4月半導体販売高が増勢維持;半導体強化に向け日米で引き続く動き
新型コロナウイルスによる累計感染者数は土曜12日午前時点、世界全体で1億7510万人を超え、1週間前から約278万人増と僅かに減少ながらもまだまだ高水準である。英国では変異株の流行で新規感染者が増加に転じており、ワクチン接種が進みながらも依然警戒である。米国・Semiconductor Industry Association(SIA)より月次世界半導体が発表され、この4月について$41.8 billionで前月比1.9%増、前年同月比21.7%増と増勢を維持している。年間販売高予測も表わされて、現下の活況が経済回復により今後一層加速との読みから、$527.2 billionと大台を一気に突破している。半導体製造およびsupply chain強化に向けた日米での動きが引き続き活発化している。
≪4月の世界半導体販売高≫
米国・SIAからの今回の発表が、次の通りである。
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〇4月のグローバル半導体販売高、前月比1.9%増;年間販売高見通し、2021年19.7%増、2022年8.8%増 …6月9日付け SIA/Latest News
Semiconductor Industry Association(SIA)が本日、2021年4月の世界半導体販売高が$41.8 billion、前月、2021年3月の$41.0 billionから1.9%増、前年同月、2020年4月の$34.4 billionを21.7%上回る、と発表した。月次販売高の数字はすべてWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。加えて、このほどリリースされたWSTS業界予測では、年間グローバル販売高が2021年に19.7%増、そして2022年に8.8%増、と見通している。SIAは、売上げで米国半導体業界の98%およびnon-U.S.半導体会社の約3分の2を代表している。
「グローバル半導体需要は依然4月も高く、半導体製品の範囲にわたって、そして世界の主要地域市場の各々を通して、販売高増大により反映されている。」と、SIAのpresident and CEO、John Neuffer氏は言う。「グローバル半導体市場は2021年および2022年に大きく伸びる見通しであり、今日および今後の今までの流れを変えるような技術に対して半導体はますます不可欠になっている。」
4月販売高は地域別には、前月比で、the Americas(3.3%), Japan(2.6%), China(2.3%), Europe(1.6%), およびAsia Pacific/All Other(0.5%)と主要地域市場にわたって増加、前年同月比でも、China(25.7%), Asia Pacific/All Other(24.3%), Europe(20.1%), Japan(17.6%), およびthe Americas(14.3%)と増加した。
2021年4月地域別販売高増減
Americas | 前年同月比 14.3%/ | 前月比 3.3% |
Europe | 20.1%/ | 1.6% |
Japan | 17.6%/ | 2.6% |
China | 25.7%/ | 2.3% |
Asia Pacific/All Other | 24.3%/ | 0.5% |
【3ヶ月移動平均ベース】
市場地域 | Apr 2020 | Mar 2021 | Apr 2021 | 前年同月比 | 前月比 ======== Americas | 7.27 8.05 8.31 14.3 3.3 Europe | 3.11 3.68 3.74 20.1 1.6 Japan | 2.85 3.26 3.35 17.6 2.6 China | 11.77 14.47 14.80 25.7 2.3 Asia Pacific/All Other | 9.37 11.58 11.65 24.3 0.5 計 | $34.38 B $41.05 B $41.85 B 21.7 % 1.9 % |
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市場地域 | 11- 1月平均 | 2- 4月平均 | change |
Americas | 8.50 | 8.31 | -2.2 |
Europe | 3.45 | 3.74 | 8.3 |
Japan | 3.28 | 3.35 | 2.2 |
China | 13.74 | 14.80 | 7.7 |
Asia Pacific/All Other | 11.04 | 11.65 | 5.5 |
$40.01 B | $41.85 B | 4.6 % |
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加えて、SIAは本日、WSTS Spring 2021グローバル半導体販売高予測を支持、該業界の2021年世界販売高が$527.2 billionで、2020年の販売高総計$440.4 billionから19.7%増と見通している。WSTSは2021年について市場地域別の販売高増減を次の通り見ている。
Asia Pacific 23.5%
Europe 21.1%
Japan 12.7%
Americas 11.1%
2022年では、グローバル市場は鈍化する見通しであるが、それでも8.8%と大きな伸びである。WSTSは、グローバル半導体メーカーの広大なグループを招集、年に2回業界予測をまとめて表わしており、半導体の流れの正確でタイムリーな指標となる。
※4月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
⇒https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2021/06/April-2021-GSR-table-and-graph-for-press-release.pdf
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これを受けた業界各紙の取り上げが、以下の通りである。
◇世界半導体、9%増予測、来年、最高更新へ (6月9日付け 日経)
→主要メーカーで構成する業界団体、世界半導体市場統計(WSTS)は8日、2022年の半導体市場が2021年予測比9%増の5734億ドル(約62兆円)になると発表、2021年に続き、過去最高を更新する旨。
◇Global semiconductor sales increase in April-SIA: April chip sales reached $41.8B, up 21.7% on year (6月10日付け DIGITIMES)
◇Global semiconductor sales forecast to hit US$527.2b in 2021, says SIA (6月10日付け The Edge Markets)
◇Global Semiconductor Sales Increase 1.9% Month-to-Month in April (6月11日付け SEMICONDUCTOR DIGEST)
◇Chip sales up 21.7% y-o-y-April chip sales of $41.8 billion were 1.9% up on the March figure of $41 billion and 21.7% more than the April 2020 total of $34.4 billion (6月11日付け Electronics Weekly)
遡って、2016年後半から2年あまり史上最高を更新し続ける勢いの熱い活況が続いた半導体業界であるが、2021年が現下の活況を維持してこれまで最高の2018年の年間販売高の更新となるかどうか、以下の販売高の推移の見方を続けていくことにする。先行き不安定性が漂う中、増勢基調を保てるかどうか、引き続き注目である。2021年の1月から3月は$40 billion台平均を維持して、2018年を上回る出だしであるが、第二四半期の始めの4月も増勢が維持されている。
販売高 | 前年同月比 | 前月比 | 販売高累計 | |
(月初SIA発表) | ||||
2016年 7月 | $27.08 B | -2.8 % | 2.6 % | |
2016年 8月 | $28.03 B | 0.5 % | 3.5 % | |
2016年 9月 | $29.43 B | 3.6 % | 4.2 % | |
2016年10月 | $30.45 B | 5.1 % | 3.4 % | |
2016年11月 | $31.03 B | 7.4 % | 2.0 % | |
2016年12月 | $31.01 B | 12.3 % | 0.0 % | $334.2 B |
2017年 1月 | $30.63 B | 13.9 % | -1.2 % | |
2017年 2月 | $30.39 B | 16.5 % | -0.8 % | |
2017年 3月 | $30.88 B | 18.1 % | 1.6 % | |
2017年 4月 | $31.30 B | 20.9 % | 1.3 % | |
2017年 5月 | $31.93 B | 22.6 % | 1.9 % | |
2017年 6月 | $32.64 B | 23.7 % | 2.0 % | |
2017年 7月 | $33.65 B | 24.0 % | 3.1 % | |
2017年 8月 | $34.96 B | 23.9 % | 4.0 % | |
2017年 9月 | $35.95 B | 22.2 % | 2.8 % | |
2017年10月 | $37.09 B | 21.9 % | 3.2 % | |
2017年11月 | $37.69 B | 21.5 % | 1.6 % | |
2017年12月 | $37.99 B | 22.5 % | 0.8 % | $405.1 B |
2018年 1月 | $37.59 B | 22.7 % | -1.0 % | |
2018年 2月 | $36.75 B | 21.0 % | -2.2 % | |
2018年 3月 | $37.02 B | 20.0 % | 0.7 % | |
2018年 4月 | $37.59 B | 20.2 % | 1.4 % | |
2018年 5月 | $38.72 B | 21.0 % | 3.0 % | |
2018年 6月 | $39.31 B | 20.5 % | 1.5 % | |
2018年 7月 | $39.49 B | 17.4 % | 0.4 % | |
2018年 8月 | $40.16 B | 14.9 % | 1.7 % | |
2018年 9月 | $40.91 B | 13.8 % | 2.0 % | |
2018年10月 | $41.81 B | 12.7 % | 1.0 % | |
2018年11月 | $41.37 B | 9.8 % | -1.1 % | |
2018年12月 | $38.22 B | 0.6 % | -7.0 % | $468.94 B |
→史上最高 | ||||
2019年 1月 | $35.47 B | -5.7 % | -7.2 % | |
2019年 2月 | $32.86 B | -10.6 % | -7.3 % | |
2019年 3月 | $32.28 B | -13.0 % | -1.8 % | |
2019年 4月 | $32.13 B | -14.6 % | -0.4 % | |
2019年 5月 | $33.06 B | -14.6 % | 1.9 % | |
2019年 6月 | $32.72 B | -16.8 % | -0.9 % | |
2019年 7月 | $33.37 B | -15.5 % | 1.7 % | |
2019年 8月 | $34.20 B | -15.9 % | 2.5 % | |
2019年 9月 | $35.57 B | -14.6 % | 3.4 % | |
2019年10月 | $36.59 B | -13.1 % | 2.9 % | |
2019年11月 | $36.65 B | -10.8 % | -0.3 % | |
2019年12月 | $36.10 B | -5.5 % | -1.7 % | $411.10 B |
2020年 1月 | $35.39 B | -0.3 % | -2.2 % | |
2020年 2月 | $34.50 B | 5.0 % | -2.4 % | |
2020年 3月 | $34.85 B | 6.9 % | 0.9 % | |
2020年 4月 | $34.43 B | 6.1 % | -1.2 % | |
2020年 5月 | $34.97 B | 5.8 % | 1.5 % | |
2020年 6月 | $34.53 B | 5.1 % | -0.3 % | |
2020年 7月 | $35.20 B | 4.9 % | 2.1 % | |
2020年 8月 | $36.23 B | 4.9 % | 3.6 % | |
2020年 9月 | $37.86 B | 5.8 % | 4.5 % | |
2020年10月 | $39.03 B | 6.0 % | 3.1 % | |
2020年11月 | $39.41 B | 7.0 % | 1.1 % | |
2020年12月 | $39.16 B | 8.3 % | -2.0 % | $439.0 B |
2021年 1月 | $40.01 B | 13.2 % | 1.0 % | |
2021年 2月 | $39.59 B | 14.7 % | -1.0 % | |
2021年 3月 | $41.05 B | 17.8 % | 3.7 % | |
2021年 4月 | $41.85 B | 21.7 % | 1.9 % |
上記のSIA発表での年間予測では、2021年世界販売高が$527.2 billionで、2020年の販売高総計$440.4 billionから19.7%増と、非常に積極的な読みとなっている。2021年1-4月累計が$162.5 billionであり、計算上は今後8ヶ月で$45.6 billion/月と一段の増大が求められていく。コロナ禍のもと旺盛な需要の一方での世界的な半導体の不足の事態に加えて、今後はワクチン接種の進展による世界経済回復の期待と、この大幅な上方修正のシナリオの完遂を是非とも望むところである。今後の推移に引き続き注目である。
半導体製造およびsupply chain強化に向けて、「国家事業」として取り組む各国・地域の動きにこのところ目が離せない情勢となっている。今回は米国と我が国での動きに注目。米国では、総額は2500億ドル(約27兆円)規模の「米国イノベーション・競争法案」が、上院で可決され、その関連が以下の通りである。この中に、グローバルな半導体の不足への対策、そしてこのところ問題意識が高まる半導体生産自己完結に向けた予算が盛り込まれている。
◇Senate Passes Sweeping Bill to Help U.S. Compete With China-Senate approves $52B for chip production (6月8日付け BNN Bloomberg (Canada))
→米国上院が、$242 billion対策法案を可決、国内メーカーを支持してグローバルな半導体の不足を軽減していく$52 billionが含まれる旨。下院からの受け取りが不安定だが、Joe Biden大統領が支え、超党派の上院の支持がある該法案は、中国を経済的な米国に対する先行から引き離しておく狙いの旨。
◇Senate approves billions for US semiconductor manufacturing-The funding is on track to meet Biden's chip goals (6月8日付け The Verge)
◇White House report puts heavy focus on domestic chip production, R&D (6月8日付け FierceElectronics)
◇Senate Approves $52B for Chip R&D, House Debate Looms-Bill includes incentives to re-shore IC manufacturing, secure supply chains and promote 5G wireless. (6月9日付け EE Times)
◇U.S. Senate passes sweeping $250B bill to address China threat (6月9日付け FierceElectronics)
◇米が対中競争の包括法案、総額27兆円…半導体・5G強化 (6月9日付け 讀賣新聞オンライン 12:45)
→米議会上院は8日、中国との覇権争いに備える政策を包括的に盛り込んだ法案を可決、米メディアによると、法案の総額は2500億ドル(約27兆円)規模に上り、半導体や高速・大容量通信規格「5G」など先端技術の競争力強化を図る旨。中国に対抗するため、自由競争を尊重してきた従来の姿勢を転じ、国家主導で産業支援に乗り出す方針を鮮明にした旨。
可決されたのは「米国イノベーション・競争法案」。別々に提出された複数の対中法案が一本化され、バイデン大統領がインフラ投資計画で提案していた製造業強化策なども盛り込まれた旨。バイデン氏は可決後の声明で、中国を念頭に「他国が研究開発投資を続ける中、後れをとるわけにはいかない」とし、「米国は最も革新的で生産性の高い国としての地位を維持しなければならない」と強調した旨。採決の結果は賛成68、反対32だった旨。
◇米、先端技術育成に3.2兆円、AIや量子、中国対抗へ資金提供 (6月10日付け 日経)
→米議会上院は8日、人工知能(AI)や量子など先端技術の研究開発に290億ドル(約3兆2000億円)を投じる法案を可決した旨。半導体にも巨額の補助金をつぎ込む旨。ハイテク分野で中国に対抗するため、官民連携で研究開発を進める姿勢が鮮明になった旨。
米国上院での該法案可決に即座の反応、発足したばかりの半導体メーカー&ユーザの団体、Semiconductors in America Coalition(SIAC)からのステートメントである。
◇SIAC Commends Senate Passage of Critical Semiconductor Investments in USICA (6月8日付け SIAC)
→半導体会社および半導体の主要下流ユーザの分野横断alliance、Semiconductors in America Coalition(SIAC)が本日、アメリカの科学&技術におけるleadershipを推進、米国のグローバル競争力強化を求めるUnited States Innovation and Competition Act(USICA)(S.1260)における国内半導体技術への出資の上院通過を称賛するステートメントをリリースの旨。
Semiconductor Industry Association(SIA)は、上院での採決の前にWhite Houseレポートのリリース、後に法案可決を、それぞれ歓迎する以下の発信である。
◇SIA Welcomes White House Report on Strengthening America's Semiconductor Supply Chains (6月8日付け SIA Latest News)
→Semiconductor Industry Association(SIA)が本日、半導体など重要製品のsupply chainsを強化するWhite Houseレポートのリリースを歓迎の旨。Biden大統領のアメリカのSupply Chainsについての2月24日大統領令に始まる該商務省レポートは、アメリカの半導体supply chains強化に向けて国内半導体製造&リサーチに向けて狙いをつけたincentivesを高めることを求めている旨。上院は本日遅く、CHIPS for America Actにおける国内半導体リサーチ、設計、および製造装備に向けた連邦投資$52 billionなどの法制化、United States Innovation and Competition Act(USICA)(S.1260)に投票する予定の旨。
◇Senate Passage of USICA Marks Major Step Toward Enacting Needed Semiconductor Investments-United States Innovation and Competition Act would provide $52 billion to fund the semiconductor research, design, and manufacturing initiatives in the CHIPS for America Act (6月8日付け SIA Latest News)
→Semiconductor Industry Association(SIA)が本日、超党派のUnited States Innovation and Competition Act(USICA)(S.1260)に含まれる半導体技術への必要連邦投資の上院通過を称賛、アメリカの科学&技術におけるleadershipを増進、米国の競争力を高めることを狙った広範な法制化の旨。上院議員、Chuck Schumer氏(D-N.Y.)およびTodd Young氏(R-Ind.)がEndless Frontier Actとして上程、現在の名前に拡大された該法案には、CHIPS for America Actにおける国内半導体リサーチ、設計、および製造装備に向けた連邦投資$52 billionが含まれる旨。
IntelのCEO、Pat Gelsinger氏も、上院通過を称えている。しかし、まだ控える下院の関門があらわされている。
◇Intel CEO Cheers U.S. Senate Passage Of $52B In Semiconductor Funding-Intel CEO lauds US bill with $52B for microchip funding (6月9日付け CRN (US))
→IntelのCEO、Pat Gelsinger氏など業界officialsが、米国政府に国内半導体製造を高める大規模multi-billion-dollar出資package承認を強く求めている旨。しかし、該出資を含む法案は、こんどは下院の承認を控えており、ある反対に直面の旨。2人のchannel executives曰く、該出資はsupply chains改善の助けになろうが、米国がほかの生産領域に注力する必要があるかどうかの疑念がある旨。
韓国からも、White Houseレポートについての論評が見られている。
◇White House wants to rely more on Korea for chips-Biden administration turns to S. Korea for more chips (6月9日付け JoongAng Daily (South Korea))
→White Houseが、火曜8日リリースした250-ページのレポートで、グローバルな半導体の不足を攻略、中国のハイテク席巻を防ぐために、韓国など同盟国との連携の重要性を強調の旨。該レポートは、半導体メーカー、Samsung ElectronicsおよびSK hynixが有する技術的先行および大きな市場シェアから、米国が韓国との関係を深めることを推奨の旨。
今回動いた米国上院議員の超党派の取り組み、思い入れが、以下あらわれている。
◇How the U.S. Senate got woke on China and chips (6月10日付け FierceElectronics)
→米国の2人の上院議員が、中国の経済的および技術的脅威および遅れがちな国内半導体生産に関して"新しい現実"が如何に始まっているかを表し、今週の$250 billion U.S. Innovation and Competition Act(USICA)を承認する珍しい超党派票決となっている旨。「本当に我々みんなにwake-up call」と木曜10日の記者との話で米国上院議員、John Cornyn氏(R-Texas)に加わった米国上院議員、Mark Warner氏(D-Virginia)。2人はco-sponsorsで、Warner氏が委員長のSenate Select Committee on Intelligenceで委員を務めている旨。
次に、我が国の成長戦略における「国家事業」の半導体の取り上げを前回の本欄で示したが、その余韻が以下の通り続いている。
◇Japan Lays Out ‘National Project’ for Chips After Lost Decades-Japan ministry details "National Project" in microchips (6月3日付け Bloomberg)
◇Japan lures TSMC with US$1.8 billion plan to revive domestic chip industry -Tokyo is pulling out the stops to safeguard its access to semiconductors as a hedge against US-China tensions by attracting foreign manufacturers and marrying them with domestic firms-At the heart of its plan is a US$337.2 million research and development project in Tsukuba that will involve the Taiwanese chip giant and more than 20 Japanese firms (6月4日付け South China Morning Post)
◇Japan lays out ‘national project’ for microchips (6月5日付け Taipei Times)
経済産業省が取りまとめる「半導体・デジタル産業戦略」の概要が、あらわされている。
◇経産省、半導体・デジタル戦略策定、生産・供給 有事に対応 (6月7日付け 日刊工業)
→経済産業省は国家事業として基盤整備に取り組むことを掲げた「半導体・デジタル産業戦略」を策定、半導体をめぐる環境の変化を踏まえ、研究開発や製造、インフラ整備などを一体的に進める旨。海外事業者との連携や他国と匹敵する予算規模の国家プロジェクトなどを通じ、次世代に向けた産業として復権を目指す旨。
戦略は半導体について「失われた30年の反省」とした上で、国家戦略上不可欠なものは「通常の産業政策の枠を超えた特例扱いの措置を講じる」とした旨。海外半導体受託製造(ファウンドリー)との合弁工場建設による日本国内での製造基盤構築や既存の国内工場の刷新や再編も促し、有事にも対応できる生産・供給能力を確保する旨。
IBM協力による日米連携が、前回に続いて次の通りである。
◇米IBMと先端半導体、経産省、製造技術を早期確立 (6月8日付け 日経)
→経済産業省は先端半導体の開発強化に向けて米IBMと協力、東京エレクトロンなどが入る経産省の共同開発の枠組みに加わる旨。半導体の設計や基礎研究で先頭を走るIBMと装置で強みを持つ日本勢が協力し、製造技術の早期確立につなげる旨。半導体のサプライチェーン(供給網)で日米連携の強化も狙う旨。
長年のライバル関係にあったインテルとIBMは3月から協業関係を結んでいる旨。IBMがインテルにライセンス供与し、日本が強みを持つ装置企業と一体となり将来は量産化を目指す旨。
TSMCが、つくばの研究拠点に続いて、こんどは熊本で半導体工場を検討する動きが見られている。
◇日本に半導体工場、TSMC検討、経済安保に追い風 (6月11日付け 日経)
→新工場は16-nmや28-nmの技術導入を検討、普及品で現行最先端となる5-nmとは差があるものの、自動車やスマートフォンなど多くの製品で活用されている重要技術。新工場の顧客はソニーグループや日本の自動車大手を想定している旨。
◇TSMC、熊本で半導体工場検討、日本で初めて (6月11日付け 日経 電子版 05:19)
→半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が、日本で初めてとなる半導体工場を熊本県に建設する検討に入った旨。日本は経済安全保障の観点などから国内半導体産業の再興を目指す旨。半導体の最先端技術を誇る同社の誘致が実現すれば大きな追い風になる旨。複数のサプライヤ幹部によると、TSMCは日本政府から先進的な半導体を日本で生産するよう要請を受けており、実際の検討に入った旨。
マイクロンからも、広島拠点を活用、日本政府によるsupply chain強化に協力するスタンスである。
◇マイクロン、先端メモリで日米連携、広島拠点など活用、CEO「過去3年、最大規模投資」 (6月11日付け 日経)
→米半導体大手マイクロン・テクノロジーが先端メモリ開発で対日連携を強化する旨。サンジェイ・メロートラ最高経営責任者(CEO)が日本経済新聞の取材に応じて明らかにした旨。「日本の半導体エコシステムの強化を手伝いたい」として、日本の工場への投資拡大や装置・材料メーカーとの連携により、日本政府による供給網強化に協力する姿勢を示した旨。
米国および日本ともに、今後のそれぞれの進展、進捗に注目していく。
コロナ対応のなかなか収まらない状況推移に対して、直面する事態への警戒感を伴った舵取りが各国それぞれに引き続き行われている世界の概況について、以下日々の政治経済の動きからの抽出であり、発信日で示している。
□6月6日(日)
中国共産党の大きな変化の節目をあらわす1つである。
◇中国共産党、ホワイトカラー多数に、農民・出稼ぎを逆転 (日経 電子版 23:26)
→中国共産党の党員9191万人(2019年末時点)のうち、民間企業や国有企業などに勤める事務職や研究職が3219万人と、工場労働者や農民らの3201万人を上回った旨。1921年の結党以来初めて、オフィスで働く「ホワイトカラー」が現場の労働者の数を超えたとみられる旨。党の性格の変化が鮮明となっている旨。
□6月8日(火)
過去最高値の一時上回りも見られて、小幅な上げ下げの今週の米国株式市場の動きである。
◇NYダウ反落126ドル安、景気敏感株に利益確定売り (日経 電子版 05:35)
→7日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反落し、前週末比126ドル15セント(0.4%)安の3万4630ドル24セントで終えた旨。米経済活動の正常化期待から買いが先行し、朝方には一時、5月7日に付けた過去最高値(3万4777ドル)を上回った旨。だが、次第に景気敏感株の一角が利益確定売りに押され、ダウ平均も下げに転じた旨。
□6月9日(水)
米中摩擦の中、経済相互依存の中台関係があらわれる次の内容である。以下続く通り、米国と台湾の貿易協議が再開されていく。
◇台湾、対中輸出衰えず、5月30%増、対米の3倍、統一圧力下でも相互依存 (日経)
→台湾の財政部(財政省)は8日、5月の輸出額が前年同月比38.6%増の約374億ドル(約4兆1000億円)だったと発表、単月として過去最高の輸出額となった旨。最大輸出先の中国大陸(香港含む)向けが30%増の156億ドルとなり、全体の42%を占めた旨。
◇NYダウ小幅続落、30ドル安、高値警戒で売り買い交錯 (日経 電子版 05:43)
→8日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日比30ドル42セント(0.1%)安の3万4599ドル82セントで終えた旨。ダウ平均は5月に付けた過去最高値(3万4777ドル)に迫っており、高値警戒感から売りが出た旨。ただ、米経済の回復に着目した買いも入り、午後は前日終値を挟んでもみ合う展開だった旨。
□6月10日(木)
◇NYダウ続落152ドル安、CPI発表控え持ち高調整も (日経 電子版 05:38)
→9日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日続落し、前日比152ドル68セント(0.4%)安の3万4447ドル14セントで終えた旨。5月7日につけた過去最高値(3万4777ドル)が近づき、高値警戒感から売りが優勢だった旨。当面の金融政策を占う上で注目される5月の米消費者物価指数(CPI)の発表を10日に控え、取引終了にかけて持ち高調整の売りも出た旨。
□6月11日(金)
◇米台高官が協議、数週間後に貿易協議再開で合意 (日経 電子版 05:13)
→米通商代表部(USTR)のタイ代表は10日、台湾の行政院(内閣)で通商交渉を担当する振中・政務委員(無任所大臣に相当)とオンラインで協議したと発表、米台が結ぶ「貿易・投資枠組み協定(TIFA)」に基づく協議を数週間後に再開することで合意した旨。
◇NYダウ反発19ドル高、金融緩和長期化との見方で (日経 電子版 06:06)
→10日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、前日比19ドル10セント(0.1%)高の3万4466ドル24セントで終えた旨。朝方発表の5月の米消費者物価指数(CPI)は市場予想以上に上昇したが、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和縮小を急ぐほどではないとみなされた旨。米長期金利が低下し、高PER(株価収益率)銘柄が多いハイテク株を中心に買われた旨。
□6月12日(土)
◇NYダウ続伸、13ドル高、景気回復期待で消費関連に買い (日経 電子版 05:56)
→11日の米株式市場でダウ工業株30種平均は小幅に続伸し、前日比13ドル36セント高の3万4479ドル60セントで終えた旨。景気回復期待から消費関連株に買いが入り、指数を押し上げた旨。ただ、ダウ平均は過去最高値圏にあり、高値警戒感からの売りも出て上値は重かった旨。米連邦公開市場委員会(FOMC)を来週に控え、投資家の様子見姿勢も強かった旨。
≪市場実態PickUp≫
【Intel関連】
半導体intellectual property(IP)のArmに対抗する動き、Intelが、RISC-V採用プロセッサを開発するSiFiveの買収を検討、という記事に注目させられている。
◇Intel debates buyout of SiFive to bolster chip technology against Arm -source-Source: Intel considers SiFive buy to challenge Arm (6月10日付け Reuters)
→Intelが、半導体intellectual property(IP)におけるArmの支配をかわすべくopen-source半導体技術を運用する動き、SiFiveの買収の可能性にあたっている旨。
◇Could Intel be about to buyout SiFive?-According to Reuters Intel is debating a possible offer to buy SiFive, a company that is closely associated with open-source technology that is challenging the rise of Arm, which is in turn a major Intel competitor. (6月11日付け New Electronics)
一方、新CPUsの供給が逼迫という記事も見られている。
◇Intel new CPUs in tight supply (6月11日付け DIGITIMES)
→業界筋発。Intelが、同社Tiger Lake-U Refreshプロセッサに向けた需要に追いつくのに苦労している旨。
【Samsung関連】
Samsungのノンメモリ、あるいはシステムLSI分野の現下の伸びがあらわされている。
◇Samsung to see non-memory chip sales boom in 2021-Samsung on pace for non-memory chip sales growth (6月7日付け DIGITIMES)
→Samsung ElectronicsのシステムLSI分野が、2021年に力強い伸びとなっており、特にスマートフォンに入るapplicationプロセッサ、CMOSイメージセンサ(CIS)、ディスプレイdriver半導体およびpower management ICs(PMICs)についての旨。該non-memory分野の販売高が今年第一四半期について$4 billionを上回る、と、業界筋を引用、Ajunews発。
一旦は撤退とされていたSamsungの液晶パネル生産が、特需を受けて延長されている。活況の波及効果の一端との受け止めである。
◇サムスン、液晶パネル生産一転延長、「2022年末まで」通達−撤退表明でも、コロナでパソコン特需 (6月7日付け 日経 電子版 11:47)
→韓国サムスン電子が、撤退を表明していた液晶パネルの生産を継続する旨。サプライヤ各社に対し、2022年末までの生産延長を通達した旨。競合するLGディスプレー(LGD)も生産停止を延期する旨。新型コロナウイルス禍でテレビやパソコン向け需要が急伸し、足元のパネル価格は前年比の倍に高騰していることが要因。異例の延長は次世代パネルの開発に苦戦する姿も浮き彫りにしており、「特需」後は見通せない旨。
多彩な新規の開発の取り組みの発表が、以下の通り続いている。
◇Samsung develops skin-wearable ‘stretchable OLED’ display-Samsung crafts stretchable OLED as a skin wearable (6月7日付け Pulse by Maeil Business Newspaper (South Korea))
→Samsung Electronicsが、伸縮自在のorganic light-emitting diode(OLED)ディスプレイを提案、血流および心拍など健康データ監視に向けて皮膚に当てられる旨。該OLEDディスプレイは、Samsungのresearch and development(R&D)部門、Samsung Advanced Institute of Technologyが開発の旨。
◇Samsung looking to expand 7th generation V-NAND solutions: exec (6月8日付け Yonhap News Agency)
◇Samsung Elec moving onto 200-stack or above layer next-gen NAND processing-Samsung touts V-NAND flash with 200 layers or more (6月9日付け Pulse by Maeil Business Newspaper (South Korea))
→Samsung Electronicsが、200以上の層を重ね合わせられる第8世代V-NANDプラットフォームを開発の旨。
◇Samsung develops 8nm RF chip process tech (6月9日付け Yonhap News Agency (South Korea))
→Samsung Electronicsが、Samsungの8-nanometerプロセス技術でつくられたradio-frequency(RF)半導体をお披露目、5Gモバイル半導体をつくるのに適する旨。
◇Samsung pushes pixel size even further with new camera sensor-The ISOCELL JN1 has 50 million 0.64μm pixels, the smallest size in the industry (6月10日付け The Verge)
◇Samsung Elec releases industry’s smallest 0.64-μm pixel mobile image sensor -Samsung touts tiny pixels with new mobile image sensor (6月11日付け Pulse by Maeil Business Newspaper (South Korea))
→Samsung Electronicsが、ISOCELL JN1モバイルイメージセンサを投入、50 million画素をもち、各々わずか0.64 micrometerの寸法の旨。該新センサは、光感度改善に向けてpixel-binning技術を利用している旨。
【Nvidia関連】
中国当局の承認が関門に控えるNvidiaによるArm買収について、以下関連する内容である。
◇Nvidia asks Chinese regulators to approve $40 billion Arm deal - FT (6月7日付け Reuters)
◇アームCEO「エヌビディアによる買収で省電力のAI開発」-世界デジタルサミット2021 (6月7日付け 日経 電子版 11:30)
→英半導体設計大手のアームのサイモン・シガース最高経営責任者(CEO)は7日開幕した「世界デジタルサミット2021」(日本経済新聞社・総務省主催)で、米半導体大手、エヌビディアによる同社買収について言及、「両社が一緒になることで、エネルギー効率が高い独自の人工知能(AI)を開発できる」と述べた旨。
◇Nvidia's acquisition of Arm could reportedly be delayed by Chinese regulators-Will Chinese regulators delay Nvidia's purchase of Arm? (6月8日付け CNBC)
→Nvidiaが、中国のregulatorsにArmの$40 billio買収を正式に提案、該取引の検討&承認に最大18ヶ月かかり、完了に2022年始め以降に延ばす可能性の旨。該買収提案は、European Union(EU), 英国および米国でも検討されている旨。
別途、startup買収が次の通りである。
◇Nvidia acquires hi-def mapping startup DeepMap to bolster AV technology-Nvidia purchases DeepMap for tech in AV fleets (6月10日付け TechCrunch)
→自動運転車用高解像地図に重点化するstartup、DeepMapを、Nvidiaが買収、該技術を自動運転車ソリューションに取り入れる計画の旨。
◇Nvidia is adding to its self-driving offering with a deal to buy Palo Alto precision mapping startup DeepMap (6月10日付け SILICON VALLEY BUSINESS JOURNAL)
【IBMとGlobalFoundriesの係争】
microchips製造の契約不履行でIBMがGlobalFoundriesを提訴、一方、GlobalFoundriesは該訴訟却下を裁判所に求めている。IBMの半導体製造部門を吸収合併したGlobalFoundriesという元々である。
◇GlobalFoundries seeks ruling in IBM contract dispute-GlobalFoundries sues IBM (6月7日付け Reuters)
→GlobalFoundriesがIBMを相手取って提訴、GlobalFoundriesがIBM向けmicrochips製造を継続して行わず、両社契約のもと法的損害賠償$2.5 billionを求めている旨。
◇IBM, GlobalFoundries in Breach-of-Contract Spat (6月8日付け EE Times)
→IBMが、契約不履行でGlobalFoundriesを提訴、GFの2018年における7-nmプロセス開発中止に立ち返っている旨。
◇GlobalFoundries Asks Court to Reject IBM Lawsuit -IBM allegations comes as GlobalFoundries is reportedly preparing an IPO. (6月8日付け EE Times)
【Boschの半導体新工場】
Boschが6月7日、ドイツ・ザクセン州の州都ドレスデンに新しい半導体製造工場をオープン、記念イベントをオンライン開催したとのこと。最先端AIなど駆使しており、電動工具向け半導体生産を7月よりスタート、自動車メーカー向けについても3か月ほど早めた9月から開始、としている。
◇Bosch opens German chip plant, its biggest-ever investment-Bosch activates a $1.2B wafer fab in Germany (6月7日付け Reuters)
→自動車製造用半導体などpartsサプライヤ、Robert Boschが、$1.2 billionかけてDresden, Germanyにウェーハfab拠点をオープンの旨。「この工場の建設を決めた時点では、純粋に技術drivenであった。」と、BoschのExecutive Vice President, Automotive Electronics、Jens Fabrowsky氏。「300-mmに入っていく必要は明らかであったし、さらなるcapacityへの投資を必要とした。」
◇独ボッシュ、半導体新工場を稼働、「不足緩和に貢献」 (6月8日付け 日経 電子版 01:28)
→自動車部品世界最大手の独ボッシュは7日、独東部ドレスデンに半導体の新工場を開いた旨。最新の生産技術を導入し、生産能力は大幅に増える旨。自社向けが中心だが、間接的に半導体不足の緩和につながると期待する旨。同社の単独の投資としては最大の10億ユーロ(約1330億円)を投じた旨。当初の予定より6カ月前倒しで、まず7月から自社の電動工具向けに電力制御に使う「パワー半導体」の生産を始める旨。
【台湾でのコロナ感染】
台湾の半導体メーカーでのコロナ感染急増に関する内容を、以下の通り取り出している。今後の供給についての影響に注視を要するところである。
◇MediaTek reiterates guidance despite impact of KYEC fab suspension-MediaTek sticks with guidance, even with fab suspension (6月7日付け DIGITIMES)
→台湾北部の工場でのCOVID-19感染clusterから2日間半導体生産を中止したOSAT、King Yuan Electronics(KYEC)の主要顧客であるMediaTekが、第二四半期の販売高guidanceを維持の旨。
◇Taiwan's coronavirus outbreak, drought and power cuts force semiconductor makers to ramp up contingency plans -COVID-19 outbreak, drought in Taiwan may rile IC industry (6月8日付け South China Morning Post (Hong Kong))
→台湾の半導体メーカーが、coronavirus感染急増、干ばつおよび不安定な電力供給に取り組んでいる旨。このリスクが合わさって、台湾の半導体業界の生産性に衝撃を与える恐れの旨。
◇台湾、半導体工場で感染急拡大、京元電子など、供給に懸念 (6月10日付け 日経産業)
→台湾大手の半導体企業で、新型コロナウイルスの感染者が急増している旨。当局は7日、世界に多数の顧客を持つ京元電子(パッケージング封止大手)でクラスター(感染者集団)が発生し、同日までに206人の感染者を確認したと発表、6月の売上高は最大35%減る見込み。半導体不足が深刻化するなか、今後の供給への影響が懸念される旨。
≪グローバル雑学王−675≫
超富裕層時代の到来、富裕層の新潮流、そして作られる新貴族文化、と見てきたが、最後は、危うさはらむ新格差社会として、
『スーパーリッチ――世界を支配する新勢力』
(太田 康夫:ちくま新書 1524) …2020年10月25日 第2刷発行
より、3回に分けていくつかの切り口での実態に迫っていく、今回はその3回目であり、今回でこの新書も読み納めとなる。米国大統領選挙ここ2回の経過での民主党バーニー・サンダース議員の特に若者の間での非常に高い人気ぶりは、まだ記憶に残るところ。米国と我が国を比較して、格差の開きは長らくいろいろなところで感じてきているが、ここでも以下取り上げられて、富裕層以外が政治力を行使することはますます難しくなっている実態があらわされている。そこで、本書の締めとして、目立ちすぎた格差を是正する新秩序の模索に向けて、変革の機運が確実に強まっていく、としている。コロナ後のNew Normalとともに、変容対応が求められていく。
第四章 危うさはらむ新格差社会 …3分の3
(5)問われる民主主義
◇「コロナでも配当」で問われる株式文化、従業員は解雇しても配当維持に批判
・1990年代から富裕層の富を膨れ上がらせたのは、インターネット社会の到来とともに右肩上がりで上がった株価の高騰
・新型コロナウィルスの感染拡大
→一部の企業に株主を取るか従業員を取るかの選択
→富裕層に手厚い株式文化の在り方が問われる事態
・欧州中央銀行(ECB)は2020年3月27日、銀行などに対して配当支払いと自社株買いを先送りするよう要請
→銀行は新型コロナウィルス危機時において、実体経済を支える力を維持する必要
→先の金融危機時には各国政府が銀行に公的資金を投入して事実上救済したのも事実
→家計、中小企業に対する社会的責任を優先することを求めた
・一方、米国では配当へのこだわりが強い
→配当をするかどうかは、その企業の判断
→米国では株主還元が禁じられるのは、大規模経済対策によって政府から資金援助を受ける企業だけ
・ただ、近年企業の社会的責任に対する見方は厳しくなっている
→とりわけ自社株買いについては、従業員を解雇しながら実施すべきではないとの意見が強まっている
・新型コロナの世界的流行(パンデミック)という特殊な状況がきっかけ
→富裕層を優遇する株式文化にメスが入り始めた
◇サンダース人気の意味、行き過ぎた格差に警鐘
・米国で民主党の大統領候補指名を目指したバーニー・サンダース(Bernard "Bernie" Sanders)
→2016年、2020年と2度にわたり巻き起こした旋風
→社会民主主義的な主張が受け入れられる素地ができていた事実を物語る
・富裕層と対決し、富を配分するという社会民主主義的な主張を一貫
→2008年、時代の流れが急変、リーマンブラザーズの破綻、異端のサンダースが支持基盤を広げていった
・サンダースを支えたのは、大学生を中心とする若者
→高騰する教育費の負担、大学卒業時に学生ローンを抱える、ミレニアル世代の若者
→かつてのアメリカン・ドリームを追い求めることは非現実的になっていることに気づきだした
・サンダースが掲げたのは、大学の授業料の無償化、学生ローンの免除
→市場原理主義の陰で貧しくなった学生に寄り添ったもの
・サンダース人気が示したのは、格差の是正がメインテーマの1つに浮上しつつある米国の政治情勢
◇広がる富裕税待望論
・貧富の格差が社会問題化する中、解消の手段として注目されているのが富裕税
→1990年代初めの欧州の導入国は10か国超
→その後、税収が落ち込み、減っていった
→EUの場合、格差の是正が政治の焦点に
・一方、米国はこれまで富裕層増税には消極的
→米国は基本的に富裕層寄りの経済運営を続けてきた
→これまでと様相が違うのは、富裕層にも富裕税への支持が出始めていること
→優秀な人材が活躍できなくなると、国の競争力が低下するとの危機感が富裕層にも
◇政治は富裕層の特権か、民意反映システム構築の難しさ
・貧富の格差が持続可能な範囲を超えて広がったときに、それを是正できるかどうかは政治の在り方に
→中国で経済発展の路線を敷いた小平は、「先富論」の考え方
→所得の不平等さを測るジニ係数、格差は確実に広がっている
・その過程で中国の地方では、政府が人民を立ち退かせ、政府や党の幹部が巨万の富を得た
→習近平が進めたのは腐敗撲滅運動
→不正に蓄財した100万人以上が処罰
→ただ、その後も中国は成長を続け、腐敗とは無縁の富裕層が増えており、貧富の格差は簡単には縮まらない
→富裕層と貧困層の格差は、平等や公平を目指す社会主義の許容範囲を超えて広がりつつある
→富裕層を社会主義の中でどう位置付けていくのか、その手腕が問われる局面に
・米国では新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、富裕層寄りの政策が厳しく問われている
→多くの州で黒人の死亡率が白人に比べて高い状況
→人種による命の重さの違いを露呈
・富裕になった人たちは上手に政治をコントロール
→富の集中は進んだが、結果として民主主義とは折り合いが悪い世界が現出
・日本では中国や米国のような富豪が少なく、富豪による政治力の行使がそれほど目立っていない
→「上級国民」という言葉が使われているのは事実
→権力者に取り入る一部の特権階級が一般の国民とは異なる対応が容認される実態
→垣間見えた富裕層が優遇される事態
→カルロス・ゴーンが、保釈条件を破ってレバノンに逃亡した事件
→愚かな性善説に基づく出入国体制のすき
・国民をベースにした政治体制である民主主義が、お金の論理で捻じ曲げられつつある
→富裕層以外が政治力を行使することはますます難しくなっている
≪おわりに≫ 目立ちすぎた格差がもたらす新秩序の模索
・世界の貧富の格差を研究してきたトマ・ピケティ(Thomas Piketty)とエマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)
→米国で所得が上位10%の人々の所得の国民総所得に占める比率
→1980年 30%台前半
2000年 40%台半ば
最近 50%に
・促された競争を勝ち抜いた勝者が、富を蓄えていく
→その一方、競争から脱落した貧しい人々の賃金は増えないまま
→開いていく格差
・しかしそんな富裕層の時代は、転機を迎えつつある
→2007年から2008年にかけて起きた金融危機
→結果的にウォール街占拠運動
→新型コロナウィルスの世界的感染(パンデミック)
→同じ地域で所得の低い黒人の感染率、死亡率が白人より大幅に高い状況が現出
・市場原理主義がもたらした「金がすべて」の世界は、本当に正しいのかという疑念が世界的に強まっている
・最近、日本も例外ではないと感じること
→預貯金口座を持たない無貯蓄世帯
→1980年代前半 5%前後
1990年代 増加基調増す
2013年 30%台
→効率優先の政策が貧しい人々に襲い掛かる構図は厳然と存在
・ミリオネアの数は5000万人近く、増えすぎた富裕層は隠れようとしても、隠れられないマスに
→不満が高まれば、富裕層に格差是正の矛先が向くのは間違いない
→開きすぎた格差の拡大の、巻き戻しが起きることに
・変革への機運は確実に強まっている