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イマジネーションがミップスを買収するインパクトを考察する

先週、日本の新聞が報じないが、産業界にとって大きなインパクトを及ぼす可能性のあるニュースがあった。英国IPベンダーのイマジネーションテクノロジーズ(Imagination Technologies)が米国のRISCプロセッサコアベンダーであるミップステクノロジーズ(MIPS Technologies)を買収すると発表した。このインパクトについて考えてみる。

スマートフォンや携帯電話、タブレットなどの携帯機器にはARMのプロセッサコアが数多く使われている。ARMによると、今日まで同社のプロセッサコアを集積したチップは300億個も出荷されており、2011年だけでも80億個にもなるという。これまで、性能は比較的良いが消費電力が特に低いことを特長として、携帯機器を中心にARMコアが使われてきた。さらにハイエンドのコア(Cortex-A15など)も揃えてきた。今後はマイコンにも使えるように割り込み、ウォッチドッグ、デバッグアクセスポートなどの周辺回路を充実させたCortex-Mシリーズに力を入れている。

一方のミップスは64ビット/32ビットのRISCコアをはじめハイエンド製品を中心にセットトップボックス向けに地位を確立してきた。これをミッドレンジからローエンド応用まで広げようとしている。

イマジネーションは、グラフィックスコアを中心にビデオプロセッサや無線モデムプロセッサなどを展開してきた。イマジネーションのグラフィックスコアは低消費電力という点が大きな特長である。少ない電力できれいなグラフィックスを表示する。CPUコアとして、マルチスレッドで並列処理可能なMetaというコアを持っている。しかし、中核となるコアがない。これまではイマジネーションのグラフィックスコアとARMのプロセッサコアの両方を使うアプリケーションプロセッサも少なくない。例えばアップル社のアプリケーションプロセッサやTIのOMAPなどが当てはまる。ところが、ARMはイマジネーションと競合するグラフィックスコアMaliも出荷している。

できればイマジネーションにとって中核となるプロセサコアが欲しい。ミップスにはグラフィックスコアがない。両者の組み合わせは唯一のARM対抗になりうる。インテルのAtomプロセッサはパソコン用プロセッサをベースにしてきたせいか、消費電力はそれほど低くはない。スマホやタブレット用途で消費電力削減は、電池を長持ちさせるためにマストである。MIPSのプロセッサコアは、アンドロイドをサポートするCPUアーキテクチャの一つであることも提携の理由の一つだ。

今回の提携(参考資料12)によると、イマジネーションへの売却株価は、MIPS売却の噂が出た時より以前の2012年4月11日時点での株価に40%プレミアムを付けて、7.31ドル/株とした。この買収とは別に、イマジネーションはミップスの持つ特許580件の内82件を6000万ドルで購入する。MIPSは、残りの特許498件を3億5000万ドルでBridge Crossing と呼ばれるコンソーシアムに売却する。Bridge Crossingは、持ち株会社であるAllied Security Trustが提供する買収機構である。Allied社のメンバーにはARM、インテル、IBM、RIM、オラクル、HP、フィリップス、グーグル、アバヤ(Avaya)がいるという(参考資料3)。

両者の提携によって、イマジネーションはミップスの持つ580件の特許全てを持つことになる (参考資料1)。このことは、電子機器メーカーにとって、プロセッサコアとグラフィックスコア、通信用コアも含めてワンストップショッピングで入手できることになる。スマホやタブレットなどの新興メーカーがLSIを設計するのに都合がよい。

これ以外のニュースとしては先週、富士通セミコンダクターが新しいパワー半導体GaNを使った電源の出力動作を確認、発表している。サーバー用の電源にGaNパワーHEMTトランジスタを使い、2.5kWの出力を得たとしている。6インチのGaN on Siデバイスとなる。GaNはJFETと同様ノーマリオンタイプだが、ノーマリオフ動作も可能である。インフィニオンがJFETのSiCトランジスタのゲートにカスコード接続することでノーマリオフ動作が可能なことをセミコンポータルで伝えてきた(参考資料45)。富士通は2013年後半から量産を目指すとしている。

もう1本明るいニュースとして、レアメタルの回収技術を東北の3大学、東北大、岩手大、秋田大がそれぞれ、回収技術を研究しているが、もっと効率的なシステムを構築するプロジェクトを始める。財源は、復興予算「素材技術先導プロジェクト」。

参考資料
1. イマジネーションのプレスリリース (2012/11/06)
2. ミップスのプレスリリース (2012/11/05)
3. Imagination to Acquire MIPS (2012/11/09)
4. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール−前編 (2011/08/18)
5. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール−後編 (2011/08/19)

(2012/11/12)
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