STMicro、28nm/18nmPCMメモリ集積のマルチコアMCUで次世代SDVへ準備
STMicroelectronicsは、ゾーンアーキテクチャに向いたMCU(マイコン)「Stellar」のシリーズを明らかにした。先行して販売していたStellar Eシリーズに対して、Armマルチコアによる仮想化技術を採り入れている。その高集積化のためNORフラッシュメモリに代わりPCM(相変化メモリ)を用い28nm、18nmへと微細化で対応する。
これまでのフラッシュマイコンでは40nm程度までしか微細化できなかった。Stellarシリーズで先行してきたEシリーズは40nmまでのマイコンであり、仮想化に対応していなかった。このため複数の機能(コンテナ)を利用する仮想化対応のため、今回のStellar PシリーズとStellar Gシリーズを開発した(図1)。
図1 ArmのリアルタイムコアCortex-R52とマイコンコアCortex-M4をそれぞれマルチコアで集積、仮想化に対応している 出典:STMicroelectronics
Stellar PシリーズはPowerの略である。例えばトラクションインバータ用のマイコン、OBC(オンボードチャージャー)の制御用マイコン、BMC(バッテリ管理コントローラ)用マイコンなど車両のパワー関係を制御する複数のマイコンを一つのマイコン(Stellar Pシリーズ)で実現する。これが仮想化である。
Stellar Gシリーズは、Gatewayの略である。近くにあるいくつかのECUに入っている各マイコンを1個のマイコン(Stellar Gシリーズ)で実現する。いずれのシリーズも、リアルタイム動作に備えるCPUコア(Arm Cortex-R52)と、通常のコンピュータ制御のためのCPUコア(Arm Cortex-M4)を各マルチコアで集積している。
図2 Stellarマイコンを搭載した基板で複数の機能を実現するデモ タブレット操作盤のボタンを押すとヘッドライトが点灯しドアが開く
STは、仮想化技術をデモするための基板(図2)を開発した。試作した2枚のボードをクルマのフロント(図2では見えない)とリア部に搭載し、タブレット操作板からボタンを一つ押すとフロント基板のStellarが動作し、フロントのライトがつくと同時にドアが開く、さらにEthernetを通してリアボードのStellarを動作させ、バックライトが点灯、シートを最適位置に動かす、というデモである。
マルチコアマイコンとなると、集積度が高くなるため微細化が必要で、これまでだとストレージメモリとしてNORフラッシュを集積していたが、NORフラッシュは40nmよりも微細にすることが難しかった。このためNORフラッシュに変わる不揮発性メモリとして、STが長年研究開発してきたPCMメモリを利用することになった(図3)。40nmから28nmへ微細化するとセル面積は0.019µm2と小さくなった。これまでのフラッシュや競合するMRAM(磁気抵抗メモリ)やReRAM(抵抗変化型メモリ)と比べて、最高のPPA(Performance, Power, Area:性能、消費電力、面積)指数だという。
図3 STは28nmからPCMメモリをマイコンに搭載する 出典:STMicroelectronics
PCMメモリを使ったマイコンで、実際にOTA(Over the Air)によるマイコンメモリの書き換えを行ってみた経験もあるとしている。今の所28nmプロセスで32MBのPCMメモリを集積している。
STのプロセスは特に微細化技術では、FDSOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)技術を使っており、同じ寸法ならバルクCMOS微細化技術よりも1世代先を行くと言われている。この技術は、リーク電流の原因となる空乏層を2方向から止めるためリーク電流が少ない。SOIウェーハを提供するSoitec社はフランスのグルノーブルに拠点を構え、STのクロル工場にも近く、長年SOIウェーハによる微細化技術を磨いてきた。STは28nmの先である18nm技術に関しても開発を進めており、IDMとして微細化技術をさらに磨いていく。今後に向けて、メモリ技術としての18nmプロセスのPCMも開発、立ち上げ中だとしている。
これらの仮想化マイコンはクルマのゾーンアーキテクチャを狙ったものだが(図4)、実際のゾーンアーキテクチャでは、まとめきれない、あるいは残ってしまうECUもあるはずで、そこには従来のSTM32A(AはAutomotiveの略)を使うことになる。
図4 クルマ用コンピュータの中でSTが注力する分野 出典:STMicroelectronics
Stellar製品としてはすでにPシリーズはP7、P6、P3製品を出荷しており、Gシリーズに関してもG7、G6製品を出荷している、Gシリーズはさらに7製品をこれからリリースしていく予定。ただし、ローエンドないしミッドレンジの下方展開で、これまでの製品を補間していくことになる。今後3年間で70品種以上をリリースする予定である。
参考資料
1.「STMicroelectronics、Valens、次世代クルマ向けシステムを展示」、セミコンポータル、(2025/02/05)