グローバルの力を活用することが成功へのカギ
John Moor氏、マーケティングディレクター、National Microelectronics Institute
英国のNMI(National Microelectronics Institute)が半導体産業復活を賭けて、グローバルな協力から次の時代への成長を求め動き出した。NMIは日本のJEITAに似た非営利団体であるが、日本のエレクトロニクスメーカーとのコラボレーションを求めてこのほど来日した。マーケティングディレクターのJohn Moor氏にその実態を聞いた。
英国のNMI(National Microelectronics Institute)が半導体産業復活を賭けて、グローバルな協力から次の時代への成長を求め動き出した。NMIは政府からの出資は全くなく、半導体に関係する企業が出資して設立した非営利団体である。日本のJEITAに似ている。EMIをそのまま訳すと、「全英マイクロエレクトロニクス協会」になるかもしれないが、実態は「全英半導体ビジネス協会」である。日本のエレクトロニクスメーカーとのコラボレーションを求めてこのほど来日した。マーケティングディレクターのJohn Moor氏にその実態を聞いた。同氏は以前、HPC分野のClearSpeed Technology社の設立メンバーの一人で副社長でもあった。また2000〜2002年にFSA(ファブレス半導体協会)の役員を務めていた。
Q(セミコンポータル編集長):NMIの役割は何ですか。
A(John Moor氏):英国産業界の技術開発と製品開発を通じて、会員企業の競争力をつけ成功に導くお手伝いが主なミッションです。業界に拡散している情報を共有したり、情報共有のためのネットワークを作ったり、新しいビジネスやアライアンス、コラボレーションを通じてイノベーションのあり方を追求したりします。原材料や製造、設計、サポートサービスなどのサプライチェーンを通してコストダウンを図ると生産効率を改善できます。より詳細な半導体統計や、ベンチマーク、コアコンピタンスに関する情報を提供したり、トレーニングや研修などによりスキル開発を支援したり、業界の代表として英国政府や貿易産業省などへの働きかけをしたりします。
会員には企業だけではなく、学会や国の研究機関、行政までが含まれます。外国企業とのコラボレーションも進めます。
NMIのスタッフ数は7.6人と少なく、それぞれ業界で20年以上の経験をもつベテランのスタッフが揃っています。実は私は元エンジニアで、NMIに加わる前はHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)分野のファブレス半導体企業ClearSpeed Technology社の設立者の一人で副社長も務めておりました。0.6人としたのは専従者ではないからです。取締役会のメンバーには英国企業だけではなく、英国に現地法人を設立した欧米企業のマネジャーや大学教師も含まれます。会員メンバーの中には、ソニーや富士通、ルネサステクノロジ、松下電器産業など日本の企業も含まれています。
Q:NMIのコアコンピタンスとは何ですか。得意な分野のどのような情報を提供するのでしょうか。具体的には?
A:NMIのメンバー企業が得意とする分野を紹介しましょう。LSI設計のデジタル、アナログ、ミクストシグナルの中では、システムレベルの設計と検証、組み込みソフトウエア、リコンフィギュラブルなプラットフォームとFPGA設計、アナログ&ミクストシグナル設計、パワーエレクトロニクスです。
さらにファウンドリとのネットワークを通じて、DFM(製造容易化設計)や、故障解析、キャラクタリゼーション(特性評価)、信頼性技術、LSIパッケージング技術を提供します。
LSIプロセスに関しても製造装置やプロセス運用、技術的ノウハウなど、ベストな製造技術を紹介します。
Q:来日の目的は何ですか。
A:日本の大手メーカーとコンタクトするためです。特に、グローバルなブランド力を持つ日本の大手メーカーは製造が得意です。英国の中小企業はイノベーティブなIPを持っています。英国のIPを日本の製品にインテグレーションして革新的な製品を作るのです。差別化でき、かつ新しい製品を日本のブランド力を利用して世界に売るのです。このようにして相補的な関係を構築すれば、世界的な競争力を持つことができます。
Q:具体的にどのようにして知識を提供、共有するのでしょうか。
A:セミナーなどのコンファレンスです。2007年の1月からほぼ毎月のようにセミナーを行っており、そのテーマは以下のようなものがあります。システム検証、プラスチックトランジスタ、故障解析、キャラクタリゼーション、信頼性評価、RF/ミクストシグナル設計、FPGA設計、組み込みソフトウエア、LSIパッケージ技術、DFMなどです。
Q:なぜ英国ですか。
A:英国には海外からの企業が圧倒的に多いのです。英国に現地法人を持つ外国企業は全体の73%で、さらに英国で上場している外国企業は7%います。残りが英国企業です。グローバルな海外企業は英国での設計力を求めてきています。
メンバー企業は英国だけではなく、米国、欧州大陸の企業も多いので、例えばDFMでは、メンターグラフィックスやシノプシス、ケーデンスの取り組みを知ることができます。これら米国企業の英国法人拠点を利用して設計するのです。英国で設計すればいろいろな設計ノウハウを手に入れることができます。ここ数年で1万人の設計リソースを使って452件以上の設計例があります。
こうして設計されたLSIの最終製品で多い分野は通信とワイヤレス、次にオーディオ、ビデオ、ネットワークが続きます。設計分野としてはアナログとRF、ミクストシグナルを合わせて50%にも達します。
今、半導体ビジネスはグローバル化を上手に活用することが成功のカギとなっています。英国の設計力を活用し、日本の製造能力やOEM能力と合わせると、イノベーティブな製品を素早く市場へ出すことができます。