Infineon、日本の拠点を渋谷に集結、日本市場強化を図る
Infineon Technologiesの日本法人インフィニオンテクノロジーズジャパンが日本市場を拡大するため、デバイス解析装置をさらに充実した。本社はつい先ごろ50億ユーロ(約7000億円)の工場新設投資を発表したばかりで、攻めの姿勢を貫いている。ドイツだけではなくオーストリアやマレーシアにも前工程の工場を持ちグローバルに展開する。
図1 渋谷の14階建てオフィスに集約したインフィニオンジャパン 出典: インフィニオンテクノロジーズジャパン
自動車・産業機器に強い日本は、Infineonから見て十分高い投資価値の対象となっている。Cypress Semiconductorを買収して以来、日本の売上額が全社の10%に達するようになり、8月に都内渋谷のビルに移設した。これまでは従来のInfineonの大崎とCypressの武蔵小杉や川崎などにオフィスが分かれていたが、渋谷に統一した。ビルを渋谷に決めた最大の理由は、解析するための廃液処理できることだったが、渋谷にはその選択肢が多かったことだという。22年10月現在では650名の従業員がいる。
新しい渋谷のオフィスビル(図1)は、14階建てで、解析室やテスタールーム、FAラボなど実験できる設備を置けるスペースを設けていることが特徴で、単なる営業本部だけではない。例えば、顧客に出荷した半導体デバイスがもし故障として返却されれば、まず静的・動的な電気的特性をチェックし、そのあとでモールドをはがしチップを観察する。モールドをはがす前も3次元のX線非破壊装置(医学用のCTスキャナーのような装置)でチップとボンディングワイヤーの状態や剥がれの有無などをチェックできる。
モールドはレーザーなどで厚いモールド部分を削り、モールドの薄皮1枚のような状態にした後、薬品につけてモールドを溶かしチップを露出させる。チップは簡易SEM(Scanning Electron Microscope)と高解像度SEM、チップ内部を削るFIB(Focused Ion Beam)などの装置を使って解析する。
また、Infineonはレーダーセンサなどの高周波デバイスも手掛けているため、送受信性能を精度よく測るための電波暗室も設けている。
Infineonは、主に4つの事業部門からなる。自動車、産業用パワーコントロール(IPC)、パワー&センサシステムズ(PSS)、そしてコネクテッドセキュアシステムズ(CSS)である。自動車用はADASやインフォテイメントからパワートレインなど幅広い。IPCは発電や送電、蓄電などのハイパワー部門で、SiCやGaN、IGBTなどパワー半導体が強い。ただし、PSSでは一般のパワーMOSFETの売り上げも大きく、300mmウェーハ工場でパワー半導体はこのMOSFETが多い。さらにMEMSセンサだけではなく、レーダーを使う電波センサやD級アンプ(デジタルアンプのパワーIC)にも強い。CSSは暗号化や認証などのセキュリティチップを扱う。
なお、SiCやGaNのようなSiではできないような高耐圧のハイパワー製品はオーストリアのフィラハとマレーシアのクリムにプロセス工場を持っている。2025年度には10億ユーロの生産能力をフィラハに持つが、27年度にはクリムの工場の能力も併せてその3倍の30億ユーロ分の生産能力を持つことになると見積もっている。
こういった事業のポートフォリオから、これから先のデジタル化と脱炭素の動きは間違いなく進展する。ここに使われるシステムとしては単なるパワー半導体だけではなく、それをドライブするためのドライバIC、さらには指令を出すマイコン、マイコンに情報を届けるセンサ、などDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を推進すべき半導体チップが揃っている。だからこそ、強気の投資ができるのである。
11月下旬に発表した50億ユーロ(約7000億円)の投資は、ドレスデンに300mmの工場を新設するために使う。ここではアナログやミクストシグナル製品、パワー半導体などシリコンウェーハの大口径化で競争力を高める。2023年秋に建設を開始、26年秋に生産開始する予定となっている。
同社は9月末が会計年度末で、2022年度は22年9月末に終了したが、その売上額は前年度比29%増の142.2億ユーロで、営業利益率は23.8%と好調だった。23年度の見通しは、世界の半導体がマイナス成長を見込んでいる中、同9%増のプラス成長する155億ユーロを見込んでいる。23年度第1四半期(22年10〜12月期)の見通しも40億ユーロと25%の営業利益率を見込んであり、好調さが持続している。
図2 ドイツの売り上げは11%しかないが、世界中から万遍なく売り上げを立てている 出典:Infineon Technologies
Infineonはドイツに本社を構える会社だがドイツでの売上額は11%しかなく(図2)、もはやグローバル企業となっている。日本での売り上げも10%で、米国13%、欧州13%、中国本土と香港が29%、その他のアジア太平洋24%となっている。社員もグローバルで世界各地から集まっており、数年前にドイツミュンヘン郊外の本社地区を訪れた時に、本社地区には数十ヵ国から3500人が働いていると述べていた。