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AIデータセンター電源を高効率へ;Infineon、ルネサス、STMicro

パワー半導体の新しい市場としてAIデータセンターの電源に注目が集まっている。Infineon Technologies、ルネサスエレクトロニクス、ST MicroelectronicsなどがAIデータセンターの電源を根本的に見直し始めた。AIデータセンターは大量の電力を消費することから電源システム全体を見直そうという訳だ。少しでも無駄な消費電力を減らす。

AIデータセンターの消費電力は大きく、現在、世界全電力の2%を占めているが、2030年には7%に急増するという予測もある。このためデータセンターを設置する国は電力問題を真剣に検討するが、国によってはデータセンターを作らないという所もある。平均的なAIデータセンターの電力効率は85%に留まっているという。つまり15%が無駄な電力となっている。これを8〜10%改善しようというもの。

250kWから1MW ラックあたりのアーキテクチャの進化 / Infineon Technologies

図1 データセンター内の電源供給システム 出典:Infineon Technologies


それを解決するためのソリューションの一つが、データセンター内の電源を400Vの高電圧で各サーバーラックへ供給しようというものだ。現在は、送電線からの交流10〜34.5kVからデータセンター内のコンピュータラックに供給し、その中で直流48Vに変換し、12Vなどへ降圧している(図1)。このシステムを、送電線の交流高電圧から400Vの直流に変換するためのパワーラックを設け、そこからの電力をサーバー内に供給する。電力容量を増やすために電線を太くして電流容量増やすのではなく、電線を太くせず電圧を上げることで既存の電線を使えるだけではなく、電線コストを上げずにすむ。また、サーバーラック内までの建物内の長い距離を交流が走ると損失が顕著になってくる。

送電線からの高圧交流電力を、データセンター内の入り口でまずPSU(Power Supply Unit)を400Vに変換するだけではなく、無停電電源とするためにBBU(Battery Backup Unit)とスーパーキャパシタ電源も並列に用意する。BBUは停電になったための電源であり、スーパーキャパシタ電源は瞬時停電などのわずかな時間の停電を補うためにある。

そしてPSUから直流400Vをサーバーラックに導入する。ラック内では、400Vを48Vに降圧し、さらに12V、5VなどへとDC-DCコンバータ電源を使って変換する。その最終電源をサーバーあるいはボードに供給する。またプロセッサやGPUなど低電圧・大電流のチップには供給電圧を1V前後まで下げ電流容量を上げたPOL(Point of Load)電源を用いる。


Infineon、POL電源を基板裏から配置

Infineonは、プロセッサやGPU、AIチップなどのボードの裏側にPOL電源を配置し、電源ラインの短縮化を図っている(図2)。そのために背面実装型のパワー半導体を配置する。


垂直型電力供給により、AIデータセンターでの電力損失を削減 / Infineon Technologies

図2 AIチップなどのプロセッサには裏面に実装したPOLから給電する 出典:Infineon Technologies


こういった電源全てにパワーMOSFETやGaN、SiCなどのパワー半導体を使う。いわば適材適所にパワー半導体を配置する。Infineonは、3.3kW、8kW、までのPSUにSi、SiC、GaNの全てのパワー半導体を用意している。今年から来年にかけては12kWのPSUリファレンスボードを提供する。しかし、400V以上の電圧を扱う場合にはSiCやGaNのパワー半導体を使い、高速スイッチングが可能になるためコイル(インダクタ)やトランスを小型にできる。

ラック当たり250kW~1MWの電源が求められる2026年〜29年には、ソーラーパネルや風力発電、バッテリシステム、水素生成システムなどでは、データセンターの電源との間で電力のやり取りが生じることになる。そのエネルギーを双方向にやり取りする場合を想定して、従来のトランスからSST(Solid-State Transformer)を使うことになり、ここに対応する2.3kVのSiCモジュール用意している。

もう一つの需要として、ソリッドステート・サーキットブレーカーに使うパワートランジスタとしてSiC JFET(接合型電界効果トランジスタ)を開発している。常時電流を流し、過電流の時に回路を遮断するという機能を持つトランジスタとして高耐圧であり、低オン抵抗でもあるからだ。JFETはノーマリオンのトランジスタだが、カスコード接続により実質的にMOSFETのようなノーマリオフにできる。


ルネサス、GaNで400Vのデータセンターに給電

2024年にTransphormを買収してルネサスはGaN技術を手に入れた。現在、旧富士通の会津工場で6インチのGaNウェーハを使いパワー半導体を生産している。8インチウェーハでの生産は米Polar Semiconductorにファウンドリ委託している。第4世代プラスと呼ぶ、耐圧650Vでオン抵抗30mΩのGaNパワートランジスタを量産中だ。狙い目は、400V系のAIデータセンター。PSUに応用した場合の電力効率をSiCと比べると、4kWのPSUでは10〜30%電力損失が低い(図3)。


GaNの性能:4KWの電源供給ユニット(PSU)向けに10-30%低損失 / RENESAS

図3 GaNを使った4kWの電源PSUの損失が最も低い 出典:ルネサスエレクトロニクス


現在最大7.5kWのPSUボードを生産しているが、第5世代のGaNトランジスタはオン抵抗を半分の15mΩに減らす計画だ。Transphormではかつて耐圧1200VのGaNを開発したこともあり、10kWのPSUも視野に入っている。

SiC材料の供給でWolfspeedと10年契約を結んでいたが、Wolfspeedの破産法申請したことで、再建支援契約を結び、2025年度第2四半期(4〜6月)の累計連結決算で2350億円の損失計上を行った。これはWolfspeedの再建を主眼に据えた契約であり、SiCから撤退した訳ではない。SiCは現在中断している状態だとしている。


STMicroelectronics、GaNをSiPに実装

SiCパワー半導体市場でトップを行くSTもGaNをこれまで開発してきており、5月には8インチGaN-on-Si技術を持つ中国のInnoscienceと提携した。STはこれまでTSMCをGaN-on-Si技術のファウンドリとして委託してきたが、TSMC側がこの生産を中止したため、ファウンドリとしてInnoscienceを使うことになった。

STは、これからのAIデータセンター向けにSiP(システムインパッケージ)技術による製品を開発中だ。同社は一つのリードフレーム上に数チップを搭載するSiP技術をパワーシステム向けに開発してきた。例えばMasterGaNシリーズ(図4)と呼ぶICは、シリコンBCD(Bipolar CMOS DMOS)プロセスによるゲートドライバと、650VのGaNパワートランジスタを1パッケージに納めたチップ。別の例では、ST32マイコンとドライバを1パッケージにSiP 集積した製品もあり、パワートランジスタを外付けする。


EVL250WMG1L: MasterGaN1L搭載250W LL共振デモボード

図4 STMicroelectronicsのGaNパワー半導体MasterGaN


STはSiPパッケージを集積したパワーICをモータ制御ICなどパワーICに活用している。また、SiCに関してもこれまでのクルマ向けから、それ以外の用途としてAIデータセンター市場も視野に入れており、2030年までの直流800Vシステムもロードマップに加えている。

(2025/07/29)
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