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クルマのSD-V化と共にシミュレーションの需要も増えてくる

クルマが今後、SD-V(ソフトウエア定義のクルマ)になるにつれ、ますます半導体の出番が増えてくる。SD-Vでは頭脳となるSoCと、センサとなるイメージセンサやレーダー、LiDARなどのセンサが増えてくると共に、システム上のセキュリティやセンサフュージョンなど新しい半導体はますますシステムに近づく。シミュレーションメーカーのAnsysは、半導体の世界にもシミュレーションが不可欠になることを訴求している。

Ansys Can Simulate Multi-Scale + Multiphisics / Ansys

図1 半導体トランジスタから回路、チップ、パッケージまでシミュレーションが重要になる 出典:Ansys


半導体にシミュレーションがこれから重要になってくることは、TSMCがソフトウエアツールの仲間(アライアンス)に従来のEDAベンダーに加え、シミュレーションベンダーのAnsysも迎えたことからもわかる。特に、高集積化による熱やノイズ、シグナルインテグリティなどチップを実際に作る前に評価できれば(図1)、作り直しの回数が減る。3D-ICのようにチップとチップを重ねるICでは、熱や機械的な応力によるチップの割れを防ぐ設計ができる。チップを出荷した後もシステム上の使われ方による影響を調べることもシミュレーションで可能になる。

シミュレーションやCADのメーカーは、これまではクルマをはじめとする製造業が主たる顧客だった。このためシミュレーションとしては機械的な応力や流体力学、熱力学、電磁界解析など、機械工学と電気工学のシミュレーションが主体だった。ここに半導体の世界としてトランジスタから回路、チップ、パッケージ実装に至るまで、電力や熱、信号分布、電磁波の伝搬、機械的な構造解析なども求められるようになってきた。

一方、半導体ではTCADのようなトランジスタモデルによる電磁界や電流の動きなどをシミュレーションで可視化した。しかし回路となるとSPICEという回路シミュレータが使われてできたが、物理的なモデルとは違った。半導体では電流分布や電力分布、熱などが主体だったが、それぞれの特性マージンを考慮して製品化に至った。

しかし集積度が上がり、チップレットや3次元化によるスタック構造などになると別のシミュレーションが必要になる。ここにAnsysのシミュレーション製品が活きてくる。ロジックLSIではシグナルインテグリティやパワーインテグリティなどをシミュレーションで評価でき、RFの送受信機だと電波の吹き出しを可視化してみることができる。さらに信頼性や、ハードウエアセキュリティも加わる。(図2)


Phisical Integrity of Semiconductors / Ansys

図2 半導体デバイスはシステムともつなぐシミュレーション時代がやってきた 出典:Ansys


さらに半導体の回路やチップ、パッケージになってからのシミュレーションだけではない。出荷されモジュールやシステムに搭載されると、システムでの熱や電力の分布をチェックする必要がある。ここにマルチドメイン、マルチフィジックスという複数の変数を扱うモデルを作り数値演算のシミュレーションを扱うことになる。


AnsysのJayraj Nair氏

図3 AnsysのHi-Tech & APAC担当Field CTOのJayraj Nair氏


これまでは、機械系、電気系と別々の顧客だったが、これからは、システム関係の顧客に対してさまざまな物理学で対応するだけではなく、それらの組み合わせなどのさまざまなモデルも必要となる。AnsysのHi-Tech & APAC担当Field CTOのJayraj Nair氏(図3)は、「これからのマルチドメイン、マルチフィジックスの時代にはこれまでサイロ(縦割りの組織)を横串で協力し合う必要がある」、と語る。日本のサイロは手ごわいことを同氏は知っているが、「横串で協力し合うことこそ、新しいイノベーションを生むことにつながる」、と言ってはばからない。

(2025/05/28)
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