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泥沼化した日韓関係〜実害が無いのに空騒ぎする両国政府の対応

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2019年7月4日、日本政府による半導体材料の対韓輸出規制が発動された。規制されたのは半導体やディスプレイの材料となるレジスト(感光材)、エッチングガス(フッ化水素)、フッ化ポリイミドの三品目。今後は個別契約ごとに日本政府の許可を取る必要があり、90日程度の時間がかかるようになる。ちなみに、半導体を作るには700の工程が必要であり、その中で一つの材料が欠けても製造することはできない。

2018年の韓国の総輸出の21%を占めるのは半導体であるから、Samsung、SK Hynixが仮に止まれば、それはとんでもないことになるだろう。しかし、経産省がかなり冷静に主張しているように、個別企業の対応がしっかりしていれば実際のところあまり影響は無い。2018年の韓国の一人当たりGDPは3万1300ドルまで伸びてきており、いよいよ日本の3万9200ドルに近づいている。ほぼ一流国の仲間入りを果たしているが、昨今の反日の嵐が吹き荒れるありさまはちょっと嘆かわしい。

文政権はここにきて輸出規制のことを平気で韓国制裁と決めつけている。なおかつ、最近では韓国侵略とさえ言っていることは驚きでしかない。もちろん、従軍慰安婦、レーダー照射、徴用工問題など一連の日韓関係の悪化が背景にはある。トランプ大統領に仲裁をお願いするも、はねつけられている。

この裏にはやはり米中貿易戦争の影響がある。日本が輸出する先端材料は、軍事・防衛にも欠かせないものである。日本政府は韓国に輸出した内の数十%が北朝鮮に流れており、かつ中国にまで流れていると判断しており、安全保証上のリスクがある。そしてまた、米国は中国製造2025を徹底的につぶそうとしており、中国に最先端の半導体材料が渡ることは絶対に許さないという立場だ。ちなみに、韓国政府は世界の半導体のサプライチェーンがズタズタになると言っているがどっこい、米国マイクロンは日本の東広島に新工場を立ち上げ、DRAMの増産体制が急ピッチで進んでいる。NANDフラッシュメモリーについては東芝四日市工場および北上工場がこれまたいつでも一気増産の構えにある。シリコンファンドリーでサムスンと敵対する台湾TSMCも有利な状況なのだ。つまりは今回の騒動で喜んでいる連中はいっぱいいることも認識しなければならない。

さてところで、いよいよ日本政府による韓国のホワイト国除外、これに対抗しては韓国政府によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄とつながっていき、ますます日韓関係は泥沼化してきた。これに対して米国政府は不快感を隠していない。何しろ問題となっている韓国の徴用工裁判の中身は、日米関係の基軸になっている1951年のサンフランシスコ講和条約を否定することにつながるのであるからして、さすがのトランプ大統領も今後は黙ってはいないだろう。

それはともかく、今回の大騒ぎの背景になっている半導体材料3品目の内容について、両国政府が隠しまくっている事実があり、これは誠に情けないばかりだ。だいたいが、日本政府が輸出規制をかけているレジストについては、サムスンやSKの主力製品であるDRAMやNANDフラッシュメモリー向けは一切含まれていない。簡単に言えば、EUV(極端紫外線露光装置)向けのレジストを対象にしており、これが本格化するのは数年先になるわけだから、現段階でこのレジストに関する問題は全く実害が無いのだ(編集室注)。

さらに加えて、JSR首脳部に聞いたところ、かのレジストについてはヨーロッパのベルギーにある関連法人から韓国に輸出されるわけであるからして、日韓の直接輸出とは何の関係も無い。そしてまた、フッ化水素についても、フッ化ポリイミドについてもドイツ勢が供給に名乗りを上げており、ここしばらくは韓国半導体に支障の無いことが明らかになってきた。これまた実害が全く無いのだ。

ああそれなのに、安倍首相も文大統領も眦(まなじり)を決して、「一歩も譲らない」との強硬姿勢を貫いている。これは茶番劇でしかない。いわば実害の無いところに規制をかけて、お互いに空パンチを打ち合っているだけであるからして、かなり笑えるコメディとしか言いようが無い。それにしても、こうした正確な情報を日韓の政府が明らかにしないことには何の意味があるのだろう。

日本政府は政治的なことは関係無いと言っているが、とんでもないことだ。これは半導体のサプライチェーンの問題では無い。両国政府の政治上の意地の張り合いがこの騒ぎを招いている。いい加減に終息してもらわないことにはやってられない、と思う半導体関係者は誠に数多いことであろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉


編集注)EUVレジストは、メモリではなくロジックファウンドリですでに使われている。7nm以降で6nm、5nmの微細化できるのはTSMCとSamsungしかいない。このため、供給が遅れればTSMCに後れをとると当初Samsungは考えていた。しかし本文でも述べられているように、JSRはIMECとの合弁会社を持ち、ベルギーから韓国へ納入することができる上に、デュポンにとってはビジネスチャンスと映る。Samsungにはほとんど実害がないといえそうだ。

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