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アルプス電気がホログラムを利用する新しい原理のカラープロジェクタを開発

アルプス電気は、ホログラムを利用する全く新しい原理のプロジェクションディスプレイを開発、そのプライベートショーで展示した。このホログラムディスプレイは、RGBの3原色のレーザーを使い、シリコンチップ上に液晶を載せたLCOS素子、そして100 GFLOPS以上の強力なプロセッサを使い、携帯プロジェクタへの応用を狙ったプロジェクタである。今回初めてカラーのビデオ映像を見せた。

ホログラムを利用する新しい原理のカラープロジェクタ


このデバイスは英国ケンブリッジ大学のCAPE(Centre for Advanced Photonics and Electronics)においてアルプス電気と共同で開発してきた産学共同プロジェクトの成果である。このディスプレイの利点は、LCOSという反射型デバイスを使うため光の利用効率が非常に高く消費電力が少ない、焦点調整が不要、多少の欠陥があっても欠陥として見えない、など多い。従来のプロジェクタと違い、光の反射を利用し、特に黒はパターンに作り込んでいるため、コントラストもよい。しかも、従来の液晶反射型プロジェクタとしてのLCOSとも違い、LCOSの表面を見ても画像は全く見えない。RGBのコヒーレントな光を当てなければ像として見えてこないという特徴がある。モバイルプロジェクタとしての用途を狙っている。ただし、高速のコンピューティング能力が必要となる。

このディスプレイは、ビデオ信号を位相変調してホログラムデータに変換し、それにRGBの光を当てビデオデータを映し出す。具体的な手順としては、RGBあるいはYUVなどの色データを2次元のFFT(高速フーリエ変換)プロセッサで計算し位相変調しホログラムパターンを作る。このホログラムパターンをホログラムフィルムなどに焼き付けるのではなく、LCOSのドットマトリックスに入力し、このLCOSにRGBのコヒーレントなレーザー光を当てることでビデオを映し出す。いわば位相変換の計算によってホログラムパターンを作り出しているようなものだ。RGBのレーザー光はレンズによって拡大しLCOS一面に当てる。LCOS全面のホログラムデータがRGBごとに再生されるという訳である。レーザー光はRGB3本をスキャンするわけではないため、メカニカルスキャナーの設計は要らない。

実験では30フレーム/秒で画面を作り出すが、「これまでの実験では60フレーム/秒まで、また解像度はハイビジョンクラスまで映し出せる」と同社事業開発本部 部長笹川新一氏は述べる。ディスプレイの解像度はLCOSの解像度で決まる。アルプスは、RGBレーザー光源モジュールも参考出品している。モジュールの大きさは電極端子を除き、27.1mm×41.4mm×12mmと小型である。


2D Holographic Laser/LCoS Projector


FFT演算に必要な高速プロセッサは自社設計か他社製かどうか明らかにしていないが、英国ClearSpeed Technology社は低消費電力の超並列プロセッサCarnacを英国大使館主催の「英国モバイル・ワイヤレステクノロジーセミナー」で偶然にも発表、2次元ホログラムの位相変調に使えるプロセッサになっているという。ClearSpeedが開発したプロセッサの応用例の一つがホログラフィックレーザーLCOSプロジェクタ(上のスライド)である。

このプロセッサは、小さなピコプロジェクタからHDTVプロジェクタ向けまでカバーし、その性能はピコプロジェクタ用が1Wで102 GFLOPS(giga floating point operations per second)、解像度1080pのHDTVプロジェクタ用が5Wで410GFLOPSと高い。

ClearSpeed社は2002年に設立された英国のベンチャー企業。これまで高速のコプロセッサを開発してきたことから、サーバーやPCI Expressカード向けコプロセッサなどに向けて開発してきた。これまでのプロセッサCSX700は32ビットおよび64ビット精度のコプロセッサであり、その性能は消費電力10Wで96GLOPSを得ていた。


ClearSpeed社 Applications担当VP Simon McIntosh-Smith氏


今回、新たにプロセッサCarnacを開発し、組み込み用途に向けている。今回のホログラフィ画像処理用途だけではなく、自動車の衝突防止用レーダー信号の処理や、圧縮せずにビデオを送るWirelessHD処理向けの市場に向くとしている。まずは「成長の見込まれるピコプロジェクタ市場に向け、ホログラム画像を作るためのFFT計算にこのプロセッサを使っていく」、と同社Applications担当VPのSimon McIntosh-Smith氏は語る。

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