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SiCパワー半導体、サプライチェーンからOEM確保まで垂直統合化へ動く

SiCパワー半導体市場が急速に湧き上がっている。クルマの電動化によりインバータやオンボードチャージャーにSiCが使われているが、このEV市場に向けて安定供給するための戦略的な提携やM&Aが活発化している。SiCパワー半導体の市場規模はまだ16億ドル程度だが、2026年にはCAGR35%で53.3億ドルに増加するという見通しまで出てきた(図1)。

Scale of Global Market for SiC Power Device (Million USD) / TrendForce

図1 SiCパワーデバイスの市場は年平均35%で成長 出典:TrendForce


2022年におけるSiCパワー半導体の市場はまだ小さい。企業ランキングをTrendForceは公表しているが、今後は流動的でどの企業にもチャンスはある(図2)。現在1位のSTMicroelectronicsは、2017年に出荷されたTesla社のモデル3に搭載された。2位に食い込んでいるInfineon Technologiesは、現代自動車やVolkswagenに採用されたことでこのところ、倍々ゲームで出荷が増えているという。第3位のWolfspeedは旧Cree社から社名を変更した。


Global Market Share of Suppliers for SiC Power Device in 2022 / TrendForce

図2 2022年におけるSiCパワー半導体企業上位5社 出典:TrendForce


TeslaのEV出荷台数は最も多いため、今のところSTMがトップを占めているが、今後採用されるEVの売れ行き次第で、SiCのシェア争いの地図は大きく変わってくる。日本勢はロームの5位がやっとで、2022年で8.1%とトップグループにしがみついている状態。売り上げを伸ばすためには、トヨタやホンダ、日産など国内への売り込みはもちろん、海外のOEMにも売り込めるようにすることが早道である。日本のOEMは慎重だから、海外OEMから先に使ってもらうような働きがけが欠かせない。

これまではSiCの使用は少なかったが、これからは生産能力を上げるためにサプライチェーンを整える動きが活発になっている。それも単なる製造に必要な材料やプロセス技術の垂直統合だけではなく、カスタマとなる自動車メーカー(OEM)と提携する企業が増えている。ロームは2009年にSiCウェーハを製造するSiCrystal社を買収、ウェーハの供給源を確保し、製品製造まで一貫生産できるようにした。さらに、2020年には傘下のSiCrystalのウェーハをSiCデバイストップのSTMicroelectronicsに提供することで合意した。生産したSiC半導体製品を確実に最終ユーザー(OEM)に使ってもらうため、22年7月にはそれを車載向けにパッケージングするドイツのSemikronと提携、パワーモジュールを世界市場に向けていく。

ロームだけではない。STMはスウェーデンのSiC結晶メーカーNorstel ABを2019年に買収したが、ロームからも購入している。さらに21年にはCreeともSiCウェーハ供給で長期契約をしている。イタリアのカターニャ工場とシンガポール工場で6インチSiCウェーハのプロセスラインでSiCパワー半導体製品を製造しているが、2021年には8インチウェーハも生産できるようにした。STMはTeslaだけではなく、SiCパワーモジュールをクルマのティア1サプライヤーのドイツのZFにも出荷する契約を2023年4月に結んだ。

第2位のInfineonも負けてはいない。Cree傘下だったWolfspeedの買収に失敗したが、CreeからSiCウェーハの供給を受けている。さらに21年には日本の昭和電工(現レゾナック)からもウェーハ供給を受け、22年8月にSiC結晶を供給するII-VI(ツーシックス)社と供給契約を交わした。23年1月にはレゾナックと新たに複数年の供給契約を結んだ。レゾナックは8インチSiCウェーハの供給計画もある。またInfineonはSiCモジュールも手掛けており、現代自動車のEV「IONIQ 5」にSiCインバータモジュールDrive CoolSiCを21年に出荷した。さらに22年11月には大手自動車メーカーStellantisにSiC半導体を複数年供給することで提携した。具体的にはCoolSiCベアダイをStellantisのティア1サプライヤーに供給する。InfineonのSiCウェーハプロセス工場はオーストリアのフィラハに加えマレーシアのクリムでも生産する。さらに2023年4月には、プリント配線基板内にCoolSiCを埋め込む技術でプリント基板技術のSchweizerと提携した。

WolfspeedはSiCウェーハ供給だけではなくSiCパワー半導体製品も生産しており、半導体製品ではInfineonに次ぐ第3位の地位を占めている。自動車OEMとの供給に力を注いでおり、2021年にGMとSiC技術開発で提携、22年10月にはJaguar Land Roverと次世代EV向けのSiCベアダイで提携した。2023年2月にはZFと戦略的パートナーシップを締結、SiCパワー半導体を供給する。同年2月にはドイツに8インチSiCウェーハ工場を新設することを発表した。Wolfspeedは米ニューヨーク州マーシーの8インチ工場が稼働したばかりだが、ノースカロライナ州にも8インチ工場を新設することを22年9月に発表している。

(2023/04/27)
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