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米国が強化する半導体製造

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アリゾナ州に台湾TSMCの工場を誘致したことをきっかけに、米国の半導体製造を強くするためのレポートや法案が続々出ている。米国の半導体製造能力は1990年には世界の37%もあったのに現在は12%まで落ちているからだ。それらのレポートを読み解きながら、米国がなぜも製造強化に動き出したのか、探ってみる。

図1 米国の半導体製造を強化するための2つのレポート

図1 米国の半導体製造を強化するための2つのレポート


セミコンポータルは、米半導体メディア、Semiconductor DigestのPete Singer編集長から、同氏が執筆した「米国における半導体製造」という記事の使用許可を得た。この中からいくつか抜粋して紹介する。

2020年9月、米国ではSIA(米半導体工業会)とBCG(ボストンコンサルティンググループ)が共同で「Government Incentives and U.S. Competitiveness in Semiconductor Manufacturing(半導体製造における政府のインセンティブと米国の競争力)」というタイトルのレポートを発行(参考資料1)、国内の半導体製造を強化するためには連邦政府のインセンティブが必要だと訴えた。2020年から2030年まで、500億ドルの政府のインセンティブがあれば、現在9カ所の半導体製造ファブが19カ所になり、米国の生産能力は世界の24%まで高まり、7万人の雇用を生むとのシミュレーション結果を発表した。

SIA会長でON Semiconductorの社長兼CEOのKeith Jackson氏は「連邦政府のインセンティブを半導体製造に使えば、アメリカの経済や国防、サプライチェーンの信頼性、パンデミックへの対応などを強化できる」と述べており、半導体技術を持っていればこれからのAIや5G、量子コンピューティングなどのイノベーションを確実にできるという。加えて、世界経済や国防でもリーダーシップを取れるとしている。

米国の半導体製造での最大の危機感は中国へのものである。中国は、1997年の香港返還に際して50年間は自由な民主主義体制を守る、と約束したのにもかかわらず、ここ数年は香港を実質支配して共産主義国家に組み入れてしまった。米国は次に台湾が同じようになることを恐れている。香港以外にも南沙諸島を実効支配し、尖閣諸島にも権利を主張しているからだ。香港の次は台湾になる可能性がある。「5年先か10年先か、50年先か明言できないが、中国が台湾を支配したら半導体産業も支配されてしまう。中国はTSMCを、米国軍と衝突するリスクを冒してまでも手に入れる価値が高い企業だと見ている」と米コンサルタント会社Semiconductor Advisors社の社長であるRobert Maire氏は語っている。

半導体業界がサプライチェーンの信頼性を高めようとする理由も、将来の世界的な危機に備えて、リジリエントな(不況や業績落ち込み、災害などから急速に回復できる能力)サプライチェーンを構成するためだ、とSIA/BCGの共同レポートは述べている。

米国の製造能力が落ちてしまった理由の一つが政府のインセンティブだ。現在、世界の半導体製造能力の75%が東アジアに集中している。また中国は2030年までに世界半導体市場シェア最大の販売額1000億ドルの国になることを目標としている。米国で半導体工場を1棟建設するには、台湾や韓国、シンガポールと比べて30%も高いコストがかかる。中国と比べると37〜50%も高い。だから、工場建設には40〜70%のインセンティブが必要だという訳だ。半導体製造での政府のインセンティブは国土の安全保障を強化する意味でも必要だとして、製造の補助金と税制優遇を合わせて、200〜500億ドルが必要とのことで、これまでの税制優遇配分の見直しを提案している。

世界の半導体産業は、次の10年間で製造能力が56%上がると見込んでおり、500億ドルの政府の投資があれば世界の製造能力の1/4は確保できるだろうとしている。ただし、研究開発支援としてはまだ不十分であり、半導体材料研究や製造プロセス研究を含めて開発エンジニアを研修してリーダーシップを確保するためには、更なる投資が必要としている。特に、AIや5G、量子コンピューティングのような新しい画期的な技術で米国を大きく伸ばしたいという考えもある。

米国ではCHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) for America Act法案が議会に出されたが、半導体製造に対する政府の補助金は100億ドル止まりであり、半導体の研究開発費で見ると全く不十分だとしている。研究開発費は現在、民間の半導体企業が売上額の20%を費やしており、2019年には400億ドルにものぼった。政府の半導体への研究開発投資は微々たるものだとしている。

SIAとSRC(Semiconductor Research Corp.)が発表した「Decadal Plan for Semiconductors(参考資料2)」では、次の10年で米国半導体技術が強化すべき5つの分野を取り上げている。これを5つの「激震的なシフト」と表現しており、10年間に渡り毎年34億ドルの連邦政府の投資を求めている。その5つを簡単に紹介すると、(1)スマートセンシング、(2)メモリとストレージ、(3)通信、(4)セキュリティ、(5)エネルギー効率、である。

スマートセンシングでは、アナログハードウエアにおけるブレークスルーが求められるという。アナログ技術は実世界の信号を扱いながら、より賢い世界とのインターフェイスとして使われる。このインターフェイスが検出、認知、さらにその裏付けまでできるように革新する。

メモリとストレージでは、メモリの需要が供給を上回るようになってきており、ここに新しいメモリが登場する余地があるとしている。

通信では、データ生成のスピードが通信容量を上回るようになってきており、世界中のどこからでもデータにアクセスできるクラウドコンピューティングとクラウドストレージをさらに拡大することが求められる。このデータストレージは通信する場合のスピードを超えることになるため、その解決策も必要になる。

セキュリティでは、さまざまなモノとつながっているシステムのセキュリティ問題をハードウエアの研究でブレークスルーを図ろうとする。

エネルギー効率を高めることはもはや切実な要求項目となっており、サーバーからパソコン、モバイル、クルマ、ゲーム機などさまざまなデバイスの消費電力を大きく下げることが求められている。

これらの問題を解決するための、目標と、現状分析、それに向かうためのアクション、それぞれの課題に渡って示している。

国際協力も重要で、1国だけでこれからの問題を解くことはできないだろうという指摘もあり、各国が協力して立ち向かう仕組みが半導体で画期的なものを生み出す力となる。ITIF(Information Technology and Innovation Foundation)から出されたレポート「An Allied Approach to Semiconductor Leadership(参考資料3)」は国際協力の重要性を指摘している。

参考資料
1. Government Incentives and U.S. Competitiveness in Semiconductor Manufacturing (2020/09/16)
2. Decadal Plan for Semiconductors
3. Allied Approach to Semiconductor Leadership (2020/09/17)

(2021/01/21)

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