半導体需要の高まりから製造装置メーカーの好調な決算相次ぐ
半導体不足は相変わらず続いている。これを受けて半導体メーカーは増産を継続しており、製造装置メーカーが過去最高を記録し続けている。Applied Materialsや東京エレクトロン、ASMLの決算発表から上方修正が相次いでいる。一方、将来をにらんだ量子コンピュータの産学連携が進んでいる。
8月19日の日本経済新聞は、台湾TSMCの時価総額が東アジアの企業でトップに立ったと報じた。中国当局によるアリババ集団とテンセントのインターネット企業への締め付けで株価が下がり続けTSMCがトップに立った。ただ、TSMCは供給が不足している車載用半導体(特にマイコンなど)を増強しているものの、追いつかない状況が続いている。
先週の「週間ニュース分析」で報じたように(参考資料1)、台湾のIT企業の成長もこれまでの2桁成長から7月は6%成長、と鈍化し始めた。18日の日経産業新聞から、今回台湾で不足している半導体の種類が明らかになった。電源用のパワーマネージメントICやディスプレイドライバ、DRAMなどだとしている。
また、ボストン・コンサルティング・グループの小柴優一氏への20日の日経産業のインタビュー記事でも足りない半導体を解説している。中長期的に逼迫しているのは、台湾のファウンドリが手掛ける28~40nm品の半導体だという。車載用のマイコンがこのプロセスを使っているからだ。パワーマネージメントICなどのアナログ半導体も不足しており、200mmウェーハで生産している製品だという。200mmプロセスは中古製造装置が多く、その製造能力を急に引き上げられないからだとしている。同氏は、需給の逼迫は1~2年続くと想定している。
供給不足を受けて、半導体メーカーの増産体制について棚卸資産の状況を日経が調べ、20日の朝刊で報じている。TSMCやIntel、Samsung、Micron、Infineonなど大手9社の棚卸資産を調べたところ、直近四半期には過去最高の647億ドル(約7兆円)に達したという。9社にはメモリ大手4社が含まれているが、ロジックと車載品の増加が目立つとしている。つまりメモリメーカーの棚卸資産は減少しており、これから不足感はそれほど大きくなさそうだ。む
半導体メーカーは新工場の設立などで生産能力を大幅に上げようとしているものの、解消されるまでには2~3年かかる。このため現状の工場内で製造装置のような設備投資の増強で対処している。現実に東京エレクトロンやApplied Materialsなどの決算発表では、直近の四半期での売上額と営業利益率は、それぞれ前年同期比44%増の4520億円と31.4%、61億9600万ドルと32.7%と絶好調だ。いずれの企業も半導体と液晶の製造装置を生産しているが、半導体の方が圧倒的に良い数字となっている。半導体製造装置だけだと、東京エレクトロンの売上額はサービスも含め4379億円で営業利益率は34.9%、Appliedのそれらはサービスを除き45億5400万ドルで営業利益率は40%、とさらに良い業績だ。ASMLも同様で、直近の四半期では売上額40億ユーロ、営業利益率30.8%となっており、通期でも2020年売上額の139億7900万ユーロよりも35%増えると見ている。
半導体不足は長期的には半導体産業の成長が今後も長く続くと見ることが順当だろうが、研究開発には産学共同で役割を分担することがリソースの有効活用になろう。23日の日経産業は産学連携特集を組み、AIや量子コンピュータ、ライフサイエンスなどの例を採り上げている。特に量子コンピュータはIBMの装置が川崎市の「かわさき新産業創造センター」に設置され、7月米IBM製の商用量子コンピュータが稼働したと報じた。利用主体は、2020年に東京大学が設立しトヨタや日立製作所、東芝などが参加する「量子イノベーションイニシアティブ協議会」である。
量子コンピュータとしては慶應大学や東北大学がカナダD-Wave社の量子アニーリング、慶應大学がIBMの装置を利用してきたが、東京大学の協議会には企業も参加する産学共同を推進する。IBMのゲート式量子コンピュータ装置は超電導SQUIDを利用して、1と0を表現するが、同社は量子ビットの増強を図ると共に、1と0が共存するコヒーレンス時間を長くするといった実用的な研究も行っている。1と0が共存しそれぞれを並列演算できれば、演算速度は驚異的に上がる。しかし量子状態を実現するためには絶対温度近くまで10mK(1/100K)という極限まで冷却する必要があると共に量子ビットを上げれば上げるほど配線数が指数関数的に増加し、SERDESなどの半導体で制御しなければならない。課題は山積しているが、量子コンピュータは解くのに時間のかかる演算には強い味方となる。
参考資料
1. 「半導体不足は半導体製造装置業界にも波及」、セミコンポータル (2021/08/16)