Appleの新型SoC、GPU・ビデオ機能を充実しながら消費電力を削減
Appleの新ノートコンピュータMacBook Pro向けプロセッサM1 ProとM1 Maxの消費電力あたりの性能は極めて高い。2年前に初めて設計したM1と比べ、前者は3倍、後者は6倍の性能だという。M1でCPUとGPUのコアがそれぞれ別チップだったのを1チップに集積、トランジスタ数は前者で333億個、後者は570億個となった。5nmプロセス採用。
図1 AppleのM1 Maxプロセッサ SoCの周囲に4個のLPDDR5ユニファイドメモリを配置したパッケージとなっている 出典:Appleのオンラインイベントから
Appleが独自開発したM1は市販のCPUよりも高性能であったが、今回のSoCチップはさらに3倍、6倍という性能になっている。Appleはもはや半導体ICのファブレス設計会社でもある。SNSの一種であるLinkedInで見る限り、Appleは数年前から半導体設計技術者を大量に募集しており、それが実を結んだといえる。CEOであるTim Cook氏のプレゼンテーションによると、M1発表時点ですでに設計をスタートしていたという。
今回のチップはCPUとGPUを1チップに集積するため、面積は大きくなったが、チップ全体のレイアウトや配置・配線のファブリックを設計し直した。M1 Pro、M1 Max共に、1パッケージにSoCチップと512ビットのバンド幅を持つLPDDR5メモリを4個周囲に配置しており、64GBのユニファイドメモリとしてCPU、GPUともメモリを共有することで高速化した。SoCプロセッサと4個のユニファイドメモリはシリコンのインターポーザを使って実装している。
CPU部分はM1 Pro、M1 Maxとも、高性能CPUコア8個と高電力効率CPUコア2個を導入している。性能を優先したいときには高性能コアを中心に、消費電力を下げたい用途では電力効率の高いコアを中心にする。やはり独自開発したPM(Power Management)ICとmacOSを使って、性能優先コアと消費電力優先コアの間に賢くタスクを割り当てることで性能とバッテリ寿命の最適化を図っているという。
GPUコアは両者で異なる。M1 Proでは16コア、M1 Maxでは32コアを集積しており、2年前のM1では8コアだったため、共に描画性能は大きく向上した。M1 MaxのGPUコアを2倍に増やしたことで性能は2倍に上がったが、チップ面積も増加した(図2)。各GPU機能の性能は以下の通りである;実行ユニット数はProが2048個、Maxは4096個、コンカレントスレッド数はProが49,512個、Maxは98,304個、浮動小数点演算性能はProが5.2 TFlops、Maxは10.4 TFlops、描画性能はProが82 Gpixels/秒、Maxは164 Gpixels/秒など。
図2 2年前のM1よりも高集積にして性能/Wを上げた 出典:Appleのオンラインイベントから
さらにビデオ圧縮・伸長機能であるメディアエンジンも強化、H.264に加えHEVC(H.265)のビデオコーデックエンジンを採用している。特にMaxはエンコーダを2個集積しており、ProResと呼ばれるトランスコーデックの性能も上げている。このことによって、映像作成は極めてスムーズになると思われる。
この他、機械学習を行う専用のニューラルエンジンも集積しており16コアで11 TOPSの性能を持つ。セキュリティ回路も搭載、ハードウエア検証されたセキュアブート機能や、脆弱性の攻撃をランタイムで防ぐアンチ-エクスプロイト機能、全てのファイルを高速に暗号化する機能などを集積している。
図3 M1 Proの主な機能 M1 MaxはGPUのコアを32個にし、ビデオエンコーダを2個に増やしたが、基本的にはM1 Proと同じ 出典:Appleのオンラインイベントから
さらにキャッシュメモリL2も内蔵しており、周辺にはThunderbolt 4コントローラや複数のディスプレイインターフェイスなども集積している(図3)。
図4 CPUの性能/Wは市販の8コアCPUと比べ1.7倍高い 出典:Appleのオンラインイベントから
高集積の結果、市販の8コアCPUのパソコン用プロセッサと比べて、30Wの消費電力での性能は1.7倍となり、同じ市販のプロセサと同じ性能の場合には消費電力は1/3以下の30%という低い値を示した(図4)。また、GPUコア部分の性能では、同じ市販のプロセッサのピーク時と比べて7倍もの性能を示した。ただし、市販のプロセッサにはGPUを外付けしている場合との比較である。