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Arm、モバイル向けレイトレーシング技術を集積した新GPU「Immortalis」

ArmはIPベンダーであるにもかかわらず、コンピュータシステムの高性能化に力を入れている。昨春、専用コンピュータに向けたArm V9アーキテクチャを発表したが、このほどV9に見合う新ブランドのGPU「Immortalis」を発表した。第1弾はImmortalis-G715で、描画のレンダリング機能にはレイトレーシング(Ray Tracing)技術を用いた。レイトレーシングは、写真か絵か見分けがつかないほど鮮明な画像を描く技術。

Gaming Performance Unleashed / Arm

図1 新しいGPUコアのImmortalisシリーズ 従来のMaliシリーズから大幅に刷新、拡張性を重視した 出典:Arm


Armは、コンピュータの高性能化を追いかける場合でも、消費電力を減らすことは大前提。Armアーキテクチャの電力効率の高さは言うまでもない。ここに計算負荷のとても大きなレイトレーシング技術を採り入れた。この技術は、例えば卓上のリンゴの色つやを外からの光と室内の照明の光、壁や物などからの反射光などリンゴに当たるあらゆる光の道を計算し、写真の画像とグラフィックスの絵との区別をなくす程度に精密な光の当たり方を計算する。計算負荷が大きく、Nvidiaのような性能優先するGPUチップにしか実現できなかった。消費電力を優先するモバイル用のGPUでは難しかった。今回、モバイルで出来た理由は明らかにしなかったが、モバイルゲーム機ではインパクトが大きい。

レイトレーシングを利用することで、グラフィックス性能は前世代のMali-G715と比べ、Immortalis-G715は15%向上、電力効率も15%向上したという。Armは、GPUのコアIPではこれまで同様、前世代よりも15%ずつ性能、電力効率は改善を続けているといえる。

今回、レイトレーシング技術をモバイルゲームに採り入れたことで、これまでにない体験を可能にする。そこで、不朽の名声という意味でImmortalisという言葉を使った。GPUコアが10コア以上の製品で、ArmはGPUコアのフラグシップ製品にする。特にこれからはデータセンターやHPC(High Performance Computing)のようなコンピューティング能力が求められるWindows-Armのような分野では新ブランドを採用する。ニューラルネットワークモデルでの計算に向いたGPUであるため、機械学習(ML)性能は2倍となっている。

今回の性能では、従来のハイエンドGPUであるMaliとの差は大きくないが、Immortalisでは更なるコアの増大、すなわち30〜40コアでも性能が出るような設計を組み込みが可能としている。レイトレーシング技術はハードウエアとしてGPUに集積されており、Armはリアルタイムのレイトレーシング作業という言い方をしていないが、レイトレーシング演算は速いはずだとしている。

コンピューティングの高いシステムでは、数値演算向けの行列演算にはGPUが適しているが、制御もできるCPUの性能も上げるためのCPUコアとしてCortex-X3も開発した。これも前世代のCortex-X2と比べてスマートフォン用では25%性能を上げ、パソコン用の性能としては34%も上げている。

Armは総合演算ソリューション(TCS)として演算能力の高いCPUとGPUを集積したArm v9アーキテクチャを提案している。ここでは、演算性能やML性能、プログラマビリティに加え、セキュリティ強化も重要な技術となる。メモリの改ざんを防ぐMTE(Memory Tagging Extension )や、PAC(Pointer Authentication Code)と呼ぶ、外部の攻撃者が作り出したポインターを検知するために、ポインターを認証するコードを付ける技術を導入している。ポインターはアドレス値などを格納した変数のこと。いずれもメモリの改ざんを防ぐ技術である。


The Path to Ultimate Performance / Arm

図2 総合演算ソリューション(TCS)のロードマップ 2024年までのソリューションが予定されている 出典:Arm


Armは、TCSのロードマップも作っており、今回のソリューションは、Immortalis-G715とCortex-X3を使ったTCS22(図2)であり、来年TCS23には、CPUコアとしてCXC23に、HunterとHayesを採用、Immortalisにはコード名Titanを集積する。再来年のTCS24には、CPUコアとしてCXC24とChabertonとHayes、GPUコアのImmortalisにはKrakeが集積される。これらの開発コード名はCPUとGPUに使われるが、GPUにはImmortalisシリーズ名が付くことになる。

(2022/07/13)
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