パソコンのCPUもアプリケーションプロセッサになった
Intel、AMDは、モバイルからデスクトップパソコンまでの用途に向けた新しいマイクロプロセッサを発表した。Intelが発表したのは第4世代のCore i3/i5/i7マイクロプロセッサ、AMDはJaguarクアッドコアを採用したA4、A6、A8、A10という一連のマイクロプロセッサ。
図1 Intelが発表した第4世代のCoreプロセッサ 出典:Intel
先週、台湾で開かれたComputex Taipeiを受け、アップルやパナソニック、エイサー、レノボなどパソコンメーカーが新製品を続々発表している。ところが、これまでパソコンやサーバー向けのマイクロプロセッサを出荷してきたIntelとAMDは、モバイル市場を意識したプロセッサに力を入れている。すなわち、これまでのようなCPUとは違い、CPUコアに加えグラフィックスコア、ビデオ処理プロセッサ、画像処理プロセッサ、PCI Expressをはじめとする各種インターフェース、DDR3メモリを直結できるノースブリッジ回路なども1チップに集積している(図1)。これらは、スマートフォンや携帯電話などのアプリケーションプロセッサそのものである。AMDは、クライアントプラットフォーム用のアプリケーションプロセッサと呼んでいる。
余談だが、Intelは同じような機能を集積したプロセッサをモバイルプロセッサあるいは1チップSoCと呼ぶが、決してアプリケーションプロセッサとは呼ばない。10年ほど前、Intelはアプリケーションプロセッサを開発していた部隊をMarvell Semiconductorとしてスピンオフして外部に出してしまったことが未だにトラウマのように残っているのだろう。当時のIntelはそれをアプリケーションプロセッサと呼んでいた。
さて、両社が狙うモバイル分野は、タブレットであり、キーボードを取り外せるタブレットである。後者のタブレットをIntelは2-in-1と呼び、AMDはハイブリッドタイプと呼んでいる。Intelは、2-in-1やタブレットのようなモバイル端末ではCPUの性能よりも使用感、すなわちユーザーエクスペリエンスを重視する時代に来ていると見る。
Intel、PC向けにも1チップのSoCプロセッサ
ユーザーエクスペリエンスに求められるプロセッサには次の特長があるとIntelはいう。一つはもちろんバッテリ使用時間を伸ばすこと。次はグラフィックス性能を上げてビジュアルな画面を実現することである。さらに、今回の第4世代CoreプロセッサからPC用機能として初めて1チップ化したこともIntelは特長に加えている。
今回、Intelは、第4世代のCoreプロセッサファミリとして、モバイルプロセッサ4シリーズ、デスクトッププロセッサを3シリーズ、8シリーズのチップセットを発表した。ノートパソコンが厚さ35mmから25mm以下に向かっているため、複雑な冷却システムではなく、チップ自身の低消費電力化を設計の主眼に置いた。低消費電力向けに電源電圧を下げても安定に動作させるため、パワーマネジメントIC(電源用IC)を一つのパッケージ基板上に載せた(図2)。
図2 新プロセッサのそばにパワーマネジメントチップを搭載する 出典:Intel
最先端な微細・高集積SoCのそばに電源を配置するPOL方式 (参考資料1)
IntelのCoreファミリのプロセッサには、Core i3、Core i5、Core i7とそれぞれ低消費電力版からハイエンド版まであり、さらにそれぞれを世代ごとに進化させている。今回は、各ファミリを第4世代にアップグレードした。
モバイル用途では、Core i5製品でもYシリーズは消費電力が最も低く、6W程度の設計を勧めている。このSDP(シナリオデザインパワー)は、タブレットや2-in-1タイプのようにディスプレイ側にプロセッサを実装する場合を前提とした消費電力。
プロセッサの消費電力を下げるため、これまではCステートを変化させることで対応していた(図3)。CPUコアの電圧を下げたり、クロックの供給を止めたり、キャッシュ内容の一部を捨て去ったりすることで、Cステートの段階を定めていた。消費電力を下げないC0から消費電力の最も低いC10まで設けていた。ただ、この方法では、CPUコアの消費電力は下がったが、その他の回路の消費電力までは下げられなかった。
図3 IntelがCステートと呼ぶ低消費電力技術 出典:Intel
そこで、Intelは、パワーマネジメントの仕組みを工夫した(図4)。OSが一定時間、割り込みタスクがあるかないかを聞いてくる割り込みタイマーを設け、割り込みがない場合にはスリープ状態にしておく。割り込みがある場合は次の割り込みタイマーが来る前に処理を済ませておく。ただし、次の割り込み要求が来たらスリープ状態からすぐに起き上がらなければならない。CPU、メモリ、コントローラなどデバイスごとにレイテンシ(遅れ)の許容値を求め、次の割り込みタスクが来る前に予め起動しておく時間を設定した。
図4 マイコンのように割り込み要請が来るため起動のタイミングを調整 出典:Intel
加えて、各デバイスが行うべきアクティビティ(活動)を、割り込みタイマー時刻の直後に済ますようにその時刻配置を調整する(図5)。Windows 8では、CPU以外のデバイスから割り込みが来てもそのアクティビティを次の割り込みタイマー手前に揃えているため、電源をオフできる時間帯を長くとれる。そうすると、最初の割り込みタイマーから次のタイマーまでの多くの時間にタスクを休ませることが可能になり消費電力を減らすことができるようになる。
図5 できるだけ同じ時刻に仕事(アクティビティ)して一斉に休み電力を削減するという発想 出典:Intel
Intelチップはプロセス的には22nmのFINFET(トライゲート)プロセスを利用する。図1のプロセッサには、演算に使うクアッドコア、グラフィックスプロセッサ(コアの数は明らかにしていない。図1の写真では10コアとも20コアとも見える)、L3キャッシュ、システムコントローラ、各種インターフェースなどが集積されている。
AMDはこれまで、パソコンからもっと上位のハイエンドなプロセッサまで扱ってきたが、今回は低消費電力タイプのタブレット用のアプリケーションプロセッサに力を入れている。このほど発表したTemashプロセッサにはデュアルコアのA4とクアッドコアのA6がある。図6はクアッドコアの例である。チップの回路ブロックはIntelの第4世代Coreプロセッサと似ている。
図6 AMDのモバイル用プロセッサTemash 出典:AMD
演算用のJaguarコアを4個、L2キャッシュ、グラフィックスとマルチメディア処理、各種インターフェース、DDR3メモリ向けのノースブリッジなどを集積している。今回のアプリケーションプロセッサでは、Jaguarプロセッサコアは20%性能向上、グラフィックスのGPUコア「GCN(Graphics Core Next)」は75%向上したとしている。
AMDはハイエンド製品としてデスクトップコンピュータ向けの製品AMD FX-9590プロセッサも最近、発表している。これは商用CPUとして最も高い5GHzの周波数で動作する。これはアプリケーションプロセッサではなく8コアを集積したCPU製品である。AMDはデザインノードではIntelのプロセスほど最先端ではない。AMDのクライアント製品マーケティング担当シニアマネージャーのGabe Gravning氏は、「消費者(ユーザー)はプロセスを選ぶ訳ではない。製造能力の優れたファウンドリであれば、Intelよりも1世代遅れていても問題はない。1世代遅れたプロセスで作られたiPadが大いに売れているからだ。ユーザが求めるのはエクスペリエンス(体験)であり、これがAMDの特長だ」と語る。
Intel、AMD共にWi-Fi Direct規格(Miracast)のホスト側としてテレビなどのディスプレイと無線で接続できるようなインターフェースを用意している。これは、Wi-Fiルータなどを介さずに、直接ピアツーピアでビデオ映像を送る規格である。ホスト側がゲートウエイの役割も果たすことで通信する。
参考資料
1. Alteraが高効率電源メーカーEnpirionを買収した理由とは? (2013/05/17)