中国・無錫の装置・材料展示会で見た国産化への執念
中国では共産党・政府の支援を背景に、半導体製造装置・材料メーカーが市場シェアを急速に拡大している。しかし、商習慣や言語の違いのため、日本ではその実力を正確に判断することが難しい。9月に中国・無錫市で開かれた製造装置・材料の展示会を視察した中国の産業調査会社MIRの来長勝・日本法人副社長(図1)に、その成果や中国の装置・素材メーカーに対する見方を聞いた。

図1 中国の産業調査会社MIRの来長勝・日本法人副社長 撮影筆者
Q: 9月上旬に無錫で開かれた「第13回中国半導体設備・基幹部品・材料展(CSEAC 2025)」を視察しました。視察の狙いは何でしょうか。
A: 当社は製造業を中心に中国の産業調査を行い、日本企業などに調査レポートを提供することを主力事業としている。ファクトリオートメーション(FA)機器や産業用ロボットも対象にしているが、最近は半導体製造装置に関する調査の依頼が多い。CSEAC 2025(図2)は中国地場の装置メーカーから最新情報を直接収集する好機だと考えた。

図2 CSEAC 2025の会場 出典:写真撮影MIR
CSEACは半導体産業の国際団体SEMIが上海市で毎年開くセミコン・チャイナと違い、海外企業による出展がほとんどない。来場者も大半が中国人なので、展示ブースに行って中国語で話しかければ中国企業の本音を聞けそうだと考えた。
Q: CSEAC 2025全体にどんな印象を抱きましたか。
A: 非常に活気があった。FA機器やロボットの展示会が最近、中国景気の減速のため盛り上がりを欠くのと対照的だった。出展企業や来場者が共産党・政府は「サプライチェーン(供給網)の強靭化」を掲げて半導体産業への支援を続けると確信しているためだ。実際に、会場では中国の装置・材料メーカーが実力を高めていること肌で感じた。
Q: 最も注目した企業を教えてください。
A: まずは深圳市新凱来技術(サイキャリア)だ(図3)。2021年設立と新興の装置メーカーだが、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と協力してEUV(極端紫外線)露光装置を開発中だとの噂がある。今回は露光装置の展示はなく(図4)、ブースも質素だったが、かなり多くの来場者が集まっていた。

図3 サイキャリアの展示ブース 出典:写真撮影MIR

図4 サイキャリアの製品モックアップ 出典:写真撮影MIR
当社の調査によると、サイキャリアは広東省深セン市政府傘下の投資会社が15億元(約320億円)を出資して設立した。そして22年に、ファーウェイで基礎技術を手がける組織「2012実験室」から、3000人超の技術者を抱える「星光工程部」がサイキャリアに丸ごと移籍した。新設の国有企業でありながら、精密機器に関する20年間の研究開発の蓄積を抱える特異な存在として成長を続けている。
「峨眉山」など中国の名山にちなむ製品名で前工程装置を販売しており、受注残はすでに1000億元を超えている。売上高は25年に45億元、26年に75億元、28年に169億元を目指している。企業価値はすでに露光装置分野を除いて650億元に達し、27年の新規株式公開(IPO)を計画しているようだ。
Q: 製造装置の中国最大手、北方華創科技集団(NAURA)の動向はいかがでしたか。
A: 北京市に本社を置くNAURAも前工程装置を手掛け、現在は「北のNAURA、南のサイキャリア」と並び称される存在だ。6月にはウェーハ洗浄装置メーカーの瀋陽芯源微電子設備(キングセミ)に資本参加して約18%を出資する筆頭株主となっており、サイキャリアを意識して品ぞろえを拡充している。

図5 NAURAの展示ブース 出典:写真撮影MIR
NAURAの展示ブース(図5)で印象的だったのは、装置の部品メーカーによる出展があったことだ。このメーカーはNAURAの事業部門の一つだったが、他の装置メーカーへの部品供給を拡大するため、最近分社したようだ。中国の装置メーカーは近年、確かに中国の装置市場でシェアを拡大しているが、基幹部品を輸入に頼っている例が多かった。部品を業界全体で共有しようとするNAURAグループの動きからは、官民挙げて供給網の強靭化にかける中国の執念を感じた。
Q: 他にはどの企業に注目しましたか。
A: 洗浄装置最大手の盛美半導体設備(ACMリサーチ:図6)に注目した。当社の調べでは、中国の洗浄装置市場には地場メーカーが約40社存在し、シェアを合計すると24年時点で26%と国産化率が非常に高い。ACMはその先頭に立っている。枚葉式とバッチ式を一体化した洗浄装置を世界で初めて開発するなど製品思想も独特で、韓国SK hynixへの納入実績もある。

図6 ACMリサーチの洗浄装置のモックアップ 出典:写真撮影MIR
エッチング装置に強い中微半導体設備(AMEC)は売上高が急増している点だけでなく、創業者の尹志堯董事長の発言に注目している。尹氏は米アプライドマテリアルズ出身の技術者だが、中国の半導体業界の実力を冷静に評価していることで知られる。勇ましいスローガンを語る経営者が多い中、海外企業との技術力の差を認めつつ、一歩ずつキャッチアップしようとする経営姿勢を貫いている。
Q: セミナーの聴講ではどんな成果がありましたか。
A: CSEACの主催団体である中国電子専用設備工業協会の金存忠・常務副秘書長の講演が印象的だった。金氏によると、会員企業82社の24年の「営業収入」(売上高ではなく、実際に回収した金額)は約1178億7100万元と前年から32.9%増加した。1000億元越えは初めてだそうだ。ただ、市場は変化しており、24年はアナログ半導体の装置が売れなくなる一方、ロジックICやメモリの検査・封止装置メーカーが急成長したと語っていた。

図7 AMECの展示ブース 出典:写真撮影MIR
金氏は中国装置メーカー上位9社の24年の開発投資が124億5300万元と前年比で31.7%増えたことも明らかにした。平均で営業収入の12.3%を占め、このうちNAURAとAMEC(図7)は20%を投入したという。また、かつては国産装置を買ったユーザーは検収に非常に時間をかけていたが、現在は一年も検収すれば量産ラインに投入するとも指摘していた。外国人の聴衆がほとんどいなかったため、金氏は本音で語っていた印象を受けた。
上海集成電路材料研究院という会社のセミナーも興味深かった。これは中国を代表する政府系研究機関である中国科学院上海マイクロシステム・情報技術研究所やシリコンウエハー大手の上海硅産業集団が20年に共同で設立した半官半民の会社だ。CMP(化学的機械研磨)研磨剤など、日本が強みを持つ半導体材料の研究開発に取り組んでいる。
かつて装置でも同様のスキームがあったが、開発した材料の性能試験を上海にある公的施設が請け負って開発期間を短縮しようとしている。半導体材料は様々な原料を混ぜて目標の性能を実現するが、セミナーでは人工知能(AI)を使って理想的な配合比率や攪拌方法を導き出す手法を紹介していた。


