鳩山首相の環境目標スピーチはグローバル化を意識した発言
鳩山首相の国連総会、G20への出席、スピーチがこの2週間で最も大きなトピックスだろう。特に、2020年までに1990年比 CO2を25%削減することを明確な目標として掲げ、外国から拍手をもらった映像は極めて興味深い。先週は秋のシルバーウィークと呼ばれる5連休があったせいか、業界のニュースは少なかった。シンガポール、台湾の話題を採り上げる。
今回、鳩山首相は、すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が25%削減の前提となると断っており、先進国・発展途上国への呼びかけという形になっている。この数字に関して賛否両論あろうが、これに向けて環境技術を世界に先んじて開発すれば日本が優位に立てることは間違いない。かつてのマスキー法による排ガス規制により日本車が大幅にクリヤーするほどの技術を開発し、世界市場へ躍進できる基礎を作った。また、ブッシュ元大統領が京都議定書にサインしなかったことに対して全米自動車連盟が抗議し、環境対策車の製造をマストにしなければ欧州・日本に負けてしまう、という趣旨を掲げたことがあった。高い目標は高い技術を開発する動機付けになる。高い技術は他が参入できないことの裏返しでもある。
CO2を全く排出しない電気自動車(製造時や充電用電気はCO2を排出するが)は日本が得意であり強い分野ではあるが、逆に言えばこれまで自動車に参入してこなかったところが参入できる脅威でもある。9月28日付け日本経済新聞は、台湾企業が電気自動車を開発したというニュースを報じた。台湾はこれまで外国自動車メーカーのノックダウン方式による単純な組み立て、あるいは輸入しか自動車を入手する手段はなかった。いわば自動車のOEM組立生産だった。しかし、電気自動車時代は自主開発できることを今回示した。世界の電気自動車開発競争は激しさを増す。日本はどうやって差別化を図りビジネスをとっていくか、いよいよ試される時期が来た。
同じく9月28日の日経新聞は、シンガポール政府が海外の大学を誘致し、新たな研究開発拠点を構築することを報道した。3億6000万シンガポールドルを投じて、シンガポール国立大学の敷地内に延べ床面積6万平方メートルの研究施設「CREATE(Campus for Research Excellence And Technology Enterprise)」を建設、2010年までに完成させる予定である。すでに米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の米国外唯一のキャンパスであるSMART Centre (Singapore-MIT Alliance for Research and Technology Centre)が最初の入居者に決まった。日経新聞はイスラエル工科大学も入居すると伝えている。我が国は我が国の大学だけで成長できると考えているのだろうか。
グローバル化の動きに関して、うれしいニュースがある。地上波デジタルテレビ放送の方式には大きく3つの方式があるが、日本は独自方式ISDB-T(13セグ)を使い、携帯電話方式と同様、またもや日本だけが独自規格に走ってしまうのかと思われた。唯一ブラジルが日本方式の採用を決めたが、ブラジルだけでは世界に対抗できない。ところが、ブラジルが南米諸国に働きかけ、南米全体をこの日本方式に統一しようと動いてくれたという。ブラジルに続き、ペルー、アルゼンチン、チリが採用を決め、さらに広がる見込みだと伝えている。ブラジル政府の協力、NECや東芝のセールス力、さらに技術的にも山岳地帯や山間地によくある電波干渉マルチパスに強い日本の方式も功を奏した。いわば、政府協力・民間営業力・民間技術力の三位一体が南米市場獲得につながったといえよう。
9月26日の日経新聞には欧州のRoHSやREACHなどの環境に悪影響を与える物質を電子機器・部品に使わないという規制が世界の産業を揺さぶっているというニュースがあったが、実は産業界の規制と標準化は表裏一体である。昨年セミコンポータルでは「車載半導体、品質とトレーサビリティのインパクト」において半導体チップのIDやトレーサビリティが重要であることを伝えたが、このID付与やトレーサビリティをISOで標準化しようという動きが最近、出ている。欧州・米国が先に標準化し、その標準規格にのっとっていない製品は上市できない、という規制につながる可能性が極めて強い。標準化や規格はそれを満たさない製品を規制するということにつながるため、標準化、規格化はビジネス的には技術以上に重要なファクタである。この認識が薄いとまたもや日本は世界からおいてきぼりになる恐れがある。