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トランプ大統領就任前に米商務省、半導体メーカーへの補助金支給を相次ぎ確定

米国政府は12月に入り、半導体商業製造施設向けCHIPSインセンティプログラムに基づく直接資金(いわゆるCHIPS補助金)を韓Samsung、韓SK hynix, 米Micron Technology, 米Texas Instrumentsなど、いままで未支給だった大手半導体メーカーに支給することを相次ぎ最終決定した(参考資料1)。

次期大統領のトランプ氏が、「半導体製品に高い関税をかけさえすれば、海外の半導体メーカーはおのずと米国内で製造せざるを得なくなる」と述べ、「CHIPS法による補助金は税金の無駄」とCHIPS法存続に否定的な見解を述べているため、商務省ジーナ・レモンド長官は来年1月までの任期中に(つまり、トランプ氏の大統領就任までに)CHIPS補助金をすべて支給してしまおうとしているようである(参考資料2)。

表1 主要な半導体メーカーへの10億ドル以上のCHIPS補助金支給案件の状況

表1 主要な半導体メーカーへの10億ドル以上のCHIPS補助金支給案件の状況 Intelは支給内定段階では85億ドルだったが最終的には78億5000万ドルに減額、Samsungも64億ドルから47億4500万ドルに減額された。 出典:米国商務省資料を基に筆者作成


Micron に61億6500万ドル補助金支給を最終決定
米国政府は12月10日、Micron Technologyに最大61億6500万ドルの直接資金を交付することを最終決定したと発表した。この交付は、2024年4月25日に発表された、すでに署名済みの暫定的な条件覚書および商務省のデューデリジェンスの完了に続くものである。この資金は、ニューヨークに約1,000億ドル、アイダホに250億ドルを投資するというMicronの20年ビジョンの第一歩を支えるものであり、約2万人の雇用を創出し、先進メモリ製造における米国のシェアを現在の2%未満から2035年までに約10%に拡大するのに役立つと商務省は説明している。


SK hynixのHBM後工程工場建設に4億5800万ドル支給
米国政府は12月19日、SK hynixに最大4億5800万ドルの直接資金を交付することを最終決定したと発表した。この資金は、インディアナ州ウェストラファイエットに人工知能(AI)製品用のメモリパッケージング工場と高度なパッケージ製造および研究開発施設を建設するためのSK hynixの約38億7,000万ドルの投資を支援し、米国の半導体サプライチェーンの重大なギャップを埋める。

米商務省は、SK hynixへの支給に関して「世界有数のHBM(高帯域幅メモリ)メーカーであるSK hynixへのCHIPS投資は、米国のサプライチェーンのセキュリティ向上に向けた重要な一歩である。AIはHBM容量の成長と需要を促進しており、これはAI業界の中核的なサプライチェーン制約の1つである。超党派のCHIPSおよび科学法により可能になったこの投資により、HBM製造が米国で可能になる」と説明している。


SamsungのCHIPS補助金支給は26%減額され47億ドルに
米商務省は12月20日、韓Samsung Electronicsに最大47億4,500万ドルの直接資金を交付することを最終決定したと発表した。この資金は、サムスンが今後数年間に370億ドル以上を投資し、テキサス州の既存の拠点を、米国における最先端チップの開発と製造のための包括的なエコシステムに変えるための支援となる。これには、テキサス州テイラー市の2つの新しい最先端ロジックファブとR&Dファブ、および既存のオースティン施設の拡張が含まれる。

ジーナ・レモンド米商務長官は、「Samsungへの投資により、米国は今や最先端半導体メーカー5社(表1記載のIntel , Micron, TSMC, Samsung, GF)すべてを擁する地球上で唯一の国となった。これは並外れた成果であり、AIと国家安全保障に不可欠な最先端の半導体を安定的に国内に供給するとともに、何万もの高給の雇用を創出し、全国のコミュニティを変革することになる。超党派のCHIPS・科学法のおかげで、私たちは次世代のイノベーションを解き放ち、国家安全保障を守り、世界経済の競争力を高めている」と述べた。

Samsungが受け取ることになった補助金額は、去る4月に発表された約64億ドルより4分の1余り減額されてしまった。同社が投資の速度調節に乗り出したことで、補助金も減ったものとみられる。サムスン電子が先立って2022年に着工したテイラー工場の稼動時期も、当初の今年下半期から2026年に延期された。サムスン側は「効率的なグローバル投資執行のために投資計画を一部変更した」とだけ発表している。


TIの成熟ノード半導体製造施設建設に16億ドルの支給確定
米国政府は12月20日、商務省がTexas Instruments (TI)に最大16億1000万ドルの直接資金を交付したと発表した。この資金は、テキサスに2つ、ユタに1つを含む、3つの新しい最先端施設を建設するために、2030年末までにTIが180億ドル以上を投資することをサポートする。
「TI は、アナログおよび組み込み処理半導体の大手グローバル メーカーであり、ほぼ1世紀にわたって米国経済で重要な役割を果たし、最初の集積回路の発明を通じて現代の電子機器の技術的基盤を築いてきた。現在、TI は、電源管理集積回路、マイクロコントローラ、アンプ、センサなど、ほぼすべての電子システムの構成要素である、現在の世代および成熟ノード チップの製造を専門としている」と商務省は説明している。


Amkor, GlobalWafers, Entegrisなどにも次々補助金確定
米国に本社を置くOSATであるAmkor Technologyの子会社であるAmkor Technology Arizonaも先進パッケージング施設建設に最大4億700万ドルの直接資金を受けることも12月20日に決まった。

ジーナ・レモンド米国商務長官は「先進的なパッケージングは半導体サプライチェーンの重要な部分であり、この能力を米国にもたらすことで、製造後のチップを海外に送る必要がなくなる。アリゾナ州へのアムコーの投資により、米国は初めて世界最先端のパッケージング技術を手に入れ、国内のサプライチェーンの回復力を高め、今後数十年にわたり米国を世界的な技術リーダーとして確立する」と述べている。TSMC Arizona と密接に連携して同社の後工程工場として機能する見込みである。

このほか、韓国に拠点を置くSKCの関連会社である米Absolics(ガラス基板メーカー)に最大7,500万ドル、半導体部材メーカーのEntegrisに最大7,700万ドル、台GlobalWafersの子会社であるGlobalWafers AmericaとMEMCに4億600万ドルの補助金を支給することが12月中に決まった。

バイデン政権は2022年に制定したCHIPS法により、米国に投資する半導体企業に生産補助金390億ドル、研究開発(R&D)支援に132億ドルを投じるなど計522億ドルを配分することをトランプ大統領就任前に終えようとしている。果たして、これで米国の半導体製造がかつての輝きを取り戻せるか、注目して行こう。

参考資料
1. Chips for America ニュースリリース一覧
2. 服部毅、「トランプ新政権発足前に急ピッチで進められる米CHIPS法による補助金支給」、
マイナビニュースTECH+、(2024/12/03)

Hattori Consulting International 代表/国際技術ジャーナリスト 服部毅
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