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原油高騰・下落の予測外れから見えた、予測の難しさと必要条件

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将来を予測するのは難しい。まずは当たらないと考える方がよさそうだ。占い師と同じで、「今の時点ではこちらの風が吹いているから予測はこうなる」、というような言い方しかできないが、アナリストは占い師と同様、常に逃げ道を作っている。最近つくづくこう思うのは、原油が1バレル140ドルまで上がった時のテレビインタビューで答えていた経済アナリストの予測がことごとく外れたからだ。ある人はすぐに200ドルまで行くと言い、別のアナリストは160ドルは目前と言い、誰も下がるとは言わなかった。

その後の洞爺湖サミットにおいて、各国首脳が原油高騰の理由を需要と供給とのアンバランスによるものではなく、投機によるものだと特に米国を非難した後、原油価格は下がり始めた。アナリストたちのテレビ討論会でも投機によるものがメインだと言っていたが、投機筋を動かす力には全くなっていない。というのは、日本のテレビでアナリストが話をしても米国の投機筋は相手にしていないからだ。

この意味で、各国首脳の発言は極めて重い。米国を除く各国首脳が投機筋をけん制する発言をした後に、原油は下がり始め110ドルまで下がった。先週末は反発して117ドルに上がったが、また112ドルまで下がった。米国を除く各国首脳が投機筋をけん制したため、投機側としてはしばらくの間、ほとぼりが冷めるまで自粛しようという気持ちが働いた。投機筋と言っても実際にお金で遊ぶ(マネーゲーム)のは人間である。モラルやけん制が働くと自然と自粛する。

実は、このブログや記事の中で、産業の動向や、技術の動き、変遷、新しいビジネスモデルの登場、など述べてきているが、予測的なとらえ方も多い。このため、一つの動きを紹介してもそれが将来に渡り主流になっていくとは限らない。ある時点では、伸びそうに見えても実は市場がついていっていなかった、というような現象が多い。このため外れることは少なくない。

かつて、GaAs(ガリウムヒ素)半導体を追いかけていた当時、ディスクリートから集積回路が出来、一歩進んで専用乗算器が出来、ALUが出来、高速SRAMが出来、GaAsコンピュータチップが目前に来ているように錯覚した時期があった。しかし、学会で発表される開発者に取材しても商用化への道は全く見えない。そこで、シリコンの製品開発エンジニアにもシリコン技術について取材してみると、実はGaAsが商用化されるチャンスは極めて少ないことがわかってきた。GaAsICを商用化するためのツールが何一つ入手できなかったからである。シリコンは微細化を進めればGaAs並みの性能が出せることが次第にはっきりしてきた。シリコンの微細化技術はGaAsのそれよりも何世代も進んでいた。結果的に、GaAsはシリコンに負けた。

しかし、最初からシリコンが勝つとは誰にもわからなかった。ある程度、GaAs技術がシリコン並みの生産を意識したデバイスができるようになってからはっきりしてきた。

1970年代前半に大学を卒業したころ、メディアではこれからは壁掛けテレビだ、エレクトロルミネセンス照明だ、化合物半導体だといわれていた。1970年ころ新聞社が有識者にアンケートをとったところ、壁掛けテレビやエレクトロルミネセンスは10年後に商品化されると予想した人は多かった。しかしいずれも商品化できなかった。80年ころ今後の10年で同じ質問に対しても壁掛けテレビは商品化できるという答えが多かった。もちろん1990年でもそれはできなかった。21世紀になってようやくその芽が見えてきた。エレクトロルミネセンスは80年、90年ころにはもはや忘れ去られていた。エレクトロルミネセンスは最近になりようやく日の目を見るようになった。

一方で1970年当時、電話機が今の携帯電話になるとは誰も予想していなかった。コンピュータがノートPCという形になると予想していた人はほとんどいなかった。たった一人、米国のエンジニア、アラン・ケイ氏だけが予測したが、彼はそれを実現するための仕事をしていたからだといえる。1980年ごろの日経エレクトロニクス誌には、「10万円ファックスを目指す」とか、「10万円ワープロへの道」とか、という記事が現れ、90年前半には「液晶パネルは1インチ1万円を目指す」というような記事が出ていたが、今から見れば予測がいかに難しいか、を表しているといえよう。

結局、どの技術が主流になるかどうか、誰にもわからない。しかし、技術が進んでくるとようやく技術を比較できるようになる。結局、一つの技術が商品化され、主流になるためにはさまざまな比較条件が必要となる。だから、必要条件が少ないときに予測することは占い師と同じ程度だといえる。無理を承知で予測すると外れることになる。最初の原油価格の高騰に対する見通しは、まさにこの点をテレビに登場したアナリストたちが見逃していたといえる。

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