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半導体不足は半導体製造装置業界にも波及

世界的な半導体不足は、半導体価格の上昇を生み、半導体メーカーの売上額を押し上げた。しかし、半導体不足がさまざまな電気製品の生産ラインを止めたり減少させたりしている。挙句の果てに、半導体製造装置でさえ半導体チップ不足で生産が間に合わないという事態が出始めている。装置が生産できなければ半導体の製造能力を増やせない。

半導体不足で自動車メーカーの生産ラインが一部止まっているが、三菱電機はエアコン用半導体の供給不安から、22年3月期の家庭電器部門の営業利益予想を4月公表比150億円減の660億円に下方修正した、と8月13日の日刊工業新聞が報じた。同紙によると、東芝は半導体不足を理由に22年3月期連結業績予想(米国会計基準)を据え置き、シャープはパソコンやタブレット端末向けのディスプレイ事業がコロナ下で落ち込んだ売上額の回復が遅れている。

自動車メーカーは、減産を強いられており、2022年3月期の見込台数を続々下方修正している。ホンダは5月の公表値に対して15万台減の485万台、スバルは同4万台減の96万台にそれぞれ下方修正したと13日の日刊工業の別記事が報じた。トヨタも21年4〜6月期にコロナの影響を含めて10万台の減産、マツダは通期で10万台の減産を見込んでいる。

米Tesla Motors CEOのEron Musk氏は8月12日付けのTwitter上で、「ある種の『標準的な』自動車用チップに関して、極端に制約されたサプライチェーンの下で生産稼働している。もっとも問題なのはルネサスとBoschだ」と半導体メーカーを名指して批判している。ルネサスは火災から立ち直り、やっとフル生産できるようになったばかり。Boschは元々BMWやMercedes-Benzなどドイツの自動車メーカー向けに強い企業で、手が回らない状況である。ただ、新しい300mm工場を稼働し始め、徐々に生産数量を上げていく(参考資料1)。

今、半導体不足は台湾企業の勢いも鈍らせている。12日の日本経済新聞によると、台湾主要IT19社の7月の合計売上額は前年同月比6%の増収にとどまっている。6月までは8カ月連続で2桁増収が続いていた。特に鴻海精密工業をはじめとするEMS業界で顕著であり、iPhoneの6割強を生産する鴻海の7月の売上額は同3.6%増に留まったという。

さらに影響が出てきたのは、半導体製造装置メーカーだ。ウェーハからチップを切り出す装置を生産しているディスコは、装置を制御するための半導体が足りないため、半導体の種類を9割減らし4種類に絞る、と12日の日経が報じた。そのために回路設計を変える。ディスコが生産している装置は約60種類で、50種類の汎用マイコンを使って装置ごとに制御していた。これを1チップで複数の働きをする高機能品に変えることで4種類のマイコンに減らすとしている。

他の製造装置メーカーも半導体不足に対処している。半導体テスターメーカーのアドバンテストも半導体SoCを使っているが、テスターの納期が通常3〜4ヵ月の所、約6ヵ月に伸びている、と8月2日の日刊工業が報じている。チップを実装するサブストレートは2〜3年不足が解消できない状況だとアドバンテストの吉田芳明社長は述べている。

製造装置以外でも13日の日刊工業は半導体不足の影響を報じている。通信機器メーカーの富士通やNECもサーバや基地局の電子機器に調達上の影響が出ているとしている。キヤノンは、半導体の供給増をメーカーと直接交渉しているほか、設計変更なども実施している。カシオ計算機は楽器事業の影響が顕著で、22年3月期には営業利益で5億円に減益になりそうだという。小型モータドライブの日本電産は、精密小型モータや車載用部品で半導体不足の影響を受け、価格上昇に対処するためコスト削減を最大限行っているという。

参考資料
1. 「Boschの新工場にはAIoT、AR、ローカル5G等新技術が満載」、セミコンポータル (2021/06/22)

(2021/08/16)
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