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ミリ波送受信アンテナを8本備えたAiPパッケージの1チップレーダー

クルマの機能をソフトウエアで拡張するSD-V(ソフトウエア定義のクルマ)が今後のカーコンピューティングの主流になると見込まれているが、NXP Semiconductorはこのほどレーダーセンシング技術をSD-Vに一歩近づけるSoC「SAF86xx」シリーズ(図1)を開発した。この技術はソフトウエアの更新によりレーダーセンシング機能を拡張するという技術で未来の方向を示している。

SAF86xx / NXP Semiconductor

図1 ミリ波送受信アンテナを4本ずつ備えたワンチップレーダー 出典:NXP Semiconductor


SD-Vという概念は、以下のような考えから生まれた。寿命が15年と長い自動車にとって、車体というハードウエアは15年間維持できなければならないが、これだけだと新しい機能は付けられない。そこで、ソフトウエアの更新によって必要な新機能を追加できるような拡張性を持たせた設計をしようという概念がSD-Vである。新機能をソフトウエアで更新や追加ができれば、古いクルマであっても新しい機能を持たせることができるようになる。

NXP Semiconductorが提案するSD-Radarは、古いレーダーを取り付けられたクルマに、新たにレーダーを追加してもソフトウエアで全てのレーダーを制御できるようになる。現在のレーダーシステムは、クルマの進路方向(前方)の物体を検出するレーダーとクルマの四隅をカバーするレーダーが取り付けられている程度で、ドメインコントローラがそれらのレーダーを制御している(図2の左)。

今回発表したSoC「SAF86xx」シリーズは、レーダーの性能を一段と上げて、しかもAiP(アンテナインパッケージ)技術を使った製品であり、SD-Radarに対応できるようにするためネットワーク機能を強化した。SD-Radarとなるドメインコントローラは、16nm FinFETプロセスを使ったロジック主体のSoC「S32R」で、新製品SAF86xxシリーズはレーダー処理そのものを行うチップである。


拡張されたNXPのスケーラブルな車載レーダー・プラットフォームがSDVアーキテクチャに対応 / NXP Semiconductor

図2 将来レーダーを増やしてもソフトウエアの更新で対応するSD-Radar 出典:NXP Semiconductor


SD-Radarの一例として、NXPは従来前方レーダーと四隅のレーダーに、今後ボディの真横からの物体も検出するレーダーを取り付けて拡張する場合を想定する(図2の右)。クルマの真ん中にあるADAS ECUで表したチップがドメインコントローラで、ここがSD-Radarの役割を果たす。レーダーそのものがSAF86xxシリーズ(図3)で、前方以外に取り付けるレーダーとなる。


NXPの28nmワンチップ・レーダーがセンサーの小型化と性能向上を実現 / NXP Semiconductor

図3 レーダーチップの回路構成 出典:NXP Semiconductor


SAF86xxシリーズには送信アンテナ4本と受信アンテナ4本を備え、常に電波を発射しその反射波までの時間から物体までの距離を測定する。2022年に発表したSAF85シリーズと比べ、自動車やトラックなどの検出範囲を300mと長く、小型の電動バイクも200mまで検出できる。周波数77GHzで4GHz帯域のRF電波をFMCW(周波数変調方式の連続波)でチャープ信号を送信しその反射信号をとらえて物体を検出する。

ミリ波であるからアンテナとして共振する1/2波長は2mm程度であり、厚さ2mmのパッチアンテナ(共振器)を使う。図1のチップの裏側に8個の四角いパッドのない部分がアンテナとなっている。

AiPアンテナを取り付けたことで感度は、アンテナを付けないシングルチップレーダーよりも最大9dBm向上し、検出距離が伸びたとしている。また、従来のシングルチップレーダーであったSAF85xxシリーズでは40nmプロセスで設計されていたが、SAF86xxシリーズは28nmプロセスで設計したためRF性能は2倍向上したという。しかもレーダーモジュールは、85xxシリーズより30%小さい5cm×5cmと小型になったとしている、

路上前方の物体検出にはクルマの左右に配置する合成開口レーダーを使い、イメージング性能を上げている。今後、さまざまなレーダーが開発され、それらがネットワークでつながり協調センシングを可能にして検出精度を上げられるうえでも、SD-Radar技術は重要になってきそうだ。

(2024/01/23)
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