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Apple-Qualcomm和解で見える、Appleのチップ独自開発の基準はひと

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AppleがQualcommと特許論争で和解したというニュースが駆け抜けた。5Gモデム開発におけるQualcommの実力をAppleはまざまざと見せつけられた。一方で、AppleはDialog Semiconductorのエンジニアを300名採用した。自力開発は「ひと」がカギを握る。

AppleはQualcommのモデムに関する特許料が高すぎるとして、係争してきた。その影響はAppleが契約しているEMS(Electronics Manufacturing Service)メーカーにまで及んだ。今回の和解では、クアルコムの特許を引き続き使うほか、今後6年間使う契約も交わした。さらにEMSを含めてApple製品の請負製造業者への特許料要求も行わないことになった。このニュースはApple、Qualcomm両社から流れた(参考資料12)。

このニュースが出ると同時に、Appleに従来のモデムチップを一部供給してきたIntel(ドイツのInfineon Technologiesから買った無線モデム部門)は、スマートフォン向けの5Gモデム開発を断念したことをニュースリリース(参考資料3)で明らかにした。同社は、データセントリックな分野に集中していくとしている。

Appleから見ると、5Gに対応したiPhoneには欠かせないモデムICを現在供給できるところは、Qualcomm、HiSilicon、MediaTek、Intelだったが、Intel社が脱落し、3社に絞られた。この中で、Qualcommとは係争中、HiSiliconは中国メーカーであった。MediaTekの実力は不明の中、Qualcommとの和解は5G対応iPhoneを出荷するためにはやむを得なかったのであろう。Appleが5GモデムICを開発するのは時間がかかりすぎて実質的には無理。このためQualcommから供給を受けることになる。5Gモデムには独自開発の道はなかった。

Appleはこれまで、iPhone用のアプリケーションプロセッサはArmのCPUコアをライセンス供与されてきた。プロセッサを高速にするためドミノロジックと呼ばれる手法を持つIntrinsity社をArmが2007年に買収し、そのCPUコアをAppleのアプリケーションプロセッサに搭載してきた。以来、AppleのアプリケーションプロセッサはArmコアベースで独自開発してきた。この時、Intrinsityからもエンジニアがかなり流れたようだ。しかも、このチップの製造をSamsungに委ねていた。

Appleの独自開発と外部購入の戦略の基準は、明確に開発期間である。短期間で自社開発できるものは開発し、時間がかかりすぎるものは他社に任せる。2017年にAppleはパワーマネジメント(PM)ICとグラフィックスプロセッサを独自開発すると宣言した。それまでAppleはDialogからPMICを購入しており、Dialog社の高効率の電源ICのために小さな電源アダプタ(図1)が実現されていた。


図1 DialogのPMICは左の電源アダプタや本体の中のDC-DCコンバータなどに搭載されている

図1 DialogのPMICは左の電源アダプタや本体の中のDC-DCコンバータなどに搭載されている


ところが、電源ICはアナログ技術が力を発揮する分野であり、デジタル回路しか知らないエンジニアには設計できない。デジタルのグラフィックスプロセッサでさえモバイルで使えるほどの低い消費電力を実現することは容易ではなかった。これまでの社内のデジタルエンジニアではPMICを開発できないことがわかった。

そこでAppleがとった手段は、設計できるエンジニアを採用してしまうことだった。2018年10月に、AppleはDialogと6億ドルで300名のエンジニアと技術資産を買い取ることで合意し、このほど移転を完了した。このうち3億ドルはキャッシュで支払い、残りの3億ドルは今後数年間の製品供給で支払うことになった。

グラフィックスプロセッサのImagination Technologiesに対しても、自社開発するためにImaginationから十数名のエンジニアを採用したらしい。

では、5Gモデムに関してはIntelから人材を買うという選択肢はなかったのか。おそらく、AppleはIntelに対して5Gモデムの開発を急がせたのではないだろうか。しかし、短期間で開発できなかったのではないだろうか。Intelは今やデータセントリックな分野なら攻めていくが、スマホビジネスをする気はなかったから、スマホ用のモデムICにはあまり乗り気ではなかった。しかも独自開発には時間がかかりすぎて、手放すしかなかった。

参考資料
1. Qualcomm and Apple Agree to Drop All Litigation (Apple, 2019/04/16)
2. Qualcomm and Apple Agree to Drop All Litigation (Qualcomm, 2019/04/16)
3. Intel to Exit 5G Smartphone Modem Business, Focus 5G Efforts on Network Infrastructure and Other Data-Centric Opportunities (2019/04/16)

(2019/04/17)

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