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IoT専用ワイヤレスネットワークの競争激化

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IoT向けのワイヤレスネットワーク競争が激化している。これまでのIoTでは、従来のM2Mで用いられたセルラーネットワークと、ワイヤレスセンサネットワークでのメッシュネットワークを使ってインターネットへ接続していた。新しい動きはIoT専用のネットワークを提供しようとするもの。

図1 LoRa Allianceの認証を受けたさまざまなIoT製品 出典:LoRa Alliance

図1 LoRa Allianceの認証を受けたさまざまなIoT製品 出典:LoRa Alliance
https://www.lora-alliance.org/Products/Certified-Products


これまでセンサ端末デバイスをインターネットにつなげるためには、セルラーネットワークやWi-Fiなど既存のネットワークを利用するしかなかった。M2Mは3GやLTEなどの既存のセルラーネットワークで通信していた。農業や橋梁などで大量のセンサを活用するワイヤレスセンサネットワークでは、センサからセンサへデータを送り最後にゲートウェイを通してセルラーネットワークやWi-Fiにつないでいた。

しかし多くのIoT端末は、温度や振動、ジャイロ、磁気などのデータを送るだけの、1kbps程度と遅くてもかまわないネットワークで十分だった。しかし、既存のセルラーネットワークではデータレートは数十Mbpsとオーバースペックだった。これではネットワークの有効活用にはならない。また速すぎて低電力化が難しかった。IoT端末で使うバッテリを、5年〜10年は持たせたいからだ。

そこで、IoT専用の1kbps程度で十分というワイヤレスネットワークを作ろう、という動きが出てきた。IoT専用のワイヤレスネットワーク技術をLPWA(Low Power Wide Area)と呼び、低価格・省電力のIoTネットワークとして、各国でサービスが始まっている。その一番手がフランスのSigfoxだ。同社はIoT専用の通信オペレータ(キャリヤ)であり、すでにワイヤレスネットワークを敷設してきた。日本でも京セラコミュニケーションシステムは、SigfoxのIoTネットワークを展開することをこの11月に表明している(参考資料1)。2017年2月からサービスを開始する。Sigfoxはすでに欧米を中心に24か国で展開しており、2018年には60ヵ国に広げる計画だ。Sigfoxはデータレートが100bpsと極めて遅いが、基地局1基で半径数十kmをカバーする低消費電力のネットワークシステムである。この基地局をゲートウェイと呼び、基地局からセルラーネットワークを通じてインターネットに接続する。

もう一つ、LoRaと呼ばれる規格があり、これを標準化・認証するアライアンスもある。LoRa Allianceは、ファブレス半導体のSemtechとIBM、中国の通信機器メーカーZTE、フランスの通信オペレータOrangeなど400社以上の団体が加盟しているコンソシアム。仕様を標準化して認可を与え世界の企業同士でLoRa仕様を利用する仕組みである。LoRaは11月15日に最新版のLoRaWAN規格バージョン1.0.2を発表(参考資料2)、使える地域を欧米から、韓国、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムへと広げた。

Sigfox、LoRaWANとも免許不要の周波数帯を利用し、Sigfoxが920MHzのISM(工業・科学・医療)バンドを使うが、LoRaWANは各国の電波利用事情を考慮して国ごとの免許不要周波数帯を使う。共に、各IoTデバイスと基地局(ゲートウェイ)との間を双方向通信できる。Sigfoxは920MHz帯を利用し、データレートは固定の狭帯域通信だが、LoRaWANはデータレートを0.3kbps〜50kbpsの間で周波数をいろいろとホッピングする、拡散スペクトラム通信技術を使い、干渉を防ぐ。データレートの選択は通信距離とメッセージ間隔とのトレードオフとの関係がある。


図2 セルラーネットワーク上で使えるIoT専用規格 出典:Ericsson

図2 セルラーネットワーク上で使えるIoT専用規格 出典:Ericsson


こういったIoT専用ネットワークに対して、既存のLTEやこの先の5Gネットワーク上でIoT専用の遅いデータレートと狭帯域で多数のIoTデバイスの通信を確保しようという動きもある。Ericssonが進めているのはNB-IoTと、Cat.M1(Catはカテゴリ)という規格である。これは、LTEなどのセルラーネットワークの周波数帯域、例えば20MHz上に200kHzの狭帯域(Narrow Band)を利用する方式だ。20MHzの帯域に100個のIoT通信ができる計算だ。

LTEでは、低コスト・少データ量・多端末を特長としているが、5Gではさらに低遅延が要求される。そのためには新しいチップとモジュールの開発が必要になるが、すでにIntelやHiSiliconからNB-IoTのチップが提供され、U-bloxやGemalto、華為、Telitなどがモジュールを製造している。またCat.M1規格についてもSequans、Altair、Qualcommがチップを、SierraやWNC、Gemalto、U-blox、Telitがモジュールを提供している。OSの動作確認と共にチップやモジュールの機能も確認中だ。

データレートはNB-IoTが周波数帯域200kHzで21/62kbps、Cat.M1は1.4MHzで800kbps以下/1Mbpsとなっており、NB-IoTの方がより低速だが、より低消費電力を指向している。通信距離はLTE携帯端末の7倍以上も広がる。通信が途中で途切れると、送信し直すが、NB-IoTでは最大2048回まで送りなおせる。この方式によって、距離が遠くても遅いデータレートで通信できるようになる。1基地局(セル)当たりにサポート可能なIoT端末はNB-IoTが20万デバイスだとしている。


参考資料
1. IoTネットワーク「SIGFOX」を日本で展開し、LPWAネットワーク事業へ参入 (2016/11/09)
2. LoRa Alliance Accelerates Global Reach of LoRaWAN Technology with New Specification Release and Announce The North American Certification Program Schedule. (2016/11/15)

(2016/11/25)

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