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中国恐るべし!中国はスパコンに続き先端EUV露光装置も自主開発か?

国家安全保障の観点から中国の半導体産業の台頭を抑えたい米国政府は、ASMLがEUV露光装置を中国に輸出せぬように、2018年以降、オランダ政府に強く働きかけてきた。このため、中国最大のファウンドリであるSMICは、それ以前に注文していたEUV露光装置を未だに入手できていない。それだけではなく、韓SK hynixも中国無錫での先端DRAMの製造をあきらめざるを得なくなっている。

SMICが液浸ArFマルチパターニングを用いて(EUV露光を使うことなく)中国内の仮想通貨取引業者向けに7nmデバイスを製造していたことがリバースエンジニアリングでわかるやいなや、米国政府は自国では開発も製造もしていない液浸ArF露光装置の対中禁輸を日本およびオランダに要請してきた。これを受けて日本政府は、輸出規制半導体装置など23品目の中に液浸ArF露光装置(注1)を含めた改正省令を2023年7月から施行しようとしている。(参考資料1)。

そんな中、「北京、ハルビン、長春にある中国の3つの研究機関のチームが協力して密かに開発してきた最先端EUV露光装置のプロトタイプを完成させた」と一部の中国メディアが伝えている。中国科学院前院長で中国共産党前中央委員の白春礼氏が、去る4月13日午後、吉林省長春市にある中国科学院付属長春光学・精密機械・物理研究所を視察して装置の開発状況を確認し称賛したという。数年以内にEUV露光量産装置開発のメドが立っているとも伝えられている。プロトタイプがどのような性能かは明らかになっていない。


EUV露光研究者(写真左)から開発したEUV露光装置の説明を受ける中国科学院前院長の白春礼氏(写真中央) (出所:国立長春光学精密機械物理研究所、2023年4月13日)

図1:EUV露光研究者(写真左)から開発したEUV露光装置の説明を受ける中国科学院前院長の白春礼氏(写真中央) (出所:国立長春光学精密機械物理研究所、2023年4月13日)


中国では20年以上前からEUV露光の研究が行われていた

長春光学・精密機械・物理研究所は、すでに 2002年に中国初の EUV リソグラフィ原理確認装置を開発し、0.75 nm RMS よりも優れた波面収差を有する 2 ミラー EUV リソグラフィ対物レンズ システムの開発に成功していた。その後も研究を続け、 2017年には線幅32 nm対応EUV露光装置試作に成功し、その後5nmデバイス向けEUV露光装置の開発を行ってきた。

EUV露光技術については、ハルビン工科大学(Harbin Institute of Technology)でも長く研究開発が行われてきており、現在、長春研究所と協業体制にあるという。EUV露光装置向けの超精密マスク/シリコンウェーハステージは、清華大学の朱玉教授が率いるチームがすでに2014 年に開発しており、すでに長春研究所に提供された。華為(Huawei)の研究所も長春にあり、EUV露光装置の潜在的ユーザーとして、EUV露光装置開発に協力しているという。

蘭ASML Holdingsのピーター・ウェニンク最高経営責任者(CEO)は、中国でのこれらの動向を把握したうえで、4月26日の年次株主総会で、「中国が外国製の製造装置の調達を規制されている状況で独自の装置開発を目指すのは当然だ。競争相手(中国)が露光装置を生産するのは自然の成り行きなので、ASMLは最大の半導体市場である中国へのアクセスを維持するのは必要不可欠である」と述べている。中国への露光装置輸出規制は、米国政府の意向であって、決してASMLの意向ではなく、ウェニンクCEOはかねてから、規制は中国の自主開発を促進するだけだと苦言を呈していた。


中国スパコン開発と同じ成り行きで自主開発加速か?

ここで思い出すのが、中国におけるスーパーコンピュータの開発である(参考資料2)。中国では、今世紀初めには、スーパーコンピュータが皆無の後進国だったが、中国は今や世界最多のスパコン保有国になっている。2015年に、米国は、Intel製CPUチップを搭載した中国製の世界最高速のスーパーコンピュータが中国内で核開発に使われている事実を把握し、Intel製のスパコン用ハイエンドCPUの中国への輸出を禁止した。それを受けて、中国政府は、10年以上にわたり国家プロジェクトとしてひそかに自主開発してきた独自のCPUチップ(260コアを搭載した「Sunway SW26010」)を採用した国産スパコン「神威・太湖之光」を公表し、いままで世界最高速だったIntelチップ採用の中国製「天河2号」の3倍の演算性能を実現した。

ちなみに、この中国産CPUは、2003年に設立された国家高性能IC上海設計中心(Shanghai High Performance IC Design Center)が密かに設計してきたものである。なお、この国立研究所は、国家安全保安上の理由で、コンピュータCPUチップ国産化を目指して2003年に設立されたが、その存在は知られていなかった。「神威・太湖之光」は、2016年に世界最高速スパコンに認定され、20217年11月まで世界最高速機として国際的に認定されていた。

中国のEUV露光装置開発も、スパコンと同じように、米国の輸出規制がかえって中国研究陣による自主開発を促進することになりそうである。


1. 露光装置の輸出規制の詳細:経産省の半導体製造装置など23品目の輸出規制に関する省令改正条文は、極めてわかりにくく、装置メーカーは戸惑っている。例えば、露光装置に関しては「光源の波長が193nm以上で表した光源の波長に0.25を乗じた数値を開口数の値で除して得た数値が45以下の光学式露光装置」を規制対象にすると書かれている。著者が国産の露光装置すべてについて計算したところ、ニコンの液浸ArF露光装置だけが該当することが分かった(参考資料1)。

参考資料
1. 服部毅、「経産省が半導体製造装置など23品目の輸出を2023年7月より規制、その中身を読み解く」、マイナビニュースTECH+ (2023/04/03)
2. 服部毅、「貿易摩擦の最中にスパコン開発競争で火花散らす米中、次は半導体?」、セミコンポータル (2018/06/28)

国際技術ジャーナリスト 服部毅

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