iPadのアプリケーションプロセッサA4を巡るさまざまな憶測から真実を探る
日本経済新聞と関連会社のテレビ東京(旧12チャンネル)のWorld Business Satelliteにおいて、iPadのアプリケーションプロセッサA4はP.A.セミ製だと書かれていたが、これは単なるうわさの域を出ないようだ。Intrinsity(イントリンシティ)だという説も浮上しており、どの説が正しいのかまだ不明だが情報を集めて考察すると真実はわずかに見えてきた。
英ケンブリッジにあるARM本社
3月、かつてDECのプロセッサAlphaチップを開発し、新会社P.A.セミを立ち上げたDan Dobberpuhl氏がアップルを退社したらしいとのうわさが流れた。複数の情報ソースによるとどうやら真実らしい。アップルがP.A.セミを買収した時にP.A.セミの150名のエンジニアもアップルへ行ったが、彼らの一部もアップルを辞めたという。Dobberpuhl氏と一緒にP.A.セミを運営していたAmarjit Gill氏が最近サンノゼに立ち上げたAgnilux社に移ったとしている。
一方、別のソースによると、アップルがイントリンシティのエンジニアを獲得していると伝えている。マイクロプロセッサの専門アナリストであるLinley Gwennap氏はイントリンシティが設計しサムスン電子が製造するARMプロセッサだと考えている、と報じている。
EDNのBrian Dipert記者も同様だが、微妙に違う発言をしている。彼は、イントリンシティが開発したARMベースのプロセッサコアとイマジネーションテクノロジーズのPowerVRグラフィックスおよび画像・映像処理コプロセッサをサムスンが組み合わせた、と考えている。英語では、Intrinsity-developed ARM processor coreとある。これまでのアプリケーションプロセッサなら、ARMのコアを中心にいろいろな周辺やコプロセッサなどを集積してアプリケーションプロセッサとしている。だから、ARM processor core-based Intrinsity prosessorというのであれば話はわかりやすい。一体、このプロセッサはARM製なのかイントリンシティ製なのか。
この謎を解くカギが実はセミコンポータルの記事にある。セミコンポータルでは、2007年7月に「ARMがCortex—R4の速度を倍増する技術でIntrinsityと提携」という記事を掲載した。これはイントリンシティ社独自の1-of-Nドミノロジック技術と呼ばれる高速演算技術を取り入れており、消費電力を上げずに2倍に高速化できる技術である。つまりARMはこれまで開発していたCortex-R4のRTLコアを高速化するため、ドミノロジックを採用し、部分的にハードウエア化した。だから、イントリンシティと提携することで自社のコアの性能を上げたと考えればよい。こう考えると、上で述べたIntrinsity-developed ARM processor coreは理解できる。
とはいえ、今回のA4にこのコアがのっているかどうかはわからない。ただ、言えることは、ARMは昔から常に低消費電力プロセッサコアを開発してきた企業であり、そのミッションは今でも変わらない。自社のコアの一部をハードウエアロジックにすることで高速化を図っても消費電力が変わらないため、ARMはイントリンシティと提携した。
ということは、プロセッサコアはやはりARM製であることは間違いない。ただし、Cortex-R4なのかCortex-A9なのかはわからないが、もしCortex-A9にドミノロジックを採用したマルチコアなら、ARMはまた一歩、プロセッサ技術でリードしたことになる。