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半導体産業に未来をかけるキオクシアのオーナー韓SK財閥

韓国でSKといえば、一般人にもなじみ深い、全国展開のSK給油所(ガソリンスタンド)か、スマートフォン事業者のSKテレコムを連想する人が多いだろう。産業人でもなければSK Hynixはなじみがないかもしれない。ところでSKとは何を意味するのだろうか?

SKとは、Samsung(三星)、Hyundai(現代)とならぶ韓国財閥の名称である。源流を戦前までたどると、Sは朝鮮の鮮(Sun)、Kは共同創業者の京都織物という日本の企業の頭字である。もっとも、韓国人の中にはSouth Koreaの略ではないかと思っている人も少なくないようだ。

図1 SKグループのロゴ(左上)と傘下の半導体関連企業のロゴ

図1 SKグループのロゴ(左上)と傘下の半導体関連企業のロゴ


SKグループ(図1)は、石油精製業(傘下のSK Energyは韓国最大の石油精製企業)や通信事業(SK Telecomは韓国最大の通信業者)を軸に成功してきた。しかし、創業者一族の崔泰源(チェ・テウォン)会長は半導体こそ未来の成長産業ととらえて、2012年に、半導体企業Hynixを買収し、社名をSK Hynix と変えた。同社はもともと現代(Hyundai)電子がLG半導体(旧金星半導体)を買収してHynix と改名したが、2001年に経営破たんし、その後、債権銀行団の管理下にあった。しかし、SK 財閥が買収後、急回復を遂げ、今やIntel, Samsungに次ぐ世界第3位の半導体企業に成長している。


SKグループは半導体材料製造にも参入

SKグループはこれに味をしめて(?)、その後半導体に留まらずに半導体材料メーカー買収にも乗り出した。2015年には半導体製造に必要な特殊ガスに強みを持つ韓OCI Materialsを買収し、会社名をSK Materialsに替えた。特に、三フッ化窒素(NF3)ガスに関しては世界シェア4割を誇るトップサプライヤである。日本法人であるSK Materials Japanは東芝の地元である四日市に本社を置き、日本の半導体メーカー各社にNF3ガスはじめ特殊ガスを販売している。さらに2017年には、半導体製造工程で窒化膜のエッチングに必要な高純度CH3F(モノフルオロメタン)ガスを韓国で製造するため、SK Materialsと昭和電工との合弁会社SK Showa Denkoが韓国内に誕生している。

SKグループは、去る8月に半導体を含むIT産業全般に使われる素材の開発および生産に関する協力組織「IT素材ソリューションプラットフォーム」を立ち上げた。早速、日本から輸出管理規制のかかったポリイミドや無水フッ化水素ガスをグループ内のSKC とSM Materialsでそれぞれ年内にも製造を開始するという。

SKグループはシリコン結晶、さらにはSiCウェーハも手中に

2017年に、SKグループは韓国唯一のシリコンウェーハメーカーであるLG SiltronをLGグループから買収しSK Siltronに社名に変更している。SK Siltronの最大顧客は現在、国内2大半導体メーカー(SamsungとSK Hynix)だが、米Intel, 米Micron、台TSMC、
キオクシア(東芝メモリ) はじめ広く海外企業にも出荷しており、今後は、SK財閥による投資資金により生産能力を拡大し、信越半導体、SUMCOに次ぐ世界3位の地位を固めようとしている。

同社は、本年9月に米国大手化学メーカーのデュポンからSiC(炭化ケイ素) ウェーハ製造部門の買収を発表している。SiCは電気自動車などの電力供給を制御するパワー半導体を生産するために使われ、電気自動車の普及拡大にともなって市場も急速に成長すると見込まれている。SKグループには大手エネルギーメ−カーのSKイノベーションが電気自動車用電池を製造しており、シナジー効果が狙えそうだと業界関係は見ている。日本政府が、7月から始めた半導体材料3品目の輸出管理を強化したが、さらに日本勢が世界市場で過半のシェアを握る半導体基板材料にも規制をかけてくるのではないかとのうわさが広まっており、SK グループは先手を打って次世代半導体基板といわれるSiC事業を買収したのではないかという見方もある。


図1 韓国唯一の300mmシリコンウェーハメーカーSK Siltronの本社工場 (韓国慶尚北道亀尾市) 出典:SK Siltron ウェブサイト

図1 韓国唯一の300mmシリコンウェーハメーカーSK Siltronの本社工場 (韓国慶尚北道亀尾市) 出典:SK Siltron ウェブサイト


SKグループはSK Hynix 通して東芝メモリにも出資

2018年6月1日、米韓日企業連合が東芝メモリ(現キオクシア)買収に際して、SK Hynixは3950億円を投資して議決権15%を獲得し、東芝メモリのオーナー(の1社)となった。
最初の10年間は議決権の割合をこれ以上増やせないという内規があるようだが、言い換えれば10年後には完全に買収することだってできるかもしれない。SK Hynix は、次世代メモリやナノインプリントの共同開発などを通してキオクシアとは以前から良好な関係にあるようだ。ところで、東芝メモリのM&Aを主導したのは、SKグループの崔会長の意向を汲むSK グループ全体の持ち株会社であるSKホールディングス(本社;ソウル)の投資部門であり、SK Hynixはその指示に従って実行役を担ったようだ。

グローバルな半導体産業エコシステムの構築目指す

 このようにSKグループは、積極的なM&Aにより半導体事業だけではなく、半導体周辺事業も手中に収めて、半導体産業のエコシステムを構築し、周辺産業を含む半導体ビジネスに未来をかけているように見える。SKグループは、半導体事業が、石油精製と通信事業に次ぐ第3の柱になりつつある。SKグループは、今後も半導体周辺企業のM&Aや協業(合弁企業の設立)も続けるだろうが、それは決してSK Hynixのためだけではなく世界規模の半導体産業エコシステム構築を目指したグロ−バルな展開のようだ。日本企業の韓国への誘致にも熱心だし、日本市場への売り込みも行っており、決して日本排除ではなくグローバルな視点でサプライチェーンを構築しようとしている。

(2019/11/01)
Hattori Consulting International 代表 服部毅
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