8%、日本が5.7%となっている。
2025年1月から8月までの日本市場シェアを算出してみると、表1に示すように、2025年1月は6.9%であったものが、7月には5.9%と初めて6%を割り込み、そして8月にはさらに5.7%へと低下するなど、毎月単調に減少している。日本市場のシェア低下に歯止めがかかっていない状況であることがわかる。海外の半導体企業にとって、米中貿易摩擦の中にあっても中国市場は将来有望な魅力的な市場だが、日本市場は、ますます魅力のない市場となってしまっている。
表1 2025年1月以降の世界と日本市場の月間売上高(単位:億ドル)および世界市場に占める日本市場シェア(%) 出典:WSTSデータ、日本市場シェアは著者算出)
日本企業のシェアも下落の一途
ここで思い出すのが、経済産業省が2021年に発表した世界半導体業界における日本半導体企業(正確には日本に本社を置く企業)の売上高シェアの過去の推移と今後の予測図である(図2)(参考資料2)。日の丸半導体復興のために日本政府から巨額予算獲得しようとして、国会議員や納税者をびっくりさせるために英OMDIAに依頼して作成した資料の一部である。これによると日本企業のシェアは2025年に5%程度、将来的にはほぼ0%になってしまうと警鐘を鳴らしている。
図2 世界半導体売上高に占める日の丸半導体企業売上高のシェアの過去の推移と今後の予測 出典:経済産業省
一方、冒頭に紹介したSIAの統計(図1)は、半導体企業の所在地によらず、それぞれの国や地域で販売された半導体の売上高に関するものであり、集計対象が異なるが、いずれの統計も日本に関しては過去30年以上にわたり類似した傾向を示してきた。
台TSMCの熊本工場、米Micron Technologyの広島工場、ラピダスの千歳工場、パワー半導体企業各社の工場など、半導体のモノ造りに巨額の補助金の支給し続ける経産省は、半導体企業の本社所在地によらず、実際に製造する工場の所在地で半導体の売上高(出荷額)を算出するように統計の集計対象を変えて、日本企業群のシェアを高く見せたいようだが、そのための基礎データは各社から発表されることはなく、コストミニマム目指して複雑な国際分業を行っている半導体製造では、付加価値の低い最終組立・検査国(パッケージ表面に製造国の刻印が押される国)からの出荷金額で集計することになりかねないので、経産省の意図するような統計は集計される見込みがない。
半導体は夢を実現するツール
日本は、失われた30年(実際は35年)の間、「何を作るか(What to make)」ではなく「いかに作るか(How to make)」に注力してきた。現在もその延長で、経済産業省は、先端微細ロジックのみならずパワー半導体などのマチュアプロセスまで「モノ造り」に莫大な補助金を支給しているが、現在、日本に著しく欠けているのは「モノ使い」(魅力的な最終製品で使うためにどんな半導体を作るか、あるいは作った半導体をどこに使うか)である。モノ造り重視の経済産業省や文部科学省は、方針転換が求められる。
かつて、リアルタイム3D CGを備えた家庭用ゲーム機であるプレイステーション(PS)を生み出し、更にはそのために、世界最高速のゲーム機用半導体プロセッサをソニー・東芝・IBMで共同開発した久夛良木健氏が、社内の会合のたびに「半導体チップは自分の夢を実現するツール」だと言っていたのを思い出す(参考資料3)。1994年にゼロから出発したソニーのPS関連ゲーム事業の年商は、現在、4兆円を超えてさらに発展している。半導体を使って自分の夢を実現しようとする若者が日本からどんどん輩出され、半導体産業を盛り上げてほしいものだ。
参考資料
1. 米国半導体工業会プレスリリース、(2025/10/03)
2. 第1回半導体・デジタル産業戦略検討会議資料「半導体戦略の方向性(図17)」、 経済産業省、(2021/03/24)
3. 「新プロジェクトX: 異端児たちのゲーム機改革―プレステ開発の舞台裏に迫る」、NHK テレビ、10月11日(土)20時放送予定 (放送後もオンデマンド視聴可能)