Infineon,SiCのセルの微細化、新ダイボンディング技術で性能・信頼性を向上
Infineon Technologiesは、第2世代のトレンチ構造のSiC パワーMOSFET「CoolSiC MOSFET G2」を3月に発表していたが、このほどその詳細について明らかにした。このG2(第2世代)では、オン抵抗を1桁ミリオームに下げると共に、熱抵抗を12%減らし電流容量を上げた。新製品は650Vと1200Vの2種類で、パッケージもピン挿入型と表面実装型を用意する。G2でパワーMOSFETのチップ設計から見直している。
図1 Infineon Technologies Product Marketing Director, Giovanbattista Mattiussi氏
性能を上げるために、セルと呼ばれる小さな縦型トランジスタを微細化した。パワートランジスタは等価回路的に小さなトランジスタを並列接続して、大電流を流せるようにしたものであり、小さな1個のトランジスタに相当する部分がセルと呼ばれる。ウェーハの裏面(ドレイン)から表面(ソース)に向かって縦方向に電流が流れるわけだが、セルの平面サイズを第1世代(G1)品よりも微細化することで性能を上げた、と同社製品マーケティングディレクタのGiovanbattista Mattiussi氏(図1)は述べている。トランジスタの出力容量Cossやゲート帰還容量Cdgが減り、応答スピードが上がった。軽い負荷で電流をあまり多く流さない場合のスイッチング損失は、第1世代のCoolSiC MOSFETと比べて、20%小さくなったという。
また、ゲート酸化膜のコーナーを改良して電界を緩和することで、壊れにくくなり信頼性を上げた。セルを微細化したことでオン抵抗も小さくなったという。特にオン抵抗は、耐圧650V品で6.7mΩ、1200V品で7.7mΩになった。これらの結果、一般的な負荷条件では、オン抵抗を同じものとして比較すると、スイッチング電力損失が5~20%も削減された。
パッケージについても従来のピン挿入型だけではなく表面実装型も追加し、顧客の選択幅を広げた。CoolSiC G1シリーズで初めて導入された「.XT技術」(参考資料1)によって熱抵抗を下げた。Infienonが開発したこの.XT技術は、チップをリードフレーム上にボンディングするときにハンダの厚みを従来の1/5に薄くできる技術で、拡散ソルダリング技術と呼んでいる。この技術は、チップとリードフレーム間にハンダを拡散させて合金層を作り、ハンダ部分を薄くすることで熱抵抗を下げた。この.XT技術はボイドの発生確率を下げるという役割もある。
同社フェローのPeter Friedrichs氏は、G2とG1との違いについて、「G1の時はまだ若い技術だったためにG2の開発にあたって、.XT技術を全面的に見直した」と同社が4月16日に開催した「Wide-Bandgap Developer Forum 2024」の中で語っている。G2では、熱抵抗はG1よりも12%下がり、放熱能力は14%改善したという(図2)。
図2 熱抵抗の削減効果は大きい 出典:Infineon Technologies
この結果、電流を6~7%追加することができるようになり、また放熱効果により動作温度を5度下げられるようになった。このため半導体の寿命は長くなる。さらに損失が少なくなったために動作周波数を50%上げることもできるとしている。これまで販売してきたCoolSiC G1はフィールドでの故障は1件もないため、出荷百万個当たりのSiC製品はこれまで出荷してきたSiのパワーMOSFETやIGBTと比べても、低いくらいのレベルだという。
Infineonはディスクリートからモジュールまで、CoolSiC G2製品をこれから拡充していく。最初のG1シリーズはすでに産業用と自動車用にピン挿入型、表面実装型、そして400Vから3300Vまで幅広い耐圧の製品を今後用意していく(図3)。2000Vや3300Vなどの高耐圧品は再生可能エネルギーや蓄電池設備などのパワーコンディショナーに応用される。耐圧が高ければ高いほど高圧送電線に使われるスイッチングトランジスタの数を減らすことができ信頼性も上がるため、Infineonは今後の有望な市場になりうると見ている。
図3 InfineonのSiC全製品ポートフォリオ 今後予定されているG2は薄いオレンジ色で示されている 出典:Infineon Technologies
SiC MOSFET製品としては、STMicroelectronicsの製品がTeslaのモデル3に導入され、SiCに起因する故障がなかったことから、自動車産業は今やこぞってSiCを採用する方向に向かっている。SiCパワーMOSFETの高い信頼性が実証された格好になっている。
参考資料
1. "How .XT technology in the latest 1200 V CoolSiC MOSFETs improve performance and lifetime", Infineon Technologies (2022/07/07)