東芝、日立が自前のIoTシステムにこだわる?
多くの企業がアライアンスを組み、半導体チップ・端末設計・製造からネットワーク接続、クラウドでのプラットフォーム、データ収集・蓄積・解析、アプリケーション開発まで様々な企業と連携しながら、IoTシステムを構築するのに対して、東芝も日立もIoTシステムを自前で賄うと新聞各紙が報じた。
11月25日の日刊工業新聞は、「東芝、製造業のIoT化を一括提案−設置からデータ分析まで」と題した記事を掲載した。それによると、IoTシステムの装置へのセンサ設置といった生産現場の作業から、データ分析のクラウド構築まで対応する、と報じている。東芝は自動車や電機・機械業界にアピールし、2020年度に1000億円規模の売り上げを目指すとしている。
東芝は従来から展開してきた製造業向けIoTサービス「次世代モノづくりソリューション マイスターシリーズ」は、データの収集・蓄積から生産効率化などにつながるデータ分析・活用まで一連のソフトウエアとなっている。自社でITサービスとモノづくりの両方を手掛けてきた強みを生かし、現場に即した高度なデータ分析を実現するとしている。17年はじめには川崎市幸区の「スマートコミュニティセンター」にデモ設備「IoT検証センター」を新設する。東芝のような半導体工場を持つ企業は、IoTを使って製造ラインの歩留まり向上に努めてきた。東芝は、この成果を活かし「マイスターシリーズ」に展開するとしている。
日立製作所は、IoTを使い便利で安全な街づくりを支援するサービスに乗り出す、と28日の日本経済新聞が報じた。国内企業ではほぼ唯一、カメラやセンサ、人工知能(AI)、ネットワーク技術など必要な技術を全て自前でそろえる強みを生かし、駅の混雑緩和などのサービスを提供するという。専門部署を設け2020年に1000億円の受注獲得を目指す。鉄道会社や不動産開発企業向けに売り出すとしている。例えば、鉄道駅の開発では、レーザーセンサを増設し、駅構内に物体の大きさや距離、速度を測定する。監視カメラによる画像解析と組み合わせ、構内を行き交う人の数や通行ルートを分析、頻繁に通行人が滞留する場所を割り出したうえで、構内設備の再配置や運行ダイヤの見直しなどを助言するとしている。
東芝、日立ともすべて自社でシステムを賄うようだが、他社との協力に関しては顧客以外何も述べていない。東芝や日立のシステム関係者の話を聴く限り、センサを含むIoT端末は外から購入するだけ、と見ている。これに対して、GEはクラウドプラットフォームと呼ぶOSのようなソフトウエア基盤Predixを持ち、その上でデータ収集・蓄積・解析のソフトや見える化するためのアプリケーションソフトなどを構築しているが、他社とのコラボを組んでいる。PredixをプラットフォームにするIndustrial Internet Consortiumには、GEに加えAT&T、Cisco、Intel、IBMの5社が創設メンバーである。最近では日立や富士通も加わっているが、東芝や日立はPredixを利用するのかしないのか、言明していない。
IoTシステムで顧客の価値は、IoT端末からのデータを情報に変換したもので決まる。いかにデータ情報を得て顧客の要求を知るかがIoTビジネスの成否のカギを握る。半導体やモジュールなど、顧客に触れる機会の多い企業が、IoT向け半導体やモジュールをただ提供するだけでは、肝心の価値となるデータ情報をシステムサイドに取られてしまう恐れがある。そうなると以前と同じ部品屋のままで変わらない。そうならないためには、さまざまなエコシステムやアライアンスを通じ、データ変換情報を握る必要がある。そのための営業・マーケティング活動がビジネスの成否を握るだろう。
IoTシステムをクラウドへつなぐネットワークでも動きがある。セミコンポータルでも報じたように(参考資料1)、SigFoxのようなIoT専用の低速データレートのネットワークを使うグループと、通信オペレータの高速セルラーネットワーク上で、低速IoTの通信データを多数送れるようにするNB-IoTやCat-M1などの規格を使うグループがある。ソフトバンクは、NB-IoTを利用するIoTネットワークの実験を始めると22日に発表した。次世代セルラーネットワークの5G (第5世代の通信)プロジェクトの一環として、2017年夏ごろのネットワーク構築を目指す。実験では、3GPPが定めた最新の規格バーション13に準拠する。この規格は低速だが、エリアのカバーは広く、低消費電力、低コストという特長がある。
参考資料
1. IoT専用ワイヤレスネットワークの競争激化 (2016/11/25)