デンソーのローム買収提案、どうなる業界再編?
先週末の3月6日金曜日、ある半導体関係の会合で筆者の隣に来られた方がロームのエンジニアだった。デンソーがロームに買収を提案したという当日のニュースで社内がごった返しているという。日経の電子ニュースで伝えられたもので新聞にはまだ掲載されていなかった。翌7日土曜の日経に大きく報道された。ロームは半導体専業メーカー、デンソーはティア1サプライヤーである。
図1 世界パワー半導体メーカートップテンランキング 出典:Omdia/Infineon Technologies
7日の日本経済新聞によるとTOB(株式公開買い付け)で全株取得を目指すとし買収額は1兆3000億円規模だという。ロームは「買収を含む株式取得の提案を受領したのは事実」とコメントしている一方、デンソーも「ローム株式の取得を含む様々な戦略的な選択肢を検討している」とのコメントを出した。前日までは、いずれもコメントを避けていた。
ロームはアナログ半導体やSiCパワー半導体などを得意としてきた。特にSiCパワー半導体ではロームは、SiC半導体の先駆者である京都大学の松波弘之名誉教授と共に開発してきた企業だった。しかし技術が量産できるようになってきた今、特に中国勢がSiCウェーハからパワーMOSFETまで作れる力をつけてきただけではなく、需要を大きく上回るほど生産したため海外へ安く販売して、ロームや欧米のSiCパワー半導体メーカーは辛酸をなめている。
それだけではない。これまでパワー半導体は日本が得意な分野と言われながらも、世界ではドイツのInfineonやスイスのSTMicroelectronics、米国のonsemiなど強敵が多く、トップテンランキングでは10位以内に日本の半導体メーカーがいるものの規模は小さい。日本のパワー半導体企業の規模が小さかったのは、富士電機やサンケン電気、三菱電機、東芝など半導体ユーザーが社内におり外販に積極的ではなかったためだ。最近になりようやく外販するも販路を十分確保できなかった。
規模の小さなパワー半導体企業を海外並みに大きくしようとすると誰でも考えるのが業界再編だ。規模の小さな企業が集まって売上額を大きく見せようとして、これまでも半導体LSIで業界再編があったがほとんど全て失敗した。それでもパワー半導体でそのような動きがあることは確かだ。
ただ、パワー半導体はそれだけでは動作しない。パワー半導体を駆動するドライバ回路、それに信号(命令や指令)を出すマイコンが最低でも求められる。モータの回転数を自由自在に扱えるデジタル制御がモータ駆動では常識になりつつあるからだ。Infineonはパワー半導体に加えアナログドライバICもマイコンも、さらにはマイコンに必要なデータを送るセンサとアナログICなども揃えている。これら全てをモータ駆動に提供できるからInfineonは強いのであり、パワーだけではどうにもならないことを熟知している。
デンソーとロームは2025年5月に半導体分野における戦略的パートナーシップ構築に向けて基本合意に達したと発表しており、アナログ半導体を開発で提携している。デンソーはその後、ロームの株式比率を5%弱まで高めていた。
デンソーは、トヨタ自動車グループとして出発したが、売上額のトヨタ比率は5割を切っている。ただ、トヨタが進めるSDV(ソフトウエア定義のクルマ)というコンセプトはデンソーも歩調を合わせ、SDV向けの半導体を設計する部門を作り、ASRA(自動車用先端SoC技術研究組合)の中心メンバーでもある。SiCはデンソーも開発しており、ロームとは競合するが、センサ周りのアナログICではロームの方が強いようだ。
デンソーとロームが組んでセンサからアクチュエータまでデジタル制御できるシステム向けの半導体が揃うなら、パワー半導体も確実にビジネスになりうる。
ただ、ロームはこれまで東芝デバイス&ストレージ社と、2023年にパワー半導体の共同生産を発表、12月に経済産業省の「半導体の安定供給確保のための取組に関する計画」として認定され(参考資料1)、最大助成金1294億円を受け設備投資に使っていた。東芝D&S社は従来のシリコン製のパワー半導体、ロームはSiC半導体をそれぞれ製造する枠組みである。それぞれの生産場所として、ロームの子会社であるラピスセミコンダクタの宮崎第二工場でSiCウェーハとSiCパワー半導体、東芝D&Sは加賀東芝エレクトロニクスでSiパワー半導体を生産している。
こういった政府を巻き込む形の買収となっているため、デンソーという第三者が入り込むことは可能だろうか。経済産業省は、「レガシー半導体や電子部品に対する今後の支援の考え方」を公表しており(参考資料2のp.77)、それによると、「これまでに措置してきたパワー半導体・マイコンに加えて、イメージセンサ等のアナログ半導体についても、国内基盤の拡張、再編・高度化、さらには国内回帰を促進することにより、供給力の強化を図り、これに要する支援を検討する」と述べている。この額面通りに受け取るならデンソーのローム買収もありうるだろう。
ただし、p.79でパワー半導体の業界再編に関しては、「パワー半導体領域における『規模』の確保は引き続き重要な課題。これまでの認定した案件(ローム×東芝D&S、富士電機×デンソー)もベースに、更なる国内連携・再編の促進を後押しする」と述べており、デンソーのローム買収は想定外として予断を許さない可能性もある。
参考資料
1. 「ロームと東芝デバイス&ストレージが共同で進める『パワー半導体の供給確保計画』が経済産業省より認定」、ローム、東芝デバイス&ストレージの共同ニュースリリス、(2023/12/08)
2. 「
半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」、経済産業省、(2025/12/23)


